「えーと、まずは私のスリーサイズ? テストに出ないから覚えなくていいよ。
次は……私のバストサイズ? 見てのとおり、きょぬーのおねーさんよ。次、私の年齢! 年齢不詳のおねーさんということで!
多分歳食っていると思うけれど――ほら、前にも言った通り、フェニックシアの孤児と同じ補正がかかっているからわからんのよね。
って、多分この辺は何度か同じ質問しているわよね……いい加減やめなさいよね!」
さらに笑いがこみ上げてきた。軽快なトークとジョークが入り混じってなかなか面白い講義であることにティレックスは圧倒されていた。
いや、てか、これって講義なのか? 前にもって――何度かやっているのか。
「と、あとはおなじみのセクハラ系質問も多数取り揃える中……、とうとう自重するって言葉を知らなくなったみたいね、
今までおねーさんの下着は何色って質問があったけど、パンツは何色って――」
笑いがやまない。
質問内容としては完全にアウトな内容だがティレックスは案外冷静だった、当の本人から既に教えてもらっているためである。
あえて言うなれば、結論から言うと履いてないのは確かで、下着代わりにミスリル銀繊維の布で全身を覆っているのは確認している。
それを下着兼防具代わりに身にまとっているらしく、彼女の防御力を底上げしているようだ。
それを示すかのように、それと同じ生地の布――スカーフサイズの布を出し、近くにいる女性に渡したお姉さんは――
「これ、特別にあなたに上げる。どう? 結構頑丈でしょ?」
その女性は強めの力で布を引っ張っていたが、
「本当ですね! これ、なかなか破れないです! でも、金属を身にまとうってことですよね?」
「いい質問ね、確かに金属繊維だけどかぶれたことはないわ、
伝説にも名高いあのミスリル銀だからだと思うけど。
やっぱり強さを目指すのなら、自身の戦技を磨いたり武具を選んだりとかだけでなくて、
自身で戦技や武具を開発できるやつでないといけないということの表れよね。」
確かにリリアリスやリファリウスを見ているとそう思えてくる。
名うての剣士がよく自分の能力を最大限に発揮するため、
高名な流派の技を修得しつつ、名のある刀匠からすばらしい性能の武器を作ってもらうという話があるけれども、
彼女らの場合はその両方を自作する段階から見事にこなしているのだ。
自分のことを一番知らないのは自分だとか言っているリリアリスだけど自分のことを一番理解しているのも自分だということのようで、
自分自身に見合った武器やミスリル銀の布を作り出しているという点や魔法剣をいとも容易く使いこなしているあたり、とてつもない強さを秘めていることがよくわかる。
と、それはさておき、何故かハレンチな質問から彼女の強さに対する考え方が垣間見えたようである、世の中どう転ぶかわからないものだ。
お姉さんの講義もとい、軽快なトークショーは続いた。
「出身地は……わかんない。フェニックシアの孤児と同じ補正なので不明。そもそも個人情報なので却下。
この武器どこで買ったのか――これは初見の方の質問かしらね。これは自作品なので非売品です……と。
それから――」
すると、お姉さんはとある一つの質問に注目した。
「これはまた大胆な質問が来たわよ。
アリエーラさんと付き合うにはどうしたらいいですか、ですって。」
アリエーラさんと言えば――ティレックスはあの言葉お思い出した。
「アリは別格かな――彼女とは心で通じるものがあるからね。
同じ”ネームレス”同士でも、彼女だけは特別に心同士でシンクロしているのよね。
お姫様とシンクロしているのよ、同じ女騎士ポジのフィリスのほうでなくて――」
リリアリスとシンクロしているらしいお姫様ポジの彼女のことか。
ルーティスで人気なのだろうか?
ティレックスはそう思っているとお姉さんはスマホを取り出し、その人の画像をモニター側へしぶしぶ出した。
「……まあ、この学園でも以前お世話になっていたし、たまに来ているからね。
それに、学園側が最新のアリの画像出せってうるさいのよ、まったく。
これ、絶対に学園関係者の質問よね!」
再び笑いが。それにしても、モニタに映っているアリエーラさんという人はとても綺麗な人だった。
「知らない人もいると思うから言うけど、彼女、私の親友なのよ。で、見ての通りのルックスだから――」
すると、お姉さんは右手に例の剣を出し、左手には風の魔法をまとわせながら恐ろし気に言った。
「アリと付き合うための条件はこの3つ! 1つ、付き合う前に死を覚悟しろ!
2つ、そもそもどこの馬の骨とも知らないヤローは却下! 人生から退場させられてももんく言うな!
そして3つ、アリと付き合いたいというやつはこの私を倒してからにしろや!」
最後の1つはものすごい形相で言った。
男性陣からの笑い声はなく、女性陣からの笑い声だけがあたりに響いた。なんだこれは――
「以上! 次――あ、でも、アリの話をしないといけないわね。」
「よく、魔法を純粋に魔法として繰り出す技法と、
魔法”剣”として繰り出す技法の違いについて論争されることがあるんだけど、
今回の質問でもいくつか出ているわね――」
お姉さんはその質問を出した。
「リリアさんは魔法剣の繰り出し方についてどのように考えているのか、
リリアさんは魔法剣というものをどのようにとらえているのか、
デモで使用した魔法剣は、むしろ魔法として繰り出しているように見えますがどうでしょうか、etc, etc...。」
これは意外とよくわかっていない部分である。
実際、ティレックスも言われて初めて気が付いた部分である。
それは、魔法剣という一つの極意として捉えている者が多いこともあり、
一つの流派として成立しているもがあるためである。
例えばエクスフォスの”媒剣術”やティレックスの”月読式破壊魔剣術”というものがある。
しかし、お姉さんの答えは意外とあっさりしたものだった。
「そんなの大した問題じゃあないわよ。何故かというと答えは使う人の意思、これに尽きるからね。」
そんな! 彼女の答えに会場は動揺していた。何人か挙手をしていたが、各々端末に気が付くと、文字を打ち込んでいた。
もちろん人数的な問題でチャットツールを使用しているのでその内容はお姉さんのほうにも伝わるハズである。
しかし、その内容を確認しないうちに彼女は答えていた。
「何故かというと、例えばこういう魔法剣があるわけよ。」
お姉さんはその技をやって見せた――これは? どこかで見覚えがあるような。
いや、しっかりと確認した記憶はないけれども、こういうものがあることは知っていた。
「これは”流転のバディファ”を語るその人が使う魔法剣、彼らは”媒剣術”と呼んでいる極意のうちの1つなんだけど、
彼のこの技について、単に魔法と呼べるものなのかどうかもなかなか線引きできないでしょ?」
流転のバディファの技、金属カッターのようなものを生成し、飛び道具とする殺傷性能の高い攻撃技だ。
しかし、その”媒剣術”というのは紛れもなく”魔法剣”による繰り出し方を応用したものなので、
魔法というよりは物理的な攻撃方法で、物理的な攻撃方法である以上は魔法剣のほうに該当するといわれる。
「それに、私のように我流で魔法剣技を考えている人にとっては特に線引きが難しいと思うのよ、
そもそも魔法を繰り出している、というわけでもない技も多いからね。」
なんかわかったような気がする。
お姉さんは今の話のまとめとして、モニターにスライドを映し出した。
魔法剣、昔は魔法をまとった剣として利用していたからそう呼ばれているだけで今は違う。
今はその技術を応用してさまざまなパワーソースをまとって利用しているわけだから、
もはや”魔法”というものでさえない可能性が高いということか。