クラウディアスへ行くのは先の話、その前に2人はルーティスへと上陸した。
ルーティスと言えば先の大戦にて、一度はその学び場を異国の侵略軍によって脅かされたところでもある。
元々は独立した自治区だったのだが、どの勢力からも戦争の要所にして非常に重要な拠点となる立地のため、しばしば狙われていた。
ルーティスに距離的に一番近いのがセラフィック・ランド連合国だが、
当時のセランドは戦争による影響とフェニックシア消滅の影響でそこまで手を回している暇がなかった。
ゆえに、次に近いアルディアスがといいたいところだが、こちらはこちらでマウナ軍からの激しい攻撃でやはり余裕がなく。
結局次に近いディスタードのガレア領――当時のガレアはランスタッド軍の治める管轄であり、
大昔の大戦の縁もあってかランスタッドのディアス将軍が南部の国への対策が命じられることとなる。
戦争のためにルーティスの学園区のある北部とは反対側のルーティス南部をランスタッド軍が占領すると、
他国からの防御と攻めるための拠点として、一時的にルーティス南部を使用することになった。
なお、ルーティスは学術都市であり、このあたりでは多くの地域、
アルディアスはもちろん、セラフィック・ランドやルシルメアにクラウディアスにまで影響力のある都市である。
そのため、このあたりの地区には”学術都市不干渉条約”というのがあり、ルーティスを侵略することは禁止されている、
それはディスタードとて例外ではないのだけれども、それ以外の国にしてみれば知ったことではないということから、
ランスタッドがルーティスの南部を一時的に使用することになったのは例外的措置であった。
だが、それも辛くも失敗。バランデーア軍の進軍によりランスタッド軍は敗れ、撤退を余儀なくされる。
そのまま無防備となったルーティスはバランデーア軍に侵攻を許してしまうことになる。
しかし、ランスタッド解体によって新たに将軍として台頭することとなったガレア軍のアール将軍が名乗りを上げたことでバランデーア軍を撃退に成功する。
その後、ルーティスの守りの脆さを理由にガレア軍はルーティス島を占領した。
もちろん、”学術都市不干渉条約”を考慮しての行為のため、
ガレア領の特別指定自治区という枠を設けてガレア軍がルーティスを本格的に支配下におくことになる。
ガレア軍の政策としてルーティス学園の立て直しを行い、ルーティスは再建を果たすことに成功した。
以来、ルーティスはガレアの管轄地区ではあるものの、学園の方針に関してはディスタードからの干渉を一切行わない条約を締結、
結果的にルーティスとガレアとの間にはいい感じの関係で成り立っているようである。
そのため、ガレア軍がルーティスを支配下に置くことに関してはやはり条約のこともあって当時は賛否両論あったそうだが、
そう言った理由により、最近の風潮と同じく”ガレアだから”という理由であまり問題視されることはなく現在に至る。
確かに帝国の軍国主義的な考え方を他国の学び場に強要する政策なんてどう考えてもおかしいだろう、
干渉しないというのはそういうことを危惧してのことである。元々”学術都市不干渉条約”を結んでいたのもそれが理由である。
とはいえ、ガレア軍も知識人の集まり、時折、帝国という括りとは関係なしにガレアからの臨時講師がやってくるのだという。
そして、この度の臨時講師が――
「みなさんこんにちは! リリアリスです!」
学生に評判のいいお姉さんだった。
ルックスは申し分なし、男性陣からももんくなしと定評はあるけれども、
お転婆でおっかないことを平然と行うというオマケが付いているせいで、
ここでも”残念な美女”の地位を不動のものにしているらしい。
しかし、そのお姉さんを女バトラーの鑑にしたいという女性陣は後を絶たず、
女性人気では問答無用のナンバーワン。それは教職員問わずの女性人気となっている。
一方で、男性目線でもルックスの良さと気さくの良さもあってか親しみやすい女性という地位を獲得しており、なんだかんだで人気である。
ちなみに担当科目は数学・物理・化学、そして高等魔法剣術と、存外に頭がいいようだ。
確かにいろいろと何かを作るのなら頭がいいほうがいいかもしれない。
ただ、本人的には数学も物理も化学も、基本的にカンを手助けする程度の要素でしかなく、
本当に重要なのは実際にやってみることこれしかりだという……やってみた結果が”小懲りもせずに自分を何度切ったことか”というのはどうかと思うのだけれども。
しかし、その手のセリフを何度言っても、必ず返ってくる答えは――
「あっはははは! それは言えてら! バカは死ななきゃ治らないってまさにこのことよね! ん? 死んでもムダ?」
得意げに言うことではないが、この人は”本物の天才”なんだろう。
そういう人に限って性格が変わっている人が多いけれども、このお姉さんは両方の要件を見事に満たしているので間違いないだろう。
そして弟子は師によく似る……リファリウスも性格的に同じカテゴリに属しているようだ。
話を戻そう。今日の講義の内容は高等魔法剣術で、お姉さんはピンマイクを使用して話をしていた。
ティレックスはそのアシスタントとして入場させられた。
ものすごく大勢の学生のみならず、学生以外の方も講義を聴きに来ているため、
ティレックスはひどく緊張していた……こんなの聞いてない――
「いつもこの大講堂が満員御礼で嬉しいわね。まったく――お姉さん、毎回毎回緊張しっぱなしでしょうがないわよ。
だから間違えたら勘弁ね。間違えていた部分についてはみんなの学力を駆使して脳内で補間してちょうだい。」
お姉さんはオープニングトークのジョークで場を盛り上げていた。
大講堂の人数は……数えられないな、500は超えているような気がする、1,000は軽くいるのではなかろうか?
こんな前に出てくるだなんてティレックスの頭の中は真っ白だった。
「そこにいる頭の中真っ白のアシスタントは義理の弟でーす♪」
義理の弟!? しかし、このときのティレックスにはそんな話をまともに訊いている余裕なんてない。
「得意なのはディフェンダー・ロールで敵の攻撃の矢面に立って堂々と主張するのが仕事のクセに、
こんなんじゃあ先が思いやられるわねぇ?」
悪かったな、そもそもそれとこれとは違うだろ――そんなティレックスの想いとは裏腹に、会場は再び笑いに包まれていた……。
「まあいいや。時間も押していることだし、さっさとはじめちゃいましょう。」
開始8分程度、特別な話をすることなく、簡単な話から導入した後、
魔法剣を使ってティレックスをコテンパンにのしていた――ヒドイ、あんまりだ。
「ということで、多分共通の認識があっていない部分もあると思うから、
今のデモンストレーションに関して、とりあえず聞きたいことがあったらドーゾ♪ まずは質問ターイム♪
尚、今回の講義の内容についてはいつもの通り、アシスタントや学園関係者に対して話を通していないから、
アシスタントも含めて聴きたいことがあったら遠慮なくドーゾ♪」
と言うと再び笑いを誘った。ならば言いたいことがある! ティレックスは堂々と手を挙げた。
「あっそうそう、今のデモの被害者たるティレックス君のクレームについては一切受け付けていないので、そのつもりでお願いしますね♪」
またしても会場が笑い声に包まれた。
ティレックスは渋々手を下ろした、彼の言いたかったことは儚くも棄却されたのだった――
質問は流石に人数が多いことから端末からの入力で、モニタ越しに確認できるようになっていた。すると、
「おいおいおい、講義に関係する質問しろよ、雲行きがだんだん怪しくなってきたわねぇ――」
その質問内容一覧の統計情報が、教壇上にあるスクリーンに映し出されると、笑いがどっと押し寄せてきた。
「って! 魔法剣に関する質問が4%って何だこれ!」
会場の笑いは止まなかった、残りの96%のうち3%がその他の質問で、
「93%が私のプライベートに関する質問ってどんな学園なんだここは!」
会場の笑い声は絶えなかった、この学園、どうなっているんだ――
「ったく、しゃあないわね。
でもまあ、意外とこういう中に発見というのがあるから、
とりあえず私についての質問から答えてあげようじゃあないのよ。」
また笑いが出てきた。先ほどよりも大きくはないけれども――いや、てか、答えるんかい。