その翌日、ティレックスは詰め所に赴くと、ディスタード軍の輸送車が近づいて来ているのに気が付いた。
「あれは――マウナ軍の輸送車?」
マウナ軍は壊滅していて、既にいないハズである。なのに今になって何故?
と思ったが、よくよく考えれば不自然なことではなかった、それもそのはず――
「ティレックス!」
その輸送車から飛び出してきたのはユーシェリアだった。
そう、今は旧マウナ軍の部隊はすべてガレア軍が引き取っているのだ。
ついでを言うと、もともとマウナ軍だった兵隊たちもすべてガレア軍に移籍完了しており、
例のマウナ軍の兵のように内部でもマウナ軍に不満を持つものは多く、それゆえの移籍らしい。
それによりマウナ要塞もあれから解体すると、新しいマウナ基地が出来上がっている――というか、既存の別の建物を使用しているようだ。
「ユーシィ! みんなどうしたんだ!?」
輸送車の中にはほかにトキアとフレシアが乗っていた。
「仕事だよ! ほら、さっそく乗って!」
はぁ? 仕事? ティレックスには何が何だか訳が分からなかった。
輸送車の中はとても贅沢な作りだった。
内部はまるでどこそかのリムジンのような贅沢仕様で、
軍備ということなら当然乗り心地については二の次三の次なのだけれども、これは乗り心地最優先な実装だった。
つまり、言うまでもないが――
「これ、ダイム専用車だろ――」
「多分ね。本当に贅沢ね、あの人――」
リムジンにはティレックスとユーシェリアが乗っていた。
後の2人はルダトーラに残ることにしたのである。
「ところで仕事って?」
「詳しくは知らされていないんだ。だからとりあえず、マウナに行こ!」
何が起こるのだろうか、ティレックスはかなり気になっていた。
「ユーシィはあの後、やっぱりガレアにいるのか?」
「ん? うーん、行ったり来たりかな?
ほら、私さ、お父さんのこともあるからさ、ちょうどガレアとアルディアスとの橋渡し役になっちゃっているんだよね。
しかもガレア軍はもちろんだけど、アルディアスからも超VIP待遇!」
ティレックスは舌を巻いていた。
「でも、それを言ったらティレックスだってそうじゃん!」
言われてみればそれもそうだった。
だって、今やルダトーラ・トルーパーズのトップに立っている人物、
アルディアスからも特別視されるほどの存在である。
そしてアール将軍とも太いパイプがあるのだから、
確かに言われてみればそうかもしれないけれども、ティレックスはあまり実感がわかなかった。
「それを言ったら私も実はそんなに実感が沸いていないんだけどね――」
言ってもお互いそんなもんであった。
ルダトーラからは例の地下トンネルを通ってガレアやマウナにも行けるようになっているけれども、
それも輸送車などの車を利用して通過することも可能になっていた。
そうこうしているうちにマウナ基地へと到着した。
ところが、マウナでは何やら慌ただしいことが起こっていた。
「なんだ? 銃声?」
ティレックスは警戒しながら言った。
「多分、魔物退治じゃあないかな?」
ユーシェリアは答えた。
「マウナ要塞は魔物を一切受け付けない構造だったからよかったけれども、町のほうはそうでもなかったみたいなのよ。
だからみんな警戒しているのよね――」
ティレックスは頭を抱えていた。ダイム将軍、本当に自分の事しか考えないやつだったんだなと。
「下手くそねぇ――ほら、貸してみなさいな。」
ん、どこかで聞き覚えのある女性の声がしてきた。その女性はアンジェラだった。
「いーい? 狙撃っていうのはこうやるのよ。」
アンジェラはその帝国兵からハンドガンを取り上げると、魔物に向かって発砲! 魔物を一撃で仕留めた!
さらに次々と襲来する魔物を確認すると、次々と撃ち落としていた!
「わかった? ほら、やってみなさいよ。」
それを見てティレックスは驚いた。
「凄いな、剣の腕だけでなく、銃の腕も凄いのか」
「それだけじゃないよ。お姉様はいろんな武器のエキスパートなんだよ。
”使えるものは何でも使えるようにする”のがお姉様のモットーなんだよ!」
ティレックスはさらに頭を抱えていた、なんじゃそりゃ、と。
「本人に訊いてみたら?」
すると、アンジェラがティレックスたちに気が付き、駆け寄ってきた。
「あら、元気そうじゃない?」
3人はそのまま輸送車を利用してマウナの港へとやってきていた。
「すべて手ハズ通りね。」
アンジェラはそういうと、いきなり身体から強力な光を発した!
「うわっ! なんだ!?」
ティレックスはあまりの眩しさで片腕で目を覆った。
「さてと、さっそく行きましょうかねっと。」
光が収まると、そこには見慣れない姿の人物がいた――
「えっ!? あれ、アンジェラさんは!?」
「は? アンジェラ? 誰それ?」
えっ――ティレックスは固まった。
「ウソよ、私よ私。アンジェラの正体は私。ってか、正体とかどうでもいいか。」
ティレックスは猶更訳が分からなかった。
「ティレックス! お姉様は”変装術”が使えるんだよ! すごいよね! 他人にしか見えないのに!」
確かに同じ人と言われてもまったくわからないぐらいの別人である。
あれ、そういえばそれってどこかで――ティレックスは訊いた。
「そういえば、アール将軍とリファリウスも同一人物かって言われればわからないぐらいだったけど、あれもそうか?」
「ふふっ、察しがいいわね、その通りよ。あいつは私の弟子みたいなもん。
弟子は師に似るっていうけれども、まさにそんな感じよね。」
その女性は船に乗り、何か作業をしながらそう話していた。
「師弟関係?」
ティレックスは訊いた。
「一応ね。でも、師弟というよりかは姉弟の関係なのかも。イマイチよくわかってないのよね。」
そういえば訊いたな、”フェニックシアの孤児”っていうのは以前の記憶がないということを。でも、この人は?
「私も同じようなもんよ、”フェニックシアの孤児”とだいたい一緒。
まあ、そんなことはどうでもいいから早く乗んなさいよ。」
女性はティレックスに船に乗るように促した。
ティレックスは訳が分からぬまま船に乗ることになった――
「んじゃ、あとはお願いね。」
「はいっ! お姉様!」
女性の問いにユーシェリアは元気よく答えた。
「ティレックスも気を付けてね!」
「おっ、おう! ユーシィもな!」