ディスタード帝国ガレア領特別指定自治区・アルディアス。
以前の”売国奴”問題の渦中の人物たちであるお偉いさんたちはアルディアスの政界から完全に消え去り、新しい統治体制を築き上げている。
特別指定自治区という通り、アルディアスは政治には一切関与しておらず、アルディアスに一任している。
そもそもアール将軍本人が言っていたことだが、政治とか、そういうのは得意ではないらしい。
ただ、アルディアスの新しい統治体制については”頼りになるアルディアスの重鎮という点だけでアルディアスを動かす人を選んだ”と言っていた。
あくまでアルディアスの人だけで国を運営するようにという施策らしい。
選ぶ基準は単純で、以前にアンジェラが見せてくれた紙切れで、
ディスタードというよりマウナに否定的を現す赤い印の人は無条件で可、
緑の印はマウナに買収された売国奴なので無条件で不可、
青はどちらでもないということで、ガレア軍と赤い印の人による面接で採用したということらしい。
ちなみに、アルディアスがディスタード帝国ガレア領特別指定自治区となることに異を唱える者は全くいなかった、
それはやっぱり緑の印の反省と、”ガレア軍ならOK”という点に尽きる。
一方でルダトーラはどうなっているかというと、以前の戦いの様相とは打って変わって平和なもんである。
敵対する勢力であるマウナ軍が壊滅したことで戦争がなくなり、
活動内容はアルディアス大陸の防衛や元々のルダトーラ・トルーパーズ結成目的たるハンター稼業など、
人によっては落ち着かない、物足りなさを感じるといったことはあれど、
それでも全員一致で共通している感想は、戦争があったときに比べればだいぶマシということである。
今現在、ルダトーラ軍が一番力を入れているのは戦後の処理活動で、それこそまさしく平和になった証と言える。
「出た出た、戦争最終期の死傷者数は――前期の半分以下だな」
ティレックスは統計情報をとり、作ったグラフを確認していた。それを見ながらレイガスが言った。
「死傷者数の変遷を見るとちょうど俺たちがスタメンに起用されたころから格段に落ちているな」
「アール将軍か――あの人、なんだか知らないけど人が死ぬのがイヤみたいだからな――
まあそれは誰だってそうなんだろうけれども、帝国の将軍にしては滅多にいないタイプだろう、なんだか皮肉めいた話だな」
そう言いながらティレックスは立ち上がると、ラークスが座っているところへと向かった。
「何かわかったか?」
ラークスはガレアが公開した活動記録を確認していた。
「いやー、マウナ軍は金に糸目を付けねぇなぁ、マジで。
でも、マウナが金賭けて作った計画をガレア軍が秘密裏に片っ端から粉々にしてるぜ、これは――」
金の力もすごいが、その計画を一つずつ台無しにしていたアール将軍もすごい気がする。
「マウナ軍は強襲揚陸艦を用いて重戦車隊をオズナール地方へ進出、その3日後に謎の大嵐発生により同部隊は壊滅。
マウナ軍のヘレンティア島への侵攻作戦、ただし現場はアルディアス南東部のため、進軍においてはガレア軍の演習領域を横断する必要あり。
しかし、ガレア側から侵入の許可が出ずに遠回りを余儀なくされると物資不足などの課題が出始めたため、侵攻作戦を一旦見直すことに。
ファトラ地方の戦い、マウナ軍の一大勢力を投入し、侵略を開始。
しかし、ファトラ地方においても一週間近く大嵐に見舞われ、進軍自体が難航。
物資不足により戦線が維持できず全軍に対して撤退命令、作戦を一旦見直すことに。
そして2回目と3回目とファトラ地方の侵攻を開始するも激しい竜巻などの異常気象に見舞われ、やむなくファトラ地方の侵攻を断念する――」
ティレックスはマウナ軍の活動記録の一部が書いてある書類を見ながら訊いた。
「随分とすごいことやってるな。
特にその謎の大嵐とか竜巻などの異常気象ってアールもといリファリウス個人でやってることだろ……」
ティレックスはそれを聞いて舌を巻いた。
「みたいだな、まさに”フェニックシアの孤児”ってのはとんでもないやつみたいだな――」
ティレックスはそれを物語っているエピソードを思い出した。
「だっ、黙れバケモノ! 近づくな!」
「クックックックック……あーっはっはっはっはっは! 確かにバケモノ! よく言われるなぁ! まーた言われちゃったよ!」
それはリファリウスがダイムと対峙しているときのやつのセリフだった。
「あの厳重なマウナ要塞を正面から切り込んでいくようなやつだ――
最初からそうすればよかったんじゃないかって思わないわけでもないけど、
当の本人は殺しというか人が死ぬことは極力やりたくないみたいで、
わざわざ警備が手薄になって死亡者を抑える計画からやったということだな」
と、ティレックスは言った。それに対して、ラークスが言った。
「C-シナリオの話か? アール将軍には悪いけど、うちらとしてはさっさとマウナを潰してくれたほうが被害が少なく済んだ気がするんだが」
そこへティレックスがモニタを指さして言った。
「いや、ここを見てくれるとわかると思うが、確か8年前のこの時期でアールが副将軍になってガレア領に着任したって聞いている――
その時期を境に死傷者の数が急激に下がっているだろ? つまり、死傷者を限りなく最小を選んだ結果に今があるって感じなのかもしれないな」
レイガスはティレックスが作っていたグラフを見せながら答えた。
ちょうど8年前にアルディアス軍もマウナ軍も死傷者の数が前年から10分の1程度にまで激減していた。
「副将軍の時代から――やばいやつだな……」
ラークスがそう言うとティレックスは頷いた。
「確かに……人が死ぬのを避けようということ自体は大歓迎だけど、ここまで極端なのを見させられるとちょっと異常なものを感じるな……」
「いずれにせよ、アール将軍ってのは相当な切れ者だってことか」
レイガスはそう言ったが、ティレックスは悩んでいた。
「切れ者かつ、相当な能力者だ……これが敵でなくてよかったな――」
ティレックスは詰め所から出ると、ハンターズ・ギルドの事務所へと顔を出した。
「そっちはどうだ?」
「あっ、ティレックスさん! こっちはもう平和なもんですよ。
いやあ、終わったばかりなのはいいんだけど、少し現場が恋しくなってきてねー」
そこにはハンターの仕事の受付をしているファイザがいた。
ファイザは先の戦いで足をやられていたため、一線を退いていた。
「動きたいっていう気持ちはわからなくもないけど、その足じゃあ流石に無理だろう――」
「でもまあ、こうしてルダトーラ・トルーパーズの中枢の仕事をやらせてもらえるんだから全然いいんですけどね――」
ファイザは前向きだった。すると、ティレックスの後ろから、以前ファイザと同チームだった2人の女性が入ってきた。
「あれ? ダンチョー? どうかしたのです?」
「お疲れ様です! 団長さん!」
チェリとエメラだった。
「ちょっと顔を出しに来ただけだよ。
そろそろ”約束の話”が来ることだし、その前にここを見ておきたかっただけだよ」
「なぁに、それなら安心してください!
ダンチョーが留守の間、きちんとトルーパーズを守って見せますから!
ねっ、エメラ! ファイザ!」
「はいっ! 後のことはお任せください!」
「そうですよ団長! 我々に任せてくださいよ!」
ティレックスは笑顔で答えた、何て頼もしいんだろう、と。