「お前、なんだ?」
バフィンスが残った女に対して話しかけた。
「少なくとも名乗るほどの者じゃあないわね。見てのとおり、通りすがりのただの魔法剣士よ。」
なんだこの人……
「魔法剣士だあ? やっぱり外のあれもお前の仕業か?」
「魔法剣士でなくて”通りすがりのただの魔法剣士”って言ったでしょ。
それに、それは私の仕業じゃないし。
私の技でちょっと扇いだだけであってあいつらがそれで勝手に吹っ飛んだだけ。
だって、誰も死んでないでしょ?」
ならこの人の仕業であることは間違いないということであるが――マジでなんだこの女。その理屈なんだよ。
「そもそも私は忠告したんだよ、喰らいたくなければ来るなって。
それなのにそれを無視した事の顛末があれよ。
私はどうしてもさっきの彼の頼みを聞き入れるためにここに来なければならない事情があった、
だから自業自得と思って諦めてもらいたいもんね。
とゆーわけで、殺されなかっただけでもありがたいと思ってもらいたいものね。」
するとそれに対してイリアは大笑いしていた。
「あっはははははは! その物言い相変わらずね!」
えっ、知り合い!?
「うっそ!? よく見たらイリ姐!? 超久しぶりじゃん♪」
2人は意気投合し始めた。
「久しぶりじゃないのよ!」
えっ、知り合いか? レンティスは訊ねた。
「誰だ?」
すると、イリアは少し言葉を詰まらせたような感じで答えた。
「えっ……ああ、まあ――一応仲間ってことになるのかな――」
すると、バフィンスがしかめっ面で訊いてきた。
「仲間だと? 怪しいな……、本当か?」
すると、女は答えた。
「そうよ、仲間よ。……と言っても、帝国に攻撃しているだけじゃあ証明にはならんか。」
話を聞くほど堂々とはっきりとした物言いをする女だった。
とりあえず、ここは知り合いと呼ぶイリアに免じて、信用して行動するほかなさそうだ。
「てか、あんたたちあれじゃん、面倒おっかぶされているルダトーラのレンティスとティルアのノンダクレバフィンスじゃん。
あんたのせがれ元気? 私に仕返しする気になったりしてる?」
女にそう言われてバフィンスは気が付いた。
「ん、ボウズに仕返しって……おまっ――! まさかその巨乳! レンティス! この女、あれだ!」
そう言われてレンティスも気が付いたようだった。
ってか巨乳って――確かに巨乳――いや、随分と大きいものをお持ちのようだが……
「ああ、なんだ、あんただったのか――相変わらずの神出鬼没ぶりだな」
って、そろいもそろって知り合いだったのか。
「ところで、なんて呼べばいいんだ?」
バフィンスは訊くとイリアが言った。
「アンジェラだろ? 私は覚えてるよ、物覚えはいいんだ」
物覚えったって――人一人の名前ぐらい覚えてるだろ……ティレックスはそう思ってユーシェリアのほうを向いたが、
ユーシェリアは何を気にすることなく、ただただにこにことしているだけだった。
「お姉様♪」
ユーシェリアは楽しそうにそう言うと、アンジェラはその声に反応し、なんだか得意げな態度で答えた。
「あら! どこの美少女かと思ったらユーシィじゃない!
よかったわねぇ! ティレックスに会えた?」
ティレックスって俺なんだけど――当の本人がそう答えると、ユーシェリアは――
「どっ、どうかな……?」
なんとも迷ったような様子で訊いていた、すると――アンジェラはティレックスのことをじっと眺めていた……。
「なっ、なんですか……」
彼女の背丈は圧倒的に高いことに圧倒されたティレックス、
自分の身長は180cm弱ぐらいだが、この人はそれよりさらに10cmぐらい高い気がした。
ただ、それ以上に気になるのが彼女のバストサイズ――バフィンスではないが、
ティレックスとしては彼女の背のほうが高いがゆえに否が応でも目に入るのである。
とにかくでかっ! ティレックスは彼女のポテンシャルに圧倒されていた、
よくはわからないけどこんなに大きいといろいろと大変じゃないか!?
そんな彼女から上から見下ろされるように注目されていたティレックスだが、彼女の答えは――
「へえ! なるほどね! 可愛いじゃない♪」
可愛いですか――まあ、どう考えても年齢差というか見た目差的にも姉と弟みたいな感じなので、
この人の好みに合ったのなら、ある意味では妥当といえば妥当かもしれない――
ティレックスはその答えでとりあえず良しとした。ただし、
「ま、腕っぷしは別にしてね。
そうねぇ……鍛えればものになるんじゃないかしら?」
何をっ!? ティレックスはむっとしていた。すると、ユーシェリアからとんでもない話が――
「もちろん! ティレックスのこと、私の時と同じように鍛えてほしいなー♪」
ユーシェリアはこのお姉さんに鍛えられたのか、それであれほどの腕――なんともヤバイものを感じたティレックスだった。
「当然♪ 可愛い妹の頼みだもん、かなえてあげないわけにはいかないでしょ♪」
まあ、この人の腕は相当なものなのは間違いない。
そもそも”岩鉄のバフィンス”や”薬剤師イリア”、そして”剛鬼のレンティス”と肩を並べるほどの御仁なんだ、
見た目は何とも若そうに見えるこの彼女からいろいろと言われてはいるようだけど、教えてもらえるのならそれはそれでいいか――
そう思ったティレックスだったが、この時のこの決断がのちに過酷な運命をたどることになろうとは、当時の彼は知る由もない。
積もる話ばかり、話を戻そう。
「とりあえず”ろぉる”でも紹介しとけよ」
バフィンスはそう促すとアンジェラは面倒くさそうに言った。
「”ろぉる”? どーせ”ふりぃ・ろぉる”なんだからなんでもいいんじゃあないの、多分。」
なんでもいいっていうのが一番困るのだけれども、
あの技を見させられた分には彼女の能力はもはや証明されたようなものである。
だいたい”フリー・ロール”と言っている時点で話が変わってくる、臨機応変にどのポジションにも立てる逸材ということでもある。
レイガスのそれがある意味似ているのだけれどもあの強さで”フリー・ロール”となると、
レイガスですら足元にも及ばないほどの使い手であることはまず間違いないと言える。
施設にルダトーラの後続部隊が到着し、制圧していた。
しかし、ここで騒ぎをおこしてしまったぐらいだからたとえ事件は南側で起こっていたとしても、
山脈側の施設のほうも警戒するに違いない、
面倒が増える前に山脈側の拠点を抑える必要がある、作戦は急がれた。
そういうことで、いよいよ山脈の南端まできた。
その南端は街道があり、アルディアス大陸の西と東とを結んでいる。
「ここが南アルディアス街道か。敵はいないのか?」
イリアが訊ねると……
「ここはマウナ軍が抑えられないポイントなんだよ。」
何故かアンジェラが答えた。
「マウナの進撃ポイントは主にアルディアスの北側で、海上または海底トンネルからの物資運搬・輸送が主になってるね。」
海底トンネル!?
「大昔に作られた地下道があってね、ちょうど山脈の下を通っている。
この山脈は元々アルディアスとディスタード島とでひとつながりだったんだけど、その山脈内に地下道が作られたみたいね。
それこそ、アルディアスやルダトーラにある地下道よりは歴史はもっと古いみたいね。」
ヤバイ――アルディアスやルダトーラにある地下道の存在が部外者に知れ渡っているのか、それは非常にマズイ状態である。
「しかし、その山脈の下の地下道はすでに破壊されていたはずでは?」
レンティスが聞き返した、レンティスはその海底トンネルのことを知っているようだ。
「長らく封鎖されていただけで破壊まではされていないのよ。
確かにトンネル自体もガタついていたけど、マウナ軍が補修工事をした結果、今では連中の輸送経路になってしまっているわね。
といってもまだ改修工事中であることに変わりはないから、あまり大掛かりなこともできなければ大きなものも運べない状態ね。
ついでに言うと、完全改修完了予定はあと1年後らしいよ。」
あと1年で!?
「結構長らく工事していたからね、そろそろ完成予定のはずだよ。」
それにしても詳しいな。
「でしょ。味方にしておくとお買い得感満載だよね!」
いろいろと疑問は残るが、なんだか変な人だった。