エンドレス・ロード ~プレリュード~

紡がれし軌跡 第1部 ルダトーラの精鋭たち 第1章 ディスタード侵攻

第14節 ディスタードの回し者

 アンジェラの話は続いた。
「話を戻すと、この街道はマウナ軍が抑えられない事情があるんだよ、 もちろん、海上や海底が経路になっているからという理由ではないよ。」
 確かに理由としては薄かった、流通・輸送の拠点を潰すべきが戦の鉄則なのだから、 普通だったら流通の拠点にもなりそうなこんな街道を連中が野放しにするはずなどない。
「どんな理由だぁ?」
 バフィンスが訊いた。
「いい質問ね!  実はね、帝国側でこの街道だけはガレア軍が幅を利かせてマウナ軍が立ち入れられないようにしてあるんだよね。 それを象徴するかのように、ほら――」
 アンジェラは南側を指さした。この南はちょうど海だが、その南側には船影が――
「あれは帝国の船!?」
 ティレックスは驚いた。
「うん。でも、あの船はガレア船籍のものなんだよね。」
 レンティスは思い出しながら言った。
「そういえば、確か、この南の海はガレア軍が演習訓練に使っている――」
「そう。このあたりはそもそもガレアの前身である旧ランスタッド軍のシマなのよ―― よその土地を自分とこのシマ呼ばわりするとは何事かってところだけど、要するに侵略協定っていうのがあって、 よその管轄の侵略地域には絶対に立ち入ることのないようにっていう決まりごとがあるのよ、ディスタードには。 何故そういうのがあるかというと理由は簡単、純粋に喧嘩になるからよ。 無論、共有化ということもできるんだけど、それには当然交換条件を突きつけることができるからね。」
 でも、アルディアスを攻めているのはあくまでマウナ軍なのでは? ティレックスはそう訊くとアンジェラは答えた。
「そもそも、アルディアス南部は古王国時代のディスタードの植民地だったからよ、 今でこそ南部はアルディアスに返還されてはいるんだけど、 それでも随分前にランスタッドの基地がアルディアス南部に残っていることもあって、 協定のせいでマウナ軍が近づけないようになっているのが実際のところなのよ。 でも、ランスタッド軍は穏健派だからアルディアスを攻めようなんてことは考えず、 あくまでルーティス島の南部からの侵略からの防衛を果たそうとしていたのよ。 アルディアス南部のランスタッド軍基地もそのための施設で、 マウナとしてもそういう目的があるのならとしぶしぶ受け入れるしかなかったという背景があるのよね――」
 しかし、ランスタッドは解体してしまった、今ではガレアとなっているが、解体した際にマウナに移譲するとかないのだろうか?
「もちろん、そういう話も出たよ、現に突きつけられていて、マウナに取られそうになっていた。 ところが、ガレアが台頭したきっかけというのがあって、それはルシルメアとディスタードの協定締結にあるわね。 そうなると、ルシルメアは元々ディスタードとしては喉から手が出るほどほしかった地域―― もちろん、マウナもっていうことになった。 だけどルシルメアとの協定をこぎつけたのはガレアだから、うちらとしてはそこを共用していい代わりにと、 他の管轄の侵略協定地域の交換を条件として付きつけたのよ♪」
 恐ろしいことを考えるな……。確かに、ルシルメアとしてはガレアと協定を結ぶことでルシルメアには直接手を出さないことを締結、 そして、ディスタードのよその管轄にはその協定を守りつつ、共同使用権を認めた。 その一方で、共同使用権の代わりによその管轄の使用権を取り上げると、 例えばアルディアス南部をマウナから取り上げたりすることもできるというわけか――
「でも、何のためにマウナから取り上げたんです?」
 フレシアは訊いた。
「それはもちろん、アルディアスの国のためよ。 ガレアはマウナのアルディアスへの進撃を妨害しているのよ。 つまりこれはイヤガラセよ、イヤガラセ。」
 そこまで仲が悪いのか、ガレアとマウナは。
「ちなみに、ここまで話していればわかる通りだけど、私はガレアの回し者だから、よろしくね!」
 なんともはっきりと言う人だ、ますます変な人具合に拍車をかけていく。

 道中には野生の魔物も出没する。 特に一番厄介なのが、冒頭でも登場したドレイクという小型のドラゴンのような魔物である。 しかしどうだろうか、アンジェラの放つ遠隔による剣技攻撃ですべてが吹き飛んでいく、 その攻撃を起点にほかのみんなが突撃するのだけれども、突撃するころにはおおむね終了しているという状態である。
 それを見越しているのか、カイトもシエーナも敵が現れても臨戦態勢すら整えない。
「お前な、ちっとはなんかしろよ!」
「ティレックス君、そんなこと言ってもだね、 彼女という固定砲台がすべてを破壊した後なんだ、私らにできることは何もないよ」
 そういうことじゃなくて。
「それよりも、気にならないかい?」
 ……そういわれてみれば、何人かは気になる要素があった。
「ドレイクだろ?」
 この手の魔物は外表が鱗でおおわれており、とにかく固い。 この固さは飛び道具による攻撃(遠隔攻撃)をいとも簡単にはじき返す装甲で、 一般的に使用している”ミサイル・ガード”と呼ばれるものに通ずるものがある。
 だが、アンジェラの放った攻撃は紛れもない遠隔攻撃であるにも関わらず、ドレイクを軽々と貫通している。
「どういうことなんだ!?」
「うん、あれはただの”魔法剣”というものでもなさそうだね」

 魔法剣、名前の通り魔法を武器にまとわせる技術で、昔は剣に対して行われていた名残で魔法”剣”と呼ばれる。 彼女はその使い手のようだけど、
「魔法剣でも打撃だろ? だから、魔法剣による遠隔攻撃でもドレイクには効かないと思うけど――」
「違うな、彼女の場合は魔法剣で魔法による攻撃そのものを打ち出している。 これは一介の剣士では大変難しい芸当で、むしろ魔法使いのほうが得意とする芸当だ」
 魔法なら遠隔耐性特性をもってしても理論的には効果があると言える。 魔法の場合は魔法耐性に左右されるようになるが、そのような攻撃の場合は遠隔耐性特性は適用されない、 魔物の装甲であっても機械の装甲であっても同じような性質なのだ。
 だが彼女の攻撃技、その魔法や魔法剣という技だけでは説明不能な能力を持っている。
「魔法だったら魔法エネルギーを集めてから打ち出すのが基本だろ?  あれはそういう動作が一切見受けられないんだけど」
 それが圧倒的だった。まさにスマートフォンで何かを検索するかの如く、 いとも簡単に魔法を発射している状態だ、あれは一体!?
「まあ――それはキミの持っている知識だけでは彼女の力は説明できないということだよ」
 なんのヒントもくれないようである。
「ほらほら、無駄口叩いてないの。 カイト、シエーナ、あんたたちも高みの見物キメてないで、たまには役に立ちなさい。」
 と、アンジェラは言った、また知り合いっぽい発言が――