一行は敵の拠点を抑え、そこで見張りをしながら一夜を明かした。
そのうちここへ仲間がやってきて、敵の侵攻を抑えるために本格的に防備を固める手はずとなっている。
そして次はさらに東だが、とりあえず北の海岸沿いの道を進むことにした。それには理由が――
「あれ、船ですか?」
ティレックスは疑問に思ったので訊いた。少なくともルダトーラ軍やディスタード軍の船ではないことは確かだけど――
「やれやれ、やっと来たか。来ると言っていた割には随分と遅かったようだが――」
と、レンティスはつぶやいた。すると船に乗っていた一団がこちらへとやってきた。
「よう! 待たせたな!」
なんだか豪快なオッサンがそう叫びながらこちらへとやってきた。ん、待てよ――このオッサン、どこかで……
「ねえティレックス! あれ、”岩鉄のバフィンス”じゃない?」
トキアが話しかけてきた、まさかあの”岩鉄のバフィンス”が!?
ということは彼らはグレート・グランド大陸にあるティルアの”自衛団”だというのか!?
さらにバフィンスから少し遅れて医者のような風貌の女がやってきた。
「来たのか、久しぶりだな」
「久しぶりだねレンティス、”来たのか”だなんて相変わらずずいぶんな挨拶じゃないか。
と言ってもこっちのノンダクレに比べたらずいぶんマシっちゃましだけどさ」
女は煙草をくわえながらバフィンスをノンダクレ呼ばわりしていた。
「いつもふかしてるお前に言われたかあねぇ」
だが、バフィンスのほうは酒臭漂っていた。
なお、さらにもう一人男がいたが、そいつは船の操舵手だということで、そのまま帰るようだった。
「おい、俺は帰るからな。くれぐれもよそ様の土地でノンダクレてんじゃねーぞ」
「っせえ! どこで呑もうが俺の勝手だろーが! いいからとっとと帰りやがれ! こんクソガキ!」
喧嘩すんなよ。
しかしあの男もどこかで見たことがあるような――何人かはそう思っていた。
「とりあえず予定通りですね」
シエーナがとりまとめていた。
一応、戦術にこの2人が投入される予定ではあったが、やっぱり帝国の目をかいくぐってくるのは大変なようで、
少しだけ遅れて参戦することとなった。
「つーわけでだ、俺がバフィンスだ、生粋の”あたっかぁ・ろぉる”だぜ! まあ、なんでもいいからよろしく頼むぜ」
如何にもわかりやすい接近攻撃タイプのキャラである。
「アタシはイリアだ。まあ、テキトーに編成してもらえればいい。よろしくな」
そうか、彼女が”薬剤師のイリア”か。スピードタイプの戦法だけでなく、医者としての腕前も確からしい。
医者というより歴戦の勇士であることとは別に本人自身も”薬剤師”と呼ばれる通りの人だが。
さらに東へと進むと山脈へとぶつかるはずだ。
この大陸の北部には中央に南北にわたる山脈が走っており、だいたい大陸の中央部までそれが連なっている。
つまり、大陸東側のアルディアスの都へ向かうには大陸の南側を迂回する必要が出てくるのである。
ところがその山脈には――
「あれは帝国軍!?」
「なんであんなところに!」
山脈の上には帝国軍のアジトらしき拠点があり、知らなかった面々は驚いていた。
「山脈を占拠してしまったなどという情報がありましたが、どうやら本当の話のようですね」
と、シエーナが言った。それは随分最近の話で、どうもティレックスらがこのお話の最初に行っていた作戦を実行していた時にやられたらしい、
あれは陽動作戦だったようだ――してやられた感じである。
もちろん、あの作戦も陽動とはいえ、あのままやられていたらルダトーラとしては非常にまずいことに変わりがないのだけれども。
「おいおいおい! このままではまずくねえか!? 連中、好き放題やってくれてるみてーじゃねーか!」
バフィンスが怒鳴りながら言った。
「これが今のアルディアスの現状だ……まあいい、詳しい話はまた後にしよう」
なんだ? レンティスは何か話を知っているようだった。
問題は山脈で陣営を構えている連中をどうやって攻撃するのかだ。
これだと敵のほうが地の利を得ている――いくら地理的に把握しているルダトーラ軍だとしても負けるのは目に見えている……何かうまい手はないものか考えた。
「挟み撃ちを仕掛けるのかい? あの山脈って向こう側からも攻められるのだろう?」
イリアが言った、確かにそれなら行けそうだけど、それには一旦大陸の南側からぐるっと迂回しなくてはならない。
その道中帝国のアジトが数件点在しており、特別触れさえしなければ何もされないだろうが、彼らにとっては避けては通れない道のりとなるだろう。
ちなみに挟み撃ちということはこの部隊が裏手に回っている間、ルダトーラに現在待機している連中が表側から攻めるという手はずとなる、段取りとしては簡単なもんだ。
「それについては、既に手は打ってある」
と、レンティス、本当に挟み撃ちをやるようだな。
やるとしたら、まずは彼らが南側の街道を通ることを考えなければならない。
まずはここから南……順当に進めば帝国軍の監視所が1つあるのだが、さて、どうしたものか。
早速、その帝国軍の監視所が1つ見えてきた。しかしそれからが問題だった。
連中はやたらとこちらを警戒しているらしくここで激しい攻撃を受けた、それはそうだろう。
最初のうちは順調に攻撃を行いガンガンと攻め続けられたが、
途中から連中のお得意の兵器が登場し、なかなか苦戦を強いられていた。
ただ、ここではそのお得意の兵器の小回りが利かなかったという敵の誤算が幸いしたのか、
彼らは辛くも勝利をすることができた。
しかし、あまりの苦戦ぶりのせいか途中から誰もが無口となり、
戦いが終わってもなお誰もまともに口を利くことすらなかった。
「団長――」
そんな中、最初に口を開いたのがティレックスだった、いやな予感がしていたからだ。
訊きたかった内容はこのような敵の監視所があと何個あるかだった。
「ティレックスさん、残念ながら、このような場所があるのは恐らく後2回ぐらいのようですよ――」
シエーナがそう言うとイリアが――
「まったく! 何個作れば気が住むんだ連中は!」
バフィンスに八つ当たりしていた。
「し、知らねーよ! 大体なんだってんだ、こんなところまで帝国の連中がいるんだよ!」
「……これが今のアルディアスの実情だ」
レンティスは沈んだ様子でそう言った、やっぱり何か裏があるようだ――
残念ながらあまり立ち止まっているような時間もないので、一行はそのまま進撃を開始した。
あと2つか、あと2つ――