しばらくしていると地下道から出、そのうち持ち場に到着した。
その指定された場所は何だか異様な空気だった。
「ねえ、あの建物じゃない?」
ユーシェリアが訊いてきた。ティレックスとフレシアはユーシェリアが指さした方向へ顔を向けた。
如何にも廃屋という感じの5階建てぐらいのビルがあり、上層は明らかに電気がついていた。
「あいつら……俺たちの土地でよくもぬけぬけと――」
「こんなところまで敵の手が回っていたのですね――」
そこへ、ユーシェリアが気が付いた。
「あれ! 間違いなく、マウナ軍の制服だよ!」
建物の周りには帝国兵が見張っており、マウナ軍の兵隊が駐留していた。
当然と言うべきかやはりと言うべきか、敵はディスタードのマウナ軍か。
ユーシェリアによると、ほかはディスタード本土軍が多少いるようだが、ほかの軍の制服は見当たらないそうだ。
ガレア軍と今まで話にあがってこなかった”ヘルメイズ軍”はアルディアス侵攻には消極的だということがよくわかる。
しかし、ガレア軍についてはアール将軍の一存により特別軍服というのを容易しておらず、フリースタイルで臨んでいるものが多いんだとか。
それこそ他所の軍の服か、最も多いのはディスタード・ガレア軍の前身とされるディスタード・ランスタッド軍時代の軍服で戦っている者もいるんだそうだ。
するとティレックスのスマートフォンがバイブした、言ってもこれはルダトーラ軍からの支給品だが。
彼は電話の内容を聞き、電話を切った。そして――
「これよりきっかり5分後の9:00ジャストに作戦を開始するってさ」
電話のバイブは作戦が始まることを告げるシグナルだったのだ。
その5分後、レンティス率いる第2パーティが動き出した。
レンティス組はアジトの北西側の地下道から敵のアジト目前へと散開、案の定敵が出現すると応戦していた。
そこで同じく北西側の地下道から後方支援で第3パーティが防御魔法をかけ、第2パーティを保護する。
第2パーティが敵を翻弄しているうちにスピード自慢が集中する第4パーティが突入する。
スピードがウリの第4パーティはラークスとファイザの2人で敵の攻撃を翻弄しつつ、
さらに2人の行く先をレイガスの遠隔攻撃で援護、前線が広がり、さらに敵のアジトへの入り口に近づく。
そして第3パーティが前進し、第4パーティ付近めがけて強力な魔法を打ち込むと、
いよいよ第1パーティであるティレックスたちの出番だ。
「準備はいいな!?」
「もちろん!」
ティレックスの掛け声で2人はシンクロし、突入した。
3パーティともに北西側からの侵攻だが第1パーティだけ南西側という奇襲効果により、
そのまま一気に敵のアジトの入り口まで突き進んだ。
第1パーティはそのまま敵のアジトの正面突破に成功し、内部の敵を片っ端から片付けていくと、
続けて第4パーティ、そして第2パーティの侵入も成功した。
それにしても、ユーシェリアが意外なほど強いことにティレックスもフレシアも驚いていた。
どうやら格闘タイプで小剣術を多用しているみたいだが、それゆえか手数が多く、敵を圧倒し軽く倒していた。
「はずれ! お返しっ!」
相手の攻撃に反応して攻撃を回避し、すかさずカウンターを打ち込むユーシェリア、
彼女は一応スピードタイプのようだが、同じスピード自慢のラークスやファイザのような”スピード・ファイター”とは違う戦い方のようだ。
これはどちらかというと”ウィング・ソード”と呼ばれるアタッカーのタイプの攻撃方法である。
「ユーシィ! 伏せろ!」
「残念! 遅いよっ!」
なんと、ユーシェリアは銃器を構えている帝国兵数人相手に即座に中距離ほどまで接近すると、
その場でいきなり身をくらましつつ、どこからともなく風の刃らしきそれをそれぞれの敵めがけて次々と投射!
いやいや! じゃなくて強すぎないか!? ティレックスとフレシアはそう思った、もはや戦い方はデタラメもいいところである……。
ここまで来たらあとは突き進むしかない――
敵アジトの入り口の正面突破は容易かった。
この作戦がこの少人数で行われるのはシエーナらの調べにより敵の数が100人いるかいないかという数しかないことがまずあげられる。
このアジトには1か月後には帝国兵1,000人まで導入される見込みらしく、
以降も続々と部隊が投入されるらしいが、そうなるとルダトーラとしては一気に不利になるため、
どうにかして今のうちに始末をつけないと厳しいことだろう。
さらに、このアジトがもともとアルディアス側の町の一部だったものであり、
地理的にもルダトーラ軍が熟知していることから有利という側面もあり、正面突破にこぎつけられたのだ。
先日や今回のアジト接近に際して使用した地下道の例がまさにそれを表している。
ティレックスたちの目前にはアジト内の廊下にて、帝国の重装歩兵が横一線に並び、盾を構えてこちらに迫ってくる場面が展開されていた。
さらに敵の後方支援として、盾の合間から狙撃兵が銃撃してきている。
それ自体は装備や魔法で対抗しているけれども防御が高く、なかなか切り崩すのも難しい。
しかし例の地下道はこの建物にもつながっており、
第3パーティが敵の背後から強烈な奇襲攻撃を仕掛け、敵グループを一度に破壊していた。
あえて地下道だけを使って制圧しないのは、地下道自体の通路が狭いこと、何より敵に地下道の存在を知られたくないため、
そう言った理由からわざわざ正面突破を狙っているという理由がある。
そんなこんなで第1パーティが囮となって第3パーティが背後から襲撃、予定通りの展開だった。
そうして敵の司令室へとたどり着いた、もう敵はいないようだな。
「ここが敵の中継基地のようですね」
中継基地? ディスタードからの中継?
「連中はさらに東から来ているらしいね」
なんとなく予想はしていた、敵のアジトのハズなのに、それにしては少々手薄すぎるのが気がかりだった。
ここでの攻めに関してはもう少し苦戦していてもよかったと思うのに、どうやらここのほかに基地があるようだ。
しかし、それはこの作戦が始まる前にも伝えられていたことでもある。
ただし根拠がないため、とりあえず目の前のアジトの制圧に乗り出したのが今回の作戦の内容――少人数攻略の理由の2つ目がそれである。
ここのアジトの情報を手がかりに一行は東の拠点の場所をつかんだが、それは思いがけない場所だった。