シエーナの話は続いた、シエーナとカイトはトキアの黒いローブとは対照的に白いローブを羽織っている。
……ローブ羽織っているメンツが寄りにもよってメインの”アタッカー・ロール”とは。
しかもそろいもそろって文武両道型キャラとかどうかしている。
「ちょうど12人ですね。ということで3メンバーずつの4チームに分けて編成したいと思います」
どういう組み合わせになるのやら。一般的にはバランスを考えての組み合わせがベストなため、
どのチームにも大体同じような役割”ロール”を配置するのが鉄則である。
例として挙げるのなら……ティレックスみたいな壁役、通称”ディフェンダー・ロール”と、
メインとなる攻撃役の”アタッカー・ロール”となるトキア、
そして回復や仲間の支援をこなす”サポーター・ロール”としてエメア――
そのような感じにするのがベストとされているだろう。
ところがこの度のメンツを見てもわかる通り、
偏りがある上に具体的にどういった”ディフェンダー・ロール”でどういった”アタッカー・ロール”で、
どういった”サポーター・ロール”なのかがポイントとなってくる。
そもそもティレックスは当初”アタッカー・ロール”志望だったため、中には”ロール”を兼任している人もいるハズである。
ちなみにこの”ロール”というのは他にも”トリッカー・ロール”というのがあり、
”アタッカー・ロール”とは対照的に搦め手重視で相手を弱らせながら戦うのが得意な”ロール”である。
”ディフェンダー・ロール”の手堅い守りで敵を引きつけながら”サポーター・ロール”が仲間に支援を与えつつ、
”トリッカー・ロール”が敵の攻撃を緩めたり妨害させたりしつつ、”アタッカー・ロール”で敵を撃破していく――というスタイルで戦うのが基本である。
話を戻すと、偏りがあることを踏まえると、
ディフェンダーのティレックス、アタッカーのトキア、サポーターのエメア……という組み合わせができたとしても、
他も同じようなロールバランスで戦えるかと言われると、それは何とも言えない。
それとは別に、ロールバランスを考えた編成でなくてロールを偏らせた編成も考えられる。
せっかくチームで分割するのだから、チームをロールごとに分割してしまうのも悪くない――組み合わせはさまざまにある。
ということで、今回は主にロールで分割する方法をメインにチームが編成された。
「私たちはアタッカーのフォローメンバーでしょうかね?」
フレシアが話をした。
どうやらそのようだ、ティレックスとフレシアという2大鉄壁の重装備を盾に、
後ろからのヒットアンドアウェイ戦法でトキアが――
「私が敵を斃しちゃうからね!」
……そうだった。
このメンバーではこれまではトキアの役割だったのに、
今回はディアナリスことユーシェリアにアタッカーをやってもらうという攻めに転じた編成になる。
ただ、ユーシェリアがどのぐらい戦えるのかは知らないのがネックだった。
とはいえ、このメンバーは何故か誰しもがサポーター・ロールを兼ねているため、
全チームの先頭に立つチームとしても安定感が抜群に強いようだ。
「レンティスさんは?」
ティレックスの問いにシエーナが答えた。
「レンティスさんは第2パーティですよ」
第2パーティはレンティス、チェリ、エメアである。
レンティスのディフェンダー兼アタッカー・ロールとチェリのアタッカー、
そして、前衛部隊を一度にフォローするサポーターのエメアの存在がこのチームの中心である。
第3パーティがある意味絶妙なメンツで、シエーナ、カイト、トキアである。
それぞれアタッカーを名乗っていたが、揃いも揃って同じような装備・性質のアタッカー兼サポーターなので、
同じような戦い方をしてくれるだろう――ある意味奇跡のメンバーである。
第4パーティはスピード派のラークスとファイザによるトリッカーロール、
そして、そのまとめ役としてなんでもそつなくこなすロールフリーなレイガスである。
スピード役のフォローとして立ち回るのならレイガスしかいないことだろう。
ティレックスら第1グループは持ち場につくため、ほかのメンバーと離れた。
道は敵のアジトの南西側の地下道を通る、敵に見つかりにくいためだ。
すると、ユーシェリアが話し始めた。
「ねえ、ティレックス――」
なんだ、どうかしたのだろうか? すると、フレシアが話した。
「ユーシィ、生きていたのですね!」
ティレックスは一瞬だけ焦ったけれども、そういえば話したんだっけと思い我に返った。
ユーシェリアはフレシアも面識があった。
「俺もびっくりした。昨日の話だしな」
それもそうなんだけど、ユーシェリアときたらやたらとあの話をしたがるのだ、それは――
「私も会ってみたいです! アール将軍様に!」
アール将軍様の話だった、まさかフレシアまで――
「すごいんだよ、アール将軍様って!」
それは昨日も訊いた記憶が。
「それにイケメンさんですからね!」
えっ、今度はそっちの話になるのかよ、ティレックスは訳が分からなかった。
「ティレックスも剣術指南してもらえば?」
なんで剣術指南――ティレックスは呆れていた。
「もう全然違うんだよ! それこそティレックスの技なんか見ててもつまんないぐらい!」
何をっ! それは聞き捨てならなかったティレックス……だが、相手は将軍――。
将軍になるやつは2種類いて、1つは単に権力でものを言わせたやつと、
もう一つは実力で成り上がった叩き上げ――普通の会社と一緒である。
つまり、アール将軍は後者の叩き上げなのは間違いなさそうで、それはそれは相当の能力の持ち主に違いないと踏んだティレックスだった。
一方で、ティレックスらと敵対しているマウナの将ダイムは前者の権力タイプであることは割と有名な話である、
そういうところからもガレアとマウナは相容れられないところがあるのだろう。
「そんなアール将軍様から私もいろいろと教えてもらったんだよ♪」
「へえ、いいなぁ――」
あ、ユーシェリアが戦力に数えられるって話って言うのは、まさかそういうことか? ティレックスは考えた。
ユーシェリアがいなくなった当時はまだ小学生、
流石にそのぐらいだとそもそも戦い方自体がおぼつかないどころかまともに戦うための能力が身についていないハズ、
だから誰もユーシェリアの戦い方を知らないハズなんだ。
一応”ディアナリス”であることになっているため、これが妹なら大体戦い方を知っている――
でも彼女はフレシア同様の聖騎士タイプの使い手であるため、今の彼女のそれとは似ても似つかないのが玉に瑕である。
しかもそれが実はユーシェリアだったという話となると、それはもはや不安でしかない。