エンドレス・ロード ~プレリュード~

紡がれし軌跡 第1部 ルダトーラの精鋭たち 第1章 ディスタード侵攻

第6節 ユーシェリア参戦

 次の日、ユーシェリアはどうしてもと言って聞かなかった――そう、どうしてもティレックスと一緒にいたいというのだ。 流石に死んだと思われていた人間がいきなり現れ、 しかも帝国にも狙われているのに一緒にくるだなんて流石に危なすぎるのではなかろうか。
 だが、ユーシェリア一人を家に放っておいて、もしものことを考えるとそれも心配だった。 だったら一緒にいて、目の届くところにいれば、それはそれで安心するというもの―― ユーシェリアにそのように説得されるとその通りにせざるを得なかった。
 ただ、問題はこの状況をどうやってみんなに話すかである。 たとえユーシェリアであろうとルダトーラ・トルーパーズにとって今の彼女はほぼ部外者、 しかも帝国のガレアに長らく住んでいたということで怪しい者とみなされる場合もある、ティレックスは悩んだ。 しかし、どうするかはすぐに結論が出た。

「よう! ティレックス!」
 ラークスがいきなり後ろから大きな声で話しかけてきてとてつもなくびっくりしたティレックス――
「ラークス! てめぇ、ぶっ飛ばすぞ――」
「あっははははは! いいじゃねえか! 別にさあ!」
 よくない。頼むからやめてくれ、ただでさえ――
「うん? こっちは誰?」
 そう、ただでさえ……彼女がいるというのに――ティレックスは悩んでいた。
「えっ、誰ですか?」
 フレシアが来て彼女に反応した。そして次々と――
「うーん、どこかで見覚えが――あるような、ないような――」
 しまった、トキアは幼馴染だからユーシェリアのことを知っているかもしれない。しかしティレックスは――
「ディア……ナリス、だ――」
 と言ってごまかした。何人かが的を射ぬような感じだった。するとトキアがだしぬけに言った。
「ああそっか! ディアナリスだったのね!」
「ディアナリス? 誰?」
 レイガスは訊いてきた。それに対してフレシアが反応。
「妹さんですね! そうなんですね! こんなに可愛い妹さんがいたのですね!」
 ディアナリス……でなくて、ユーシェリアは照れていた。 ちなみにユーシェリアが来ている服はティレックスの本当の妹・ディアナリスのものだ。 そういえば、このメンツには一部を除いて妹がいることを話したことはなかった。 知っているのは幼馴染でディアナリスの存在を知っているトキアと、 女同士ということもあってなんでも話をし合う中のフレシアぐらいのものだろう。
「それで、一応ルダトーラ・トルーパーズ所属なのか?」
 レイガスが訊いた。ディアナリスはトルーパーズに所属しているがずいぶん前に海外留学したっきりで籍だけおいてある状態だった。
「でも、どうして今まで紹介してくれなかったのですか?」
 フレシアが訊くとレイガスが言った。
「ティレックスのことだ、言う機会がなかったとか言うつもりなんだろ」
 ティレックスはあまり自分から進んで言うようなタイプではなかった、だからそれも案外正解と言えることだった。
「さあさあ、早く行こうよ! ほら、ディアナリス……でいいかな?」
「……うん! 行こ♪」
 トキアとフレシアはディアナリス……もといユーシェリアの腕をつかみ、一緒にどこかへと行った、 何とか凌いだようだ――ティレックスは胸をなでおろした。 だけどあのユーシェリアのことだ、2人には打ち明けるのだろう――彼女は昨晩そんなふうなことを言っていた。

「んで、ホンモノはどこで何をしているのだい?」
 いきなり耳元で例のあいつが話しかけてきた。
「カイト! 今度はお前か――」
「おいおいずいぶんだな、私がここにいることはそんなに驚くことじゃあないだろう、失礼なやつだな――」
 何を言うか、驚かしてきたのはお前だろう――ティレックスは内心びくびくしていた。
「あはははははは、そんな細かいことは気にせず。 さてと、それより本物のディアナリスはどうやらセラフィック・ランドへと渡っているようだね。その先は――」
 細かいことといってごまかすんじゃない。 だけど、こいつの言っていることはやはり安定ということもあってかほぼ正解で、セラフィック・ランドにいるらしい。 ティレックスはここ4~5年会っておらず、便りだけは帰ってくるけど具体的にどこで何をしているのかまではわからなかった。
「一方でニセモノのディアナリスについては特に問題はない、私が昨日のサプライズの予測をしたぐらいだからね」
 予測はいいがあまり他言はしないでくれよ、 ユーシェリア本人もボロが出るのを避けるためにあまり目立って話をしないようにと考えていたし、 その甲斐も無にしないでほしいもんだとティレックスは願っていた、 とはいえ、カイト相手にこの点について心配しているわけではないが。
「むしろ彼女が一緒にいるのは非常に心強い、頼れる戦力のうちの一つとして数えるべきだろう」
 えっ、どういうことだ?
「ユーシェリアが戦力?」
「アール将軍の線だな、そもそも彼は悪い人間ではないし、むしろマウナの計画には否定的だ」
 否定的――確かにそうだろうな、その噂はかねがね――仲が悪いとは聞くが……そうだ、ティレックスは考えた、こいつに訊いてみるかと。
「ガレアとマウナってそんなに仲が悪いのか?」
「そりゃあ最悪だよ。まず将軍の性格が正反対。考え方も性質も何から何まで真逆で相容れられないって感じ。 だから互いの計画・作戦については一切の干渉を許さなければ協力をしようなどとは毛頭ないだろうね」
 へえ、そうなのか。さらにカイトは話を続けた。
「協力しないどころかアールは将軍としては新参者でその活躍ぶりときたらお察しの通り。 その上性格が正反対のこともあってダイムはアールを目の敵にしているぐらいだし」
 ガレア軍のアール将軍とマウナ軍のダイム将軍の犬猿の仲具合がわかるエピソードである。 そんなに仲が悪いのか、相手の計画を邪魔しあっているのではないかと思わざるを得ないほどであった。
「ちなみにアール将軍というかガレアに限って言うと、マウナどころかディスタード帝国内では弾かれているほどに評判は良くない。 そりゃあそうだ、新参者なのに世間において一定の存在感をアピールしているレベルで大活躍している。 新参者故に帝国管轄区の中ではカーストは最下層……それが世間様では評価が高いんだ、つまり――」
 ティレックスは頷いた。
「なるほど、つまり、ディスタード帝国内では立場が上の方々については新参者が世界に出て大活躍している様を見ていて気分がいいわけがないってことか、 なんともわかりやすい状態だな――」
 カイトは答えた。
「大正解。 しかも帝国国家としては評判がいいということもあってか、もはや目の上のたん瘤でしかない。 それゆえに、少し前まではルダトーラでも秘密裏にガレアと手を組んでマウナを落とす作戦を展開していた記録もあるほどだ。 つまり、ガレアさえもマウナは邪魔と考えているわけだ――もちろん、帝国軍全体をガレアは何とかしたいと考えている可能性があるね――」
 マジか……ティレックスは唖然としていた、大きな帝国国家の底辺にいる存在が大きな帝国国家そのものにたてつこうとは何とも立派な志の持ち主である。
「だから彼女がここにいるのって、もしかしたらアール将軍の策なのかもしれないね」
 まさか――アール将軍は既にマウナを潰そうと計画に移している?
「大いにありうる。帝国経由だけで直接潰すことができないから、アルディアスにあったハズの戦力を戻してアルディアスにも頑張ってほしいってことなんじゃないかな?」
 まあ――あの自分のところの軍備には金に糸目をつけないあのダイム将軍のことだし、帝国の内情のこともあるのだろう、 だから回りくどい方法でダイムを潰すという作戦か、もしくはアルディアスにも頑張ってほしいって言うことは、マウナを総動員で潰しましょうということかもしれない。
「それがユーシェリア? どういうことだろう?」
「それは私の口から話すようなことではないね。 直接、彼女本人から訊いてみればいいさ」
 だが、肝心なことに、ユーシェリアはなんでこっちに来たのかを一切話したがらない。
「乙女心は難しいんだよ、ティレックス君。こればっかりは私でさえまともな予測は不可能だ。 私から言えることは、彼女はとにかく帰ってきたかったから帰ってきた、それが事実だからそれしか伝えることができない。 姉さまならもっと事実に迫れるのかもしれないけれども、はてさて――」
 何を言っているんだこいつは、わけがわからなくなってきた、帰ってきたかったから帰ってきた? そりゃそうだろう――まったく意味が分からない。
「ふふん、キミがわかろうとするのは500年早いってこと。 とりあえずユーシィが帰ってきたんだ、その事実だけでいいじゃあないか」
 ……どういうことだ? まあ、いいか――言っていてもらちが明かないし、 カイトも完全に予測できないというのなら言っていても仕方がない。 それに、これから大きな作戦が始まる――立ち止まってはいられないのだ。