エンドレス・ロード ~プレリュード~

紡がれし軌跡 第1部 ルダトーラの精鋭たち 第1章 ディスタード侵攻

第5節 満天の星空

 さて、ユーシェリアに出会ったはいいが、どうやら問題があるようだ。
「ねえ、ティレックス! あれ見て!」
 どうしたんだろうか、ユーシェリアはティレックスを、元は寝室だった部屋へと促した。
「どうしたんだ?」
 ユーシェリアは俺に静かにするように促した。
「ほら、あそこ――まだいるみたい――」
 元寝室の窓の外から何者かの影が見えた、まさか――
「さっきから誰かがこっちを見張っているんだよ――」
 それでティレックスが入ってきた時も警戒していたのか、ということはつまり――
「マウナの連中の可能性が高いってわけか。 だったら、その下から出ようか」
 ティレックスは寝室の痛んだベッドを力づくで退かすと、そこには脱出口のフタが姿を現した。
「しかし、尾行って、帝国兵か?」
「多分ね。そっちのほうから逃げ出してきたから、気づかれたかもしれない」
 うーん、それは確かに、面倒だな――
「とりあえず、俺の家に行こう」
「うん、それしかないよね――」
 ティレックスとユーシェリアは脱出口のフタを開けると、その中へと飛び込んだ。 そして、中からレバーを操作すると、フタは閉ざされ、ベッドは元の位置へと戻った。
「これでいいか」
「多分ね」
 しかし、なんで、ユーシェリアはさっさと脱出しなかったのだろうか、俺は訊いた。
「ああ、ちょっと、いろいろとあってね。もう用事も済んだし、早く行こうよ♪」
 まあ、いいか、とりあえず、ユーシェリアが無事で生きていたんだ、早いところ、ここから逃げ出そうか。
 ……それにしてもカイトの”予測”というやつはやっぱりバカにならないものだな、的確に当ててしまうとは――

 脱出口の内部は入り組んでいて、迷路のようになっている。 これは、万が一の出来事に備えた秘密の抜け道となっていて、それがまさに今のタイミングで活用されることになったのだ。 最初は少々狭い穴だが、そのうち人一人が立てる大きさへと出られた。そして――
「飛び降りるしかないな」
「うん! やり残したことはないよ!」
 少し高さのある場所を飛び降りた、よじ登るのも不可能な高さ、後戻りはできないだろう。
 さて、次は――着地地点の地下道は四方に道が伸びていた。
「南、でいいだろ?」
「もちろん! 海に出ようよ!」
 真っ暗な地下道を南へ進んでいった。次第に潮の香りがしてきた、海だ。

「わあー! 見て! 満天の星空!」
 夜空はとても明るかった、まさに満天の星空、空だけじゃない、
「ほら! 空の星の光が海に反射していてすっごくキレイ!」
 彼らがこんなにも海が穏やかで、一点の曇りもない夜空。 こんな光景を見たのはユーシェリアが死んだと思った日よりももっと前の日が最後だった。
 ティレックスとユーシェリアは海岸の石段へと移動し、そこへと座った。
「いいなあ――こうしてティレックスとまた一緒にこんな風に一緒にいられるだなんて――」
 確かに。ユーシェリアはあの日死んだと思っていたんだ、だからティレックスもこみ上げてくるものがあった。 この時いつまで2人でここで座っていたかな、実際には結構時間は経っていたと思うが彼らにしてみればあっという間の時間だった。
「ねえティレックス、訊いてる?」
 ああ、そうだな……うん――ユーシェリアはいろいろと話をしていた。 ユーシェリアには申し訳ないが、ティレックスはほとんど生返事でまともに訊いていなかった。 それでもユーシェリアはいろいろと話をしていた、昔のこと、ティレックスたちのこと、帝国の――ガレアで過ごしていた時のこと――
「ねえ! ティレックスってば!」
「わっ、悪い、疲れていてな――これでも明日も早いんだ――」
 すると、ユーシェリアは申し訳なさそうに言った。
「あっ、ゴメン……そうだよね、今度はティレックスが帝国のマウナと戦っているんだもんね……本当にゴメン――」
 いや、そこまで謝らなくていいよ……ティレックスはユーシェリアを諭した。
「じゃあ、そろそろ帰るか」
「うん♪」
 2人は立ち上がるとそのまま海岸線に沿って歩き始めた。次第に崖が見え始め、そこを登って行った。 さらにそのまま暗くて鬱蒼とした林の中を歩いていくと、そのうち石のステップが現れ始めた。 ステップのとおりに道を進んでいくと、ティレックスの家の庭にたどり着いた。 このルートは恐らくこの2人以外では知る者もそういないだろう。

 あの後2人はティレックスの家の玄関へとたどり着き、中へ入った。
「ただいまー♪」
 ただいま――ティレックスしばらくその言葉を言ったことがなかったからひどく懐かしい感じがしていた。
「ん? あれ、誰も反応してくれない?」
 誰もいないから仕方がないだろうな、ティレックスはそう言うとユーシェリアはびっくりした。
「えっ、こんな広いお屋敷にティレックス1人しかいないの? なんで? どーして? 何があったの?」
 ユーシェリアは知らなかったんだっけ。 というのも、ティレックスの家の者が次々にいなくなったのはユーシェリアがいなくなってから後の話だった。 彼の両親はユーシェリアがいなくなる前には既に亡くなっていたが、大きな家であるゆえに、住み込みで働いているものがいたのだ。 だが、みんな戦争によってどんどん非難していった。 この家に限らず、ルダトーラには残るものも少なく、ほとんどが首都のアルディアス側へと移って行ったのである。 ただ、ティレックスの家にいた者は、アルディアスにあるティレックスの家の本宅にいるのである。
「そっか、ティレックスも1人なんだね――」
 とはいえ、今のティレックスには仲間がいる、寂しいと感じたことはなかった。
「大切な仲間だもんね! みんな戦友だし!」
 戦友は団体行動、苦楽を共にし、時には同じ部屋で寝ることもある、ほとんど家族に似たようなもので大切な仲間だ。
「私はアール将軍様が保護者のようなもんかな?」
 アール将軍”様”か。ユーシェリアのこの様子から察するに、そいつは”いいやつ”なのだろう。だけど――
「で、なんでその場から抜け出してここへ来たんだ?」
 と、ティレックスは訊ねた。 ガレアにいた時はなんかいろいろと危険な想いをせずに過ごしてきていたような感じなのに、 なんでわざわざ危険を冒してまでここに戻ったんだろうか。
 するとユーシェリアは言葉を詰まらせ、「ちょっとね」と言った、ちょっとって――
「まあまあまあ! 固いことは言わないの! ほら、さあ! ご飯でも食べようよ! 私が料理してあげるから!」
 えっ、ユーシェリアが料理? ティレックスには想像できなかった。 しかし、ティレックスにとってはその料理は大変ごちそうで、ティレックスは満足した。 その様子にユーシェリアも喜んでいた。