「くっ、頭が痛い……」
「おっ、お目覚めだな! 気分はどうだ?」
「……最悪だ」
ティレックスは目が覚め、身体を起こした――激しい頭痛だ……。
その傍らでレイガスがティレックスに話しかけて来た。
「そうか、大した事がなくて良かったぜ」
「どこをどう見てそんなことが言えるんだ――」
「でも、初めて見させられた時に比べれば全然大したことないだろ?」
それは確かに言えていた。
ティレックスが最初にあの技をぶっ放した時は10年以上も前だったはずである。
あの時は使ったが最後、1日も身体が言うことを利かなかったのだ。
そもそもこうやって会話をするなんてこと自体が以ての外、
そんなのに比べれば――今回はどうやらあと1時間程度で回復しそうだった。
だが、この通り、発動するたびにこの状態ではマトモに使うのはかなり厳しく、
継戦能力が著しく落ちてしまう――打つたびにこの状態ではいろいろと厳しいだろう。
「いやいや、流石ですね、まさか、あの集団を退けるほどの力を解放するだなんて!」
ティレックスはレイガスに肩を借り、
何とか歩いてほかのメンバーのもとへとやってきた時の第一声――それを口に出したのはメンバーの誰ではなく、
「先生、これ、流石に戦績評価に響きますよね……?」
と、ティレックスはその先生という人相手に不安そうに言った。
「いえいえ、私はナイス判断だと思いましたよ。
もちろん、自らの命を危険にさらすほどの力を行使するということについては賛同しかねますが、
それでも、そこまでに至らなかったのは常日頃の訓練が実を結んだ甲斐があったというものです、
良かったではないですか!」
先生までそう言うし……ティレックスは戸惑っていた。
アルディアス大陸の北西にはルダトーラという町があり、
そこには”ルダトーラ・トルーパーズ”というハンターズ・ギルドから発展した大掛かりな軍事組織があり、
ティレックスたちはそこに所属しているのだ。
軍事組織とはいえ、その目的は自衛及び自国であるアルディアスの社会に貢献する活動がメインだ。
しかし、今はアルディアスの北に位置する国”ディスタード”という帝国からの侵略を阻止するための活動が最優先となっている。
そして、彼らの監督官である先生、ベングル先生はさらに話を続けた。
「いやあ、みなさん……成績が優秀すぎて先生も鼻が高いです!
ということで時期は少し早いですが、キミたちは今回の評価を持って当学校を卒業する者と認定します!」
えっ!? そんな、それはちょっと早い気が――
しかし、それを言った先生の背後でとある人物の姿があり、ティレックスたちはなんとなく目についた。
気にはしていたが先生との話を続けた。
「どうしてですか? そんな――卒業なんて時期的にまだ早い気がするのですが?」
「はい、おっしゃる通り。ですが、そうもいっていられないのが現状なのです。
というのも、今や主力部隊といえる人材が慢性的に不足しているからなのです――」
確かに帝国からの攻撃はそれだけに激しいものがあった。
たとえば去年の卒業生などは生き残りが半数にも満たないと言う現実――
あれは当時、帝国がとある大型兵器を持ちこんだためなのだが、
それは帝国側でも制御不能だったらしく、自軍にも被害を及ぼしたという。
そのためか、今回の戦いでは実戦登用されなかったのだろう――
ティレックスたちにしてみれば、その兵器が使われなくてよかったというのが本音なのだけれども。
話を戻すと、要は今すぐにでも実戦で起用できるような戦士がほしいということらしい。
「選ばれたのはこいつらか?」
先生の背後にいたその人物が話に加わった。
「はい、この子らと、あともう1グループいます」
「なるほど、わかった。まあいい、今日はゆっくり休んでくれ」
そう言うと、その男は去った。あの人は――
「まさか――今の人ってレンティスさんですか!?」
フレシアがそう言った。
「はい、そうです。
いつもはここにいること自体が珍しいのですが、
次の作戦に備えてすぐにでも人手が欲しいということで一時的に帰ってきてらっしゃいますね――」
レンティス=ベンナクレイト、ルダトーラ・トルーパーズの頂点に立つ人で、つまりルダトーラの総隊長という人である。
ただ、本人はそういうポジションには見合わないからと言ってあくまで以前の総隊長の代理というポジションであると公言している。
……実はその総隊長というのがライナス=ヴェイルバーン――ティレックス=ヴェイルバーンの今は亡き父親だったりする。