エンドレス・ロード ~プレリュード~

紡がれし軌跡 第1部 ルダトーラの精鋭たち 第1章 ディスタード侵攻

第2節 力とリスク

 みんなで表に出て来た道を振り返ると、遠めに彼らの仲間の姿が少しだけ確認できた。 他の連中は上手くやっているのだろうか――
 彼らは敵のアジトがあるとされている場所の近くの崖の上で息をひそめ、アジトを眺めていた。
「まだまだ大勢いますね」
 フレシアは言った。アジトの内部にもたくさんいるのかもしれないが…… それにしてもアジト回りも結構な数が配置されている、確かに当初予定していた敵の数とは随分とギャップがあるようだった。
「重要なのは勢いだ、どこかで調子を崩したらおしまいだからな」
 と、レイガス。そのとおりだった。ならば早速やってみるか、みんなは覚悟した。
「トキア、早速”ミサイル・ガード”を張ってくれ」
「もうやっているよーん♪」
 レイガスが言うよりも先にトキアは行動に出ていた。 その魔法の効果で帝国兵の銃器攻撃に耐えられるだろう。
「よっしゃ、俺に続けー!」
 突撃担当のラークスは崖を飛び降り、真っ先に敵陣に突っ込んだ。
「俺も行くぜ! ティレックス、頼んだぞ!」
 レイガスはそう言って突っ込んでいくと、フレシアも共に突っ込んでいった。
「お願いしますね! ティレックスさん!」
「んじゃ私は――裏から回ろっかなっと♪」
 トキアは崖の裏手から回っていた。
 そして崖下では予想通り、敵が次々と現れては銃を撃ち続けるものの、 ミサイル・ガードの効果にことごとく打ち消されていった。
 ラークスの素早い剣さばき、レイガスの的確な技、 フレシアの熟練した剣さばきとトキアの強力な魔法の効果でなんとか相手を丸めていた。
 そんな中、ティレックスもまたさっそく行動に出ていた。
 ある程度チャージするとそのうち自然パワー結合が行われる。 チャージ自身はもう慣れているがチャージにかかる時間自体は環境に依存する、とはいえ、慣れのおかげでそこまで大きな時間は必要としない。 確かにかからないのはかからないのだけども……不思議とこの日のチャージはやたらと早い気がしていた。 チャージが早い分にはいいのだが、早すぎるとパワー結合に時間が必要となり、かえって時間がかかってしまうのだ。
 そして周囲を見ているうちに少し不安になってきたティレックス、敵の数もやたらと多いし、みんな大丈夫だろうか――
 するとラークスがいきなりその場から逃げ出した。出たな、とんずら。 もちろんただ逃げているわけではない、考えがあっての行動である。
 しかし、敵の数が増えていき、始めのうちは押していたのに、次第に劣勢になってきた。 一応それ自身は作戦のうちではあったのだけれども、それにしても非常に多い――その数は予定外だった。
「ほほう、こんなところにも一人いたとはな……」
 しまった! ティレックスは2人の帝国兵に見つかってしまった! 連中は銃口をティレックスに向けていた。 ミサイル・ガード特性を得ているとはいえ、こんな無防備な状態で狙われたらどうにもならない、ここまでか――
 しかし彼らがそんなミスをするはずなどもなく。伊達に長い間同じメンバーで徒党を組んでいるわけではない。
「うぉっ!? 何だ!?」
 大きな爆裂のカタマリが一人の帝国兵を吹っ飛ばした、あれは”スタニング・ブロウ”という火属性系のショック魔法だ。 それに気をとられた兵隊も同じ目にあった。 そのあとティレックスに向かって”プロテクション”の魔法効果が重なり、物理的な攻撃に対して更なる守りを得た。
「悪いけどね、そう簡単に殺らせたりはしないんだよ♪」
 すべてトキアの魔法である、崖の裏手から下って行ったのは正解だったようだ、 彼女はティレックスの異変にいち早く気が付いて戻ってきたようだ。
 2人の帝国兵は立ち上がると、トキアをにらみつけた。
「フン、魔導士か。ならばこれでどうだ――」
 帝国兵たちはそれぞれ魔法フィールドをはり、守りを整えた。
「さて、まずは生意気な小娘から始末してやろうか」
 ……しかし、そんなバカの二つ覚えの能力程度では彼女を止めることは不可能だった。 連中は得意の銃剣を振りかぶり、剣技を繰り出したのに関わらず、
「そいつ、うちのチーム内でも文武両道のオーバースペック児として有名なんだよ、覚えていくといいよ……って、言ってもムダか――」
 ティレックスが言った通りの状況になってしまっていた。
「ぐはぁっ!」
「たっ……助けてくれぇ――!」
 トキアの魔導士の外見にそぐわない棒術による格闘で、帝国兵は早々にコテンパンにのされてしまっていた。
「甘いよ♪ てか、あんたらバカでしょ?」
 トドメの一言もキツイ。

 それにしても今日は結合の調子が悪い、結構時間がかかっていた。
「どしたん?」
 トキアが心配になって訊いてきた。
「いや、もしかしたらパワーチャージが早すぎて力が分散しやすくなってしまっているのかも――」
 これは予想以上に時間がかかりそうだと確信したティレックスだった。
「まあ……大丈夫よ、敵もまだあまり丸め込んでないことだし」
 そういわれてみればそうだった、敵の数が増えるに連れて敵も散開していく様子が見え……って待てよ、それって――
「マズイ状況なんじゃないか……」
「うーん、予定よりも敵が多いからねえ……」
 トキアは杖を振り上げながらそう言うと、その場に霧を発生させた。 ティレックスとトキアは敵の視界に入りにくくなった、これは”ミスト・スクリーン”と呼ばれる魔法である。
 しかしその時、遠くからとてつもない気迫が押し寄せてきた、ちょっとした地鳴りがする――
「な、なんだ!?」
 ティレックスはトキアに聞いた。
「ラークスだね」
 ああ、ラークスの行動か――そう思ったティレックスは心配するのをやめた。 それなら一刻も早く技を完成させないと――力をコントロールに専念した。
「はい、”コンセントレーション”。私の力も使って!」
 トキアは魔力をすべて俺に集中の魔力として譲り渡した。
「あっ、もっと大きいものが来るからきちんと受け取ってね!」
 えっ、もっと大きいもの? すると、ティレックスの後ろからいきなりそのパワーが来た。
「さーてティレックス君、キミ、これでミスったら殺すからね~♪」
 この声は――
「カイト……テメー! ビックリするだろ!」
「ダメダメ、ムダ口たたかずきちんと集中しなさい」
 少しだけ腹が立った。カイトはいいやつであることに間違いはないがこういうところがあるのが玉に瑕だ。 彼が何故急に現れたのかというと、これこそがラークスの技だからである、要は仲間を呼びに行ったということだった。 つまり、彼らの大勢の仲間たちが一度に駆け付けると、敵の勢力を束ねることに成功していくのである。 ただただ助けを求めに行ったのとは違い、敵数の少ない安全ルートを探しながらそれを行うのだ。 すばしっこくて敵を翻弄する能力の持ち主というだけのことはある、決定打に欠けるのが難点だが。

 いよいよティレックスのパワー集中も完了し、後はタイミングを見て飛ばすだけだと思い立ち、ティレックスは合図を送った。 それに気がついたレイガスは仲間に上手く伝え、誘導させると、その仕上げとしてフレシアが――
「いきます!」
 フレシアは一点に集中し、そこに向かって鋭い突き”聖光滅動突き”を放った。 強烈な光を伴う一撃に狙われた相手は仰け反ると共に動きが止まった。
「あれは”闘気聖剣技”か、なかなか高度な技なのに体得しているなんて」
 ティレックスの後ろからカイトがそう考察していた。
「そうだよ、だからティレックスもだけど、彼女だってあんまり使わないようにしているんだよ」
 トキアはそう説明した。何度も言うけども彼らは学生――つまり、まだ未熟者なのだ。 だから今回のような大技は出来る限り使用を避けたい、不慣れな技は自分自身を危険にさらすだけだからである。
「何もかも吹っ飛べ!」
 そしてティレックスは大剣を取り出すと大きく振りかぶり、力を放出しながら全力で振り下ろした。 そこから猛烈な吹雪が発生すると、前方で停止しているすべての敵を吹き飛ばした。 そこから多くの雄たけびが聞こえ、敵は壊滅したのである。
 そしてその後、ティレックスはその場で崩れ落ちた。