アルディアス大陸――
「ティレックス! こっちだ!」
仲間の1人であるレイガスが廃墟の瓦礫の影から彼を呼んでいた。
「レイガス!」
彼らは既に戦いの最中に身を投じていた。
周囲は大火事、ティレックスを含めた5人の仲間は一緒に戦っていた。
「その辺にフレシアとラークスがいるが、あと1人はどこに?」
レイガスがそう訊くとティレックスが答えた。
「一緒にいるから大丈夫だ」
ティレックスの後ろに続いてもう1人、トキアがやってきた。確認したレイガスは言った。
「遅かったんじゃないか?」
「ゴメンね、敵が結構しつこくって」
トキアの返答にレイガスは驚いた。
「えっ、そんなにいるのか?」
ティレックスはため息をついた。
「詳しい話はみんなでしよう。とにかく、よく考えないとこの場は切り抜けられないぞ」
それにしてももう2人の姿が見当たらない。ティレックスはどうしたのかを訊ねると、
「2人はこの奥だ」
レイガスは答え、ティレックスとトキアを案内した。
彼らは当時は学生、状況的には大変だが、
ディスタード帝国の兵隊や小型の機械兵器を相手にうまく戦っていたようだ。
アルディアスもエネアルドと同じく徴兵制がしかれているけれどもご覧のとおりの状況――
戦いが長引いているだけあって各々戦いには慣れていた。
しかも彼らこの5人チームは中学入学当時から一貫して同じメンツで戦っている――
つまり、誰も死なずにここまで生きてこれたのだ、誰もがそのことについては深く感謝している。
レイガスに案内された廃墟の奥はなんだか安全そうだった。
そこではラークスは木箱の上にぐったりしていて、
フレシアは自慢の長い髪を結わえ直していた。
「よう、みんな無事みたいだな」
ティレックスがそう言うと2人はそっちの方向を向いた。
「あっ、ティレックスさんにトキアさん、無事だったんですね!」
フレシアがそう反応した。
「何言ってるの、そう簡単にやられるわけないでしょう?」
トキアは優しく、また得意気にそう言った。
それも一理あるだろう、ここまで無事にやってこれたのだから、
この程度の戦いで簡単に殺られたくはないものだろう。
「よーし、作戦会議だ」
と、チームリーダーのレイガスはどしりとそこにあったイスに腰をかけながら言った。
チームリーダーは当番制で、当日はレイガスが当番だった。
トキアは黒いローブにこびりついていた煤を払い落とすと適当な木箱の上へと座り、
彼女もまたポニーテイルのゴムを付け直していた。
ティレックスも楽な姿勢で臨んだ。
「ところで時間がかかったようだけど、何があった?」
レイガスはティレックスとトキアに訊いた。それに対して二人で声をそろえて言った。
「ドレイク」
レイガスは頭を抱えた。
「オイオイオイ――確かに敵っちゃ敵だが、よりによって一番面倒なのが混じっているじゃないか――」
相手は機械兵器だけだと思っていたのだけども、
どうやら地元獣までもが一緒に混じっているらしい。
だが、その中でもドレイクという種類は非常に面倒な魔物である。
見た目は大きなトカゲというか、中には小型のドラゴンと言っても過言ではないような存在もいるため、
それはそれは厄介である。
「んなら、利用して帝国兵をやっつけてもらえりゃいいんじゃねえの?」
と、ラークス。確かにそれも方法としてはありだった。
「でも、だからと言ってこのまま全部魔物に任せるわけにもいかないだろう、帝国の連中もバカじゃない、その辺考えているはずだ」
と、ティレックスは言った。
「確かにその通りだ。
しかしなぁ――実はそれ以上に面倒なことになっている。
当初の作戦の時とは帝国兵の数がえらく違っているんだ、どうなっているんだろうな――」
レイガスは悩んでいた。
今回の作戦はこの廃墟にあるとされている帝国のアジトを殲滅することにあった。
帝国兵の数はそれほど多くないと考えられていたけども現実は意外と厳しい数、
しかも魔物まで参加しているというなかなか難しい状況に陥っていた。
「そうだ! なら、ティレックスの技でぶっ飛ばしてもらったらどうかな?」
と、トキア。ちょっ、ちょっと待て……ティレックスは焦った。
「あれ、相当のパワー使うんだぞ、だから実戦では使わないことにしているんだ」
ところが、
「そうですね! ”月読式破壊魔剣”を使ってください!」
と、フレシア。だからダメだって――ティレックスは直ぐに言い返した。
「いや待てティレックス、冷静に考えたらそいつを使うのが一番だ」
ちょっちょっちょっと待て! レイガスまで言うのか! ティレックスはさらに焦っていた。
アレの破壊力は確かに強力無比であることはみんな知っていて、狙った相手は木っ端微塵に吹っ飛ぶことだろう。
しかし、それを使うためのリスクも非常に大きいのだ、それを知っての発言なのだろうか、ティレックスは頭を抱えていた。
「わかっているっつーの、使った後はお前の自身がスッカラカンになるんだろう?」
そう、つまり使ったが最後、ティレックスは戦力外になる――自らの能力を使い果たしてしまうからだ。
つまり、この一発にすべてをかけることになるわけだ。
「よし! なら決まりだ! 俺らはみんなでひきつける役を、
ティレックスは後方に控えてパワーチャージ、終わったら合図してくれ」
ラークスまでもがそう言って推し進めていると、ティレックスは更に困惑した。
「大丈夫! ティレックスならできるって!」
レイガスも言った。
「でもさ、実戦では一度も使ったことがないんだぞ――」
ティレックスとしては何よりその点が一番心配だった。
今のティレックスでは直ぐには発動できない、
発動までにはパワーチャージしないといけないという多大なスキも生じる、
そして、発動にかかる時間と使った後の自らの体力の消耗とリスクの高すぎる技――
どう考えても実戦に耐え得る代物ではないことは明らかなんだけれども。
「ちょうどいいんじゃない? そろそろ戦績評価の時期でしょう?
ここで撃破ポイント稼いでおけば成績アップじゃん?」
もう一度言っておくけども、彼らはまだ学生なのだ、トキアの言う成績アップは文字通りの成績に貢献するということである。
評価の単位はいくつかあり、敵の撃破数も一応評価の対象となっている。
なお、彼らの成績上、教師の監督下でなくともある程度の戦いはできるようになってはいるものの、
それにしては離れすぎてしまっている――みんな心配しているかもしれない、彼らが最前線にいることは間違いなさそうだからだ。
最前線か――そうだな、ここでやっておくのもありか――ティレックスは考えた。
「わかった、みんながそこまで言うのならその作戦で行こう。
ただ――もちろん、標的を技の軌道上にそろえることだけは忘れるなよな!」
みんなは頷いた、今回は最大出力でぶっ飛ばしてやろうとティレックスは心に決めた。