なんとか死守し続けてきたが、そろそろそれもかなわぬことらしい、
敵はいよいよ重機を持ち出すと、一気に片を付けることにしたようだ。
「レンティス! あれは!」
ティレックスがレンティスに注意を促した。
「総員、退避! 建物の中に逃げろ!」
戦車砲が火を吹いた。建物全体が揺れた。
「もうダメだぁ~!」
ラークスは悲鳴を上げるかのように叫び、建物の中へと逃げ込んだ。
「くそっ、あんなに遠くに構えるだなんて攻撃のしようがないな……」
ティレックスは悩んでいた。
重機の設置場所が非常に遠く、一方的に攻撃してきた。台数は3台、もはや時間の問題か?
「トキア! 大丈夫!?」
リスティーンがぐったりとしているトキアに話しかけた。ディアナリスも心配そうに駆け寄った。
「えっ、どうしたの!?」
「戦車砲がエナジー・フィールドに被弾したのよ、そしたら――」
あまりの威力の大きさにトキアが耐えきれなかったようだ……。
「じゃあ、お姉様もそろそろ危ないよ!」
「ここで諦めたら何もかもおしまいになる――せめて私だけでも!」
リスティーンはそのままトキアの張ったバリアを維持し続けていた。すると――
「うっ、くっ……」
再び戦車砲がフィールドに被弾した。しかしそれでも絶え凌いでいる――本当に何者なんだこの人――
「腹立つわね、こうなったら――」
リスティーンはティレックスを呼んだ。
「こう、していればいいのか?」
「そう、頼むよ。一旦離すから、いい?」
ティレックスは焦った。エナジー・フィールドはそのままティレックスへと引き継がれた。
「えっ!? ちょっと、ちょっと、ちょっと!」
だが、そこへ再びエナジー・フィールドに吸い込まれるかのように戦車砲が被弾した。すると、
「うわぁー!」
ティレックスはエナジー・フィールドを展開している魔法の発動場所から、一気に建物内の奥まで吹っ飛ばされた。
「来るよ……」
エナジー・フィールドのバリアは消滅し、建物の入り口にはユーシェリアが構えていた、しかし、
「退いて!」
リスティーンが建物の出入り口へと向けて強烈な風魔法を発射した。
入り口の扉はおろか、さらにその向こう側の敵兵まで全部吹っ飛ばした。
「す、すっげえ威力だな――」
アーシェリスは愕然としていた。
しかし、リスティーンの様子がおかしい、それもそのはず……
「おい! みんなでリスティーンさんを支えるんだ!」
リスティーンは脚を痛めているだけあって自分の魔法を使用するのに踏ん張ることができず、上の向かって浮かび上がっていた。
そこへみんなで彼女が座っている椅子を後ろから勢いよく押し込むように支えた。
「よーし! みんな! 本気で行くよー!」
すごい、とてつもない力が発動し、後ろで支えている者も全力で彼女を椅子越しに押し込んでいた。
その力は敵の戦車砲でさえ押し返されるほど強大で、敵の侵入をかたくなに拒んだ。
しかしその力ももう――
「どうしたんだ!?」
アーシェリスは訊いた、彼女の力は徐々に衰え、そしてとうとうなくなってしまった。
「ゴメン、もうネタ切れだわ。こうなったら覚悟するしかないね。」
そんな! ここまで来て!?
もうリスティーンは力が残っていないという。あの強大な魔法による支援はこれで終わりか。
敵は大きく乱れた陣形を整えようと体勢を立て直している、それが整ったら彼らの最期だろう……。
「みんな今までよくやったよ。仲間のために頑張ったのにこうなってしまうなんて――」
ユーシェリアが言った。
「その通りだ、みんなよくやった。お前たちと一緒に戦えて良かったと思っている」
レンティスも言った。
「結局、”エクスフォス・ガラディウシス”については、コルシアスは倒されたけど、
それ以外については何も得られなかったな――」
アーシェリスは悩んでいた。すると、リスティーンは首を振った。
「得られたよ、一応ね。あそこであんたたちを騙してまで行動していたんだ、それ相応の収穫はあったよ。」
へえ、そうなんだ。だけど、こうなってしまってはそれももう無意味――
ところがどういうことだろうか、敵の様子がおかしい。
「なんか、変じゃない?」
ユーシェリアはその様子を不思議に思いながらそう言った。
慌ただしいだけならこの状況下なら当たり前だけれども、それにしてはなんだか変な状態なのである。
何かあったのだろうか? その疑問はすぐに解けた。
「あのさ、海の向こうに大きな船が見えるんだけど?」
建物の屋上から様子を見ていたラクシスが訊いてきた。
何人かを屋上へと連れていくとディアナリスと共に船の位置を指さして言った。
「どこの船だろう?」
「少なくとも、リベルニア軍の船じゃねえって感じだなぁ……」
ラークスはそう言った、確かにリベルニアの軍艦とは違う感じがした。
「確かにリベルニア軍にとってみれば知らない船であることは間違いなさそうだ。
見ろ、連中も船を見ながら不思議そうにしているようだしな――」
レンティスの言う通りだった。
「バディファさん――あれ、どこの船でしょう?」
クレンスは訊いた。
「さあ? でも、形だけならなんとなくディスタードの船に似ているような気もしますけどね――」
だけど、ディスタードの船なら――もっとこう……戦争しているって感じの色、
なんというか……もうちょっと全体的に黒っぽい色のハズだなのだが、
あれはどう見ても純白というのが相応しいほどの白い船だった。
「あれってまさか戦闘艦か!?」
ティレックスは驚いた。
大きなカノン砲台を搭載しており、あからさまにこちらを狙っているような気もした。
あれが敵だとしたら――
「ふむ、あの形は間違いなくディスタードの船ですね。
しかし、あんな白いのはディスタードにあるような船ではない気がします、謎、ですね――」
バディファはそう言い切った、色だけが謎である。
すると、巨大なカノン砲の口は動き出すと、改めてこちらを狙っていた!
「ちょっとちょっと! こっち狙ってない!?」
ユーシェリアは驚いていた、それはマズイのでは――
しかし、カノン砲から放たれたのは物理的な弾頭ではなく魔法弾だった、
それもとびっきり大きいものが、彼らの頭上で複数に分散すると、魔法はすべて敵のほうへと飛び散った。
さらにしばらく魔法弾はそのまま残り、敵を翻弄しているかのようだった。
「……ただの破壊兵器という仕様ではなさそうだけど、あれは一体?」
ティレックスとユーシェリアはリスティーンを建物の窓から見える位置まで動かし、そこから船を眺めていた。
「お姉様、見えますか?」
「うん、ばっちり。ありがとうね。」
「それより、あの船は何なんだろう?」
リスティーンは――
「……確かにディスタードの船っぽいけどそれ以上はわからないわね。でも……なんか引っかかるような――」
確かに形はディスタードの戦艦みたいだけれども色があからさまに違う、
ディスタードならわざわざあんな色にしないし、第一あんな魔法弾を放つとかはしないだろう、
相手がディスタードなら間違いなく物理弾頭のカノン砲で敵を破壊するに決まっている。