追撃の兵士がこちらを狙っている。
「流石に敵地を狙うとなると逃げるのも容易ではないということだな――」
レンティスはリスティーンの前に立ちはだかって構えていた。
「どこか安全なところまでいけないだろうか?」
「お姉様こっち!」
ティレックスとディアナリスの兄妹がリスティーンの両脇を抱え、港のほうへと向かっていた。しかし――
「ちょまっち。接近戦は無理だけど、これでも固定砲台程度には役に立つからね。」
ティレックスとディアナリスはそう言うリスティーンに困惑していた。
逃げ場を失った一行、港の前でなんとか前線で戦い通していた。
幸い港にいるはずのリベルニア兵は全員首都本部に向かっていたせいか誰もいなかったため、港の制圧自体は簡単だった。
港の建物の上にはリスティーンという名の固定砲台が事務用の椅子に座りながら魔法でなんとか敵を蹴散らしているが、
足が痛いせいなのか、コントロールが定まらないようだ、命中率がおかしい。
「それは違うな。なんとなく特定の軌道を走っているような気がする」
ラクシスはそう言った、特定の軌道?
「しかも私らはロックされているよ! 大きな魔法を撃つために魔法陣刻んでる感じだよ!」
魔法の効果範囲内でもロックされている者は魔法の効果が及ばないという。
大きな魔法を撃つ以外にロックをするという余力があるということは、
そこそこに高尚な使い手だということだ――あの人、本当に何者なのだろう?
正体と思しき人を考えても、それでもこれほどの使い手の人――アーシェリスらもティレックスらもそんな人をそうそう知らない。
ましてやあのディルフォードやイールアーズを以てしても、このおねーさんほどの使い手は――
魔法が発動すると巨大な竜巻が発生し、周囲を巻き込んで粉砕した。そうか、風魔法――そのアイデア頂いた。
アーシェリスはそう考えると竜巻の中から飛び出し、自分の剣から強大な竜巻を発射して、
前方にいる敵を一度になぎ倒した。
「アーシェリス、今のは――」
ラクシスが訊いてきた。
「これが媒剣術の極意だそうだ、エルテンから教わったんだ」
すると、ラクシスは頷いた。
「今のからすると、イメージで繰り出したって感じか?」
「まあ大体合ってる。大技となると繰り出すのも難しいだろうけど、多分言うほど難しいことではない気がする」
このままではじり貧なのは明白、いちいち1対1の戦いに持ち込んでいると限界は見えている、となると話は簡単――
「だからと言ってただ範囲攻撃をすればいいというわけではない。
メインはあくまでリスティーンさんの竜巻魔法だ、あれを凌ぐ使い手はこの中にはいないハズだ。
だけど砲台の都合であれ以上射程を延ばすことはできない」
ということはつまり、散開せずに戦うしかないということである。
だが、それはそれで今度は敵の集中攻撃の的になりやすいのだが――それを見越しての作戦だった。
「う、うまくいくかな――」
クレンスは自身なさそうにそう言った。
エクスフォスのお家芸である媒剣術、自分たちの力でどれほどまで挑戦できるのだろうか、
一刻の猶予もないうちにいきなりの実戦登用だけれども、なんとかやってみるしかないだろう。
なんとかして前線を死守するも、それも限界に近づいていた。
敵の数が衰えるということはなく、むしろ増加の一途をたどっているからである。
固定砲台のリスティーンの竜巻によって多くの敵だけでなく、敵の攻撃そのものも弾き飛ばされる――まさにバリアだった。
しかも砲台自身が迎撃を行うのでそちらへの被弾の心配がないのは僅かな救いである。
とはいえ、あの魔力が永久的に持つわけではなく、いつ切れるのかが心配なところである。
そして若いエクスフォス組は特にその竜巻へと押しやるように、媒剣術の範囲攻撃を繰り出し、
何とか成功――作業こそ単調だが、敵を竜巻に追いやる作戦を展開し、固定砲台による範囲攻撃内に敵をまとめてしまうという行為である。
アーシェリスが考えたこの作戦だが思ったよりも結果を残し、彼らの寿命を延ばすことに成功した。
しかしその寿命も恐らく刹那のもの、それにこちらもそれ相応の体力が残っていないと継続が困難というのが最大の欠点、
これ以上敵の数が増えたら――。
とりあえず、リスティーンという固定砲台が強すぎるおかげか、敵のほうはあらかた片付くと、一行は港へ退避した。
敵は今のところは動きがないが、目前で大群で陣形を構えて待機していた、あの集団でこの港を攻めてこられたら――
「最後は背水の陣しかないかな。」
固定砲台と化していたリスティーンは事務椅子ごと建物の中へと運ばれるとそう言った。
確かに背後は海、文字通りの”背水の陣”であった。
「それにしても港に船がないってどうなっているんだ!?」
アーシェリスはそう言うとクレンスが言った。
「小さなボートならあるけど――」
ディアナリスは首を振った。
「あんなに小さなボートで外洋には出られないわね。
スペック的に敵からの集中砲火に耐えることもできないでしょうし、
たとえそれがうまく交わせたとしても、そのあとは遭難してしまうと思うわ。
それに、もし、トレアルに泊まっているリベルニアの軍艦に追われたりしたら逃げきれないわね――」
「せめてバディファさんのボートぐらいあれば、なんとかティルアにはたどり着くのだろうけど――」
ラクシスも悩んでいた。戦いよりもこれから次の計画――脱出の可否について話し合っていた。
次に敵との衝突には耐えられないだろう、そう思っていたからだ。
「来たよ! みんな、敵に備えて!」
トキアが敵の進軍を確認すると、みんなに注意を促した。
ということで、今度はリスティーンによる即席の背水の陣作戦である。
港の建物の入り口はゴツゴツとした岩岩で入り組んでいて、ちょうどトラック1台程度ぐらいのスペースしか幅がなかった、
とりあえずここを死守すれば、あるいは――。
「お姉様! 敵が来たよ!」
「ほい、来た。それじゃあ開始。」
リスティーンとトキアはディアナリスのその合図で建物の入り口にエナジー・フィールドを張った。
「触れるとバリバリだよん♪」
魔法自体はトキアの魔法だが、その魔法にリスティーンが力を合わせてより強いエナジー・フィールドが完成した。
「お姉様のすごい魔力……こんなエナジーフィールド張ったの初めてです!」
「はじめてじゃあないでしょ。まあいいけど。」
トキアははっと気が付いた。あれ? そういえば初対面じゃなかったっけ?
「そんじゃ、悪いねっ★」
リスティーンはエナジー・フィールドの周囲に集まった敵をまとめて風魔法で切り刻んだ。
だいぶ魔力に余裕があるみたいだ。
「敵がよく集まるなー。これは撃ち放題だな――」
ティレックスは港の建物の屋上からその様子を見ていた。
「あんまり頭を出すと逆に撃たれるよ?」
ユーシェリアが注意していた。
港の入り口だけ守っているけれどもそれだけでいいわけがない、各人が散開して建物への侵入を阻止していた。