アーシェリスたちは影の極意がリスティーンに襲い掛かっている状況へとやってきた! だが――
「はいはいざこざこ。」
突然リスティーンの身体からとてつもないパワーが展開された!
「なっ!? 何だこの力は――」
「見りゃわかるでしょ。」
「力が、まるで、吸い取られていくような気分だ――」
「そうでーす♪ 本当に吸い取っていまーす♪ 大正解、大変よくできました! はなまる!」
力を吸い取っている!? まさか――アーシェリスには何となく身に覚えがあった、もしかして――
「さーて、この場に存在するマナのパワーよ、この私の力となってあのバカ男を始末しちゃお♪」
なんだ、最後の”しちゃお♪”って。
「ほほう、影の極意のパワーってわけか、なるほど。」
コルシアスの影のパワーを奪い取り、自らの力としていた。
ところが、コルシアスはそれに対して特に動揺を見せることもなかった。
「はっ、その程度でこの俺に勝ったつもりか?
確かに面白い力を持っているようだが所詮はその程度のようだ。
それで? だから何だというのだ? 魔法剣? そうか、貴様も同業者か――」
「黙れ。お前と一緒にするな。虫唾が走る。」
「減らず口を!」
またキレたコルシアスはダッシュを仕掛け、リスティーンを切り抜いた。
「ククク、たったそれだけの極意で調子に乗ったのが運の尽きだったということだな」
しかし――
「あら♪ よくわかっているじゃないの♪ それがわかっているんだったら後悔はあの世ですることね♪」
えっ、生きている!? それもそのはず――
「なっ、何だと!? こっこれは一体、どうしたこと――」
斬られたのはコルシアスのほうだった、コルシアスは正確にリスティーンを切り抜いたハズだったのだが――
「お姉様のあの剣相手に立ち向かう勇気だけは買うけどなぁ――」
その様子を見守っていたユーシェリアがそう言った。
そう、リスティーンの剣はリファリウスの剣同様、相手の武具をボロッカスに破壊してしまうほどの妙な切れ味を持っている、
だからコルシアスの剣もダッシュ斬りで正確に切り抜くつもりで相手の剣を受け太刀をしたつもりだったが、
残念ながら刃が彼女の身に到達する前には真っ二つに吹き飛んでしまっており、
反対に彼女の剣がコルシアスの身を引き裂いていたのである。
「あーぁ、バカなやつ。
仕掛けるんだったら相手の業だけでなく得物もきちんと確認してから相手をしろよ……って言っても、もう遅いよね。」
リスティーンがそう言うとコルシアスはその場で崩れ去った。
「ったく! あんたの血で私の剣に錆ができるのもゴメンだって言ったでしょ! こいつマジふざけんなよ! まったく!」
ちょっと理不尽過ぎやしないか?
いや、でも――ティレックスはこの人がどういう人なのかに心当たりがあった、この人は間違いなくあの人だが――
「いいわ、この程度なら別にどうってことないし、ここは終わったから良しとしましょう。
あとは追加のアルディアス軍とガレアからの支援軍がやってくるからもうじきここは陥落するよ、早いところ脱出しちゃいましょ。」
えっ!? ちょっと待った! ガレア軍って、ディスタードがここに乗り上げてくるって!?
いや、それはマズイだろう! エダルニア軍との戦争になってしまう!
「大丈夫、アールもバカじゃないよ、その辺考えてやっていることだし。
だからもう、思い残すことはないよね!」
一方で、ラクシスとディアナリスは――
「僕は今まで何をしていたんだろう――」
ラクシスは頭を抱えていた。
「ごっ、ごめんね、ラクシス君!」
ディアナリスは必死に謝っていた。
「いや、ディアナリスさんは悪くないよ――僕がどうかしていたんだ。
だから謝るべきはむしろ僕のほうだよ、本当にごめん――」
ディアナリスは必死に首を振っていた。
「そんなことないから! でも、とにかく、元に戻ってよかった!」
元に戻って――その言葉に反応したラクシスは……
「そっか、ラミア族の鞭に打たれた効果だったんだな。
でも――僕なんて”ソウル・ディパーチャー”っていう使い手なんだぞ?
つまりは精神修行をしているような家柄なんだ。
それなのに――まだまだ僕も未熟ってことかな――」
そんなこと! ディアナリスはそれを必死に否定していた。
「それを言ったら私のほうこそよ! 私なんて、ラミア族の力なんて嫌ってた。
男の子たちは私の能力のせいでみんなおかしくなっちゃうの、だから――この能力を、私に流れる血を疎ましく思ってた。
私は他の女の子たちのように普通に過ごすことができないんだって。
でも――ある友達に言われてね、そんなの気にせずに楽しく過ごせばいいじゃんって言われたんだ。
もちろん、最初は私も聞き入れなかったけど、でも――その友達と一緒に過ごしているうちにいつしか自然と気にしなくなってた――」
ラクシスは頷いた。
「妖魔には妖魔なりの苦労があるってわけか、僕にはよくわからないことだけど――でも、話を聞いている分には大変だったことはよく伝わるよ」
ディアナリスは頷いた。
「あなたのほうこそ、そういう家柄なんて言うからには普通の子たちと同じような生活をしたことはないんじゃなくて?」
ラクシスは頷いた。
「確かに、不自由を感じたことはあったけどね。
それこそ、幼い頃は霊の声が聞こえたりもして、嫌な思いもしたこともあった、
今はそれも慣れて訊きたいときにだけ聞こえるようにとコントロールできるようにもなったけどね。
でも、その当時僕が感じた不自由って言うのは決して不自由なんかじゃあなかったんだ。
何故かって? みんな――僕と同じなんだ。
人は大なり小なり何かしらに縛られて生きている生き物なんだって――。
そう、それは不自由なんかじゃなく、たまたま僕に割り当てられた役割でしかなかったんだ――」
役割――ディアナリスは考えていた。
「アーシェリスにはアーシェリスの――両親を亡くしたことで不自由を感じたことはあっただろう。
だけど彼は――今やエネアルド師団の一員として頑張っている。
フェリオースだって――今や何をしているのかわからないけど、お姉さんのことを考えて行動を起こしているんだ。
僕だってそう――ソウル・ディパーチャーの家柄に生まれたことでいろいろと頼まれることは多いけど、
つまり、僕にしかやれないことがあるから頼ってきているんだ。
それはむしろ、とっても光栄なことなんだ――」
そしてラクシスはディアナリスのほうに向き直った。
「確かにラミア族の鞭は幸せの鞭だった、少しの間だけど自分の役目を忘れられたような気がするよ。
でも、流石に放棄するのはダメだよね?
自分に与えられた大切な役割――頼ってくる人のためにそれを放棄するのは――」
それに対してディアナリスはにっこりとして答えた。
「放棄したっていいんじゃない?
やりたいことをやればいいのよ、私はそう言われたわ。
自分の血に何が含まれようと、自分を精いっぱい貫いて生きていくのがいいんだって。
もちろん、あなたのその考え方は間違っていないと思う、
あなたのように頼られて生きていく世界なんていうのもとっても素敵!
だから――そう、人はもっと、自由でいいと思うのよ! 少なくとも私はそう思ってる!」
自由か――ラクシスは考えさせられた。
すると、2人は互いに見つめ合っていることに気が付き、お互いに顔を真っ赤にして照れていた。
「あっ!? いや、別に、その――」
「やっ、やだわ! 私べつに、そんな――」
しかし、そんな仲でラクシスは――
「でっ、でも、僕はあれなんだよね、その――ディアナリスさんにデレデレだったんだよね!?
いや、その時のことは鮮明に覚えているし、確かにとっても嬉しかったけど、改めて考えると――自分がそんなことになっていただなんて――」
と、顔を真っ赤にして照れた様子のままそう言った。それに対してディアナリスも顔を真っ赤にして答えた。
「いっ、いえ! あんなの、ただのまやかしに決まっているじゃない!
でも、それなのに、そんなとっても嬉しいだなんて――」
すると、ラクシスは大事なことに気が付いた。
「あっ! いけない! みんなのところにいかないと!」
そう言われてディアナリスも気が付いた。
「そうだわ! 早く行かないと!」
そして、2人は慌てて立ち上がって一緒に扉から出ようとしたら――
「あっ、先にどうぞ――」
「いえ、あなたが先にどうぞ――」
って! 2人で何をイチャイチャしとるんだね! いい加減、こっちもハラハラしてきたよ! いろんな意味で!