「そういうわけで私、合図が来るまで兄さんぶったたいているようにしたのー♪
痛くなかったでしょー♪」
クレンスがアーシェリスの手足を縛っている鎖をなんとかほどきながら言った。
「たっ、確かに――だけど、それにしては本格的に操られていたみたいな感じだったような――」
「うん! それはそうだよ!
敵を騙すにはまずは味方からってリスティーン姉さまが言ってたし!」
どういうことだよ。
ティレックスたちも無事で、ティレックスはアーシェリスと同じようにユーシェリアに説明してもらっていた。
「随分と回りくどい作戦だな、こんな話は聞いてないぞ――」
「そりゃあ言うわけないもんねぇ♪
全部仲間を助けるためならこれぐらいのこと!」
「確かに、ここにいたアルディアスの連中を結集させるにはちと時間が要るか――」
ティレックスは大変なことを思い出した。
「そうだっ! ディアナリスは無事なのか!?」
「彼女は無事よ。もとより、リスティーン姉さまと一緒にあちこち行っていたみたいだし――」
おい、そのオチ……やはり誰かのような気がする……。
そしてラクシスとディアナリス――
「大丈夫?」
「ああ……僕は大丈夫だ、ディアナリスさん――」
ラクシスはディアナリスの姿を見てぼーっとしていた。
その様を見てディアナリスは悩んでいた。
「ちょっと強かったかな……」
それに対してラクシスは――
「いいや、全然痛くないよ、ディアナリスさん……キミはなんて素敵な人なんだ――
僕はキミのような美しくて素晴らしい女性はこれまで見たことがないよ!
そう……キミはまさにこの世に突如として現れた女神様そのもの!
これからキミのことは”女神ディアナリス様”と呼ばせてもらうよ!」
ディアナリスは悩んでいた。
「強すぎたというより、彼自身に耐性がなかったようね……。
まあ、少し経ったら元に戻るでしょう。
だけど”女神ディアナリス様”と呼ぶのは辞めてちょうだい――」
「それなら”天使ディアナリス様”!」
「それもダメ。いーい? 私のことは普通に”ディアナリス”と呼んでいいから――」
「なっ!? なんて奥ゆかしい人なんだ! 本当に素敵な人だ!
ディアナリスさん! 僕は、僕は、ディアナリスさんのことが好きだ!
キミのような奥ゆかしくて美しい素晴らしい女性が大好きだ!」
ディアナリスは少々呆れていた。
「参ったわね、これは重症だわ――」
ラクシスはぶっ壊れてしまったようだ――。
手下がラークスを退けると、次にクレンス、トキア、ユーシィ、ディアナリスを――
「待て! やめろ! やめるんだ!」
「うっふっふっふっふ、楽しみね、可愛い娘ちゃん4人なんて♪」
4人の女性陣はうつむいていた。
「さてと、これからここは女の園になるんだから、お前らも全員ここから出ていきな!」
手下たちはリスティーンのそのセリフに驚いていた。
「いいから、さっさと出ていきな! 女の園に男子は立ち入り禁止だよ!」
手下たちはしぶしぶ退場した。さらに、リスティーンは監視カメラも鞭で叩き壊した。
その様に手下たちはなおも驚いていた。
「あん!? なんかもんくあっか!?
言っとくけど覗きはもちろん”その手の類”の撮影は一切お断りなんだよ!
アタシに女の子の裸を野郎共に披露させるような趣味はねえんだよ! いいか!
こいつはアタシのポリシーだ! どうしても女の裸を見たけりゃ他所をあたりな!」
……確かに、それはわからんでもない――手下たちは少々がっかり気味にその場を後にしていた。
そして扉が閉まり、リスティーンは鍵をかけると――
「うっふっふっふっふ、ここからは女同士ね。さてと、どんな楽しいことをしてあげようかしらん♪」
楽しそうなリスティーンは鞭をくるくると振り回すと辺りは真っ白な霧のようなものに包まれていった、
念押しに覗き防止と言わんばかりの処置のようだが――。
だが、楽しそうなリスティーンとは裏腹に、4人は恐怖でしかなかった。
「最初はまず、その女がいいわね――」
と、リスティーンは鞭を片付けつつ、ディアナリスに優しく話しかけた。
「よく、人質役をかって出てくれたわね。」
3人はキョトンとしていた、”役”って? というか、そもそもどうして話なんかを?
「ええ、こうでもしないと多分コルシアスと激突した時に犠牲者が出ると思って――」
「うーん、確かに私もそう思うわ。特に血気盛んな風の媒剣術あたりが――」
そこへクレンスが口をはさんだ。
「それってうちの兄さん?」
「まあ、そういうことになるわね。」
そしてトキアも口をはさんできた。
「えっ、まさか――リスティーン……さんって仲間?」
「一応ね。私はリファと手分けし……まあ、いろいろとやっているのよ。」
「リファってまさか、リファリウスさん!?」
「そうよ、一部の人には言うまでもないだろうけど、知らない人は――」
リスティーンは4人の様子を見た。
「あらトキア、どうやらあなただけみたいね。」
えっ、私ですか? トキアは的を得ぬまま訊ねた。
「クレンスは少し前に話したし、ユーシィとディアナリスには個別で話をしたわよね?」
3人は頷いた。
「そういうわけで、その後は姉さまにそそのかされたフリをして男どもを鞭でぶっ叩くように頼まれたのよ」
と、アーシェリスらとティレックスら、そしてトキアが集まると、彼女は話を続け――えっ、ちょっと待てよ?
「で、リスティーンさんが何を話したんだって?」
アーシェリスは訊いた。
「ダーメ。その話は女同士の秘密なんだから!」
ああはい、そうですか……。女同士の秘密の話、秘密の話と言えばずいぶん前にも――
「ほら、アルディアス軍が到着したんだよ! ほかのリベルニア兵を何とか鎮圧しなくちゃ!」
そうか、司令官が倒れても残党がいるのか。でもその前に――
「待った。リスティーンさんって今はコルシアスと戦っているんだろう?」
アーシェリスは気が付いた。そうだ、コルシアスは強敵――助けに行かないと!
「ククク、愚かな女だ――その勢いでこの私に勝てるとでも?」
司令官室へ急いだ一行、リスティーンがコルシアスと対峙していた。
「そんなん、やってみなきゃわからないでしょ。」
「哀れな……しかし、それが望みだというのなら仕方がない――この俺の剣の錆にしてくれよう!」
「そんなのお断りよ、あんたの剣の錆になるつもりはないし、あんたの血で私の剣に錆ができるのもゴメンだわ。」
その光景に対してバディファが叫んだ。
「リスティーン! コルシアスは強いぞ! 無茶するな!」
「いいから、そこのあんたは拷問疲れしているんだからそこでおとなしく寝ていなさい。」
ちなみに拷問官はリスティーンが持ってきたかなり強い睡眠薬入りの酒を飲んでいたため、完全に気を失っていた。
「他人の心配よりも自分の心配でもしたらどうだ!」
コルシアスは一方的に攻撃を仕掛け続けていた。
「どうだ! 手も足も出るまい!」
「はァ? なんでわざわざあんたの小技に併せてそんな労力を使わないといけないのよ?
そもそも手も足もあえて出していないだけであって、その気になれば私はあんたをいつでも殺れんのよ。」
確かにリスティーンは何もしている気配はない。
彼女の周りを取り巻く何かがコルシアスの攻撃を妨害しているようだが、それがなんなのかは肉眼では確認できなかった。
恐らく魔力の層みたいなもの――大掛かりな防御効果故にそういう意味では全力でガードしているような感じだが、
彼女からはそういうそぶりすら見せない――やせ我慢のような気もするが――
「だけどね、私ってばあいにく殺しがニガテなのよ。問題なのはそれ以上に手加減するのもニガテってことなんだけどさ――」
「黙れ!」
コルシアスはキレた。
「わけのわからんことを抜かすな――」
コルシアスは力をため、影の力を結集させた。
「あっ! あれは影の極意!」
リベルナ監獄で見た時のあの光景が、バディファの脳裏をよぎった!
「あれはマズイ! リスティーンさん!」
しかし――
「今更遅い! 後悔はあの世でするんだな!」
影の極意がリスティーンに襲い掛かる!
「終わりだ!」