2日前の出来事――
「火曜日?」
「ああ、曜日ごとに暗号コードと侵入可能な人間……種族が決まっているらしい」
「侵入可能な人間って――」
アルベストスというのはティレックスのようなアルドラスティス人に対してつけられた暗号コードらしく、
火曜日にその暗号コード、つまり合言葉を言うとアルドラスティス人なら侵入ができるそうだ。
「しかもこの暗号コードは3か月おきに変更されるし、変更と同時に入れる曜日も変更されてしまう。
仲間からすでにこの情報をもらっていたんだ」
しかし、そのような頑丈なセキュリティによって考えられている暗号コード、
外部のアルドラスティス人が知っているハズもないため、入れるかどうかは怪しいギャンブル行為だった。
言ってもすでに戦友が侵入していることもあり、入れる可能性はむしろ高そうなものだが。
「それだけじゃない。今月の火曜日の見張り番、トルバスタ人だからな」
と、ティレックスはダメ押しの一言を放った。
見張り番も定期的に変更されるのだが、トルバスタ人といえばアルドラスティス人にかつて助けられたという歴史があるらしい。
だからアルドラスティス人に対してはチェックが甘いということもあるそうだ。
「逆に、あんたらエクスフォス人は、アルドラスティス人が捕まえた捕虜ってことでいいよな?」
一方でトルバスタ人はファルクス人とはあまり仲が良くなく、
ファルクス人と同盟を組んでいるエクスフォス人ももちろん同類、そこは仕方がなかった。
「怪しい連中ですか、わかりました。
それでは行先はリベルナ監獄ということで?」
「そうだな、まずはリベルナ監獄へ向かうか。案内してくれるだろうか?」
「それでは外の者に伝えますのでお急ぎください」
と、話は進んでいるのは一向に構わないのだけれども、エクスフォスに対する扱いが雑すぎるのが気がかりだった。
腕に縄を締め付けられるわ乱暴に車に押し込められるわで散々な目にあった。
ところが、そのリベルナ監獄にたどり着くととんでもないことが起きていた。
「あっ、あれは一体!?」
車を運転していた兵士が異変を確認した、監獄の建物から何やら煙が――
「火事だ!」
アーシェリスは叫んだ。
「あいつは媒剣術の使い手じゃあないか!?」
ラクシスはそいつの存在に気が付いた。
「ということはまさか――あいつはエクスフォスか何かか!?」
アーシェリスはにらみつけながらそいつの存在をこの目で確認した――いや、ロバールではなさそうだが――
するとバディファが声を荒げて言った。
「コルシアスだ! あいつはコルシアスですよ!」
なんだって……!?
「何だと!? コルシアスだと!?」
車に乗っていた兵士たちがバディファのそのセリフに激しく反応すると慌ただしく動き始め、コルシアスに向かって攻撃を開始していた。
「出やがったなコルシアス! 今この場で貴様を処刑してくれる!」
「撃て! 撃て!」
何だろう、リベルニア軍の兵士がいきなりコルシアスに攻撃を開始している?
それにコルシアスがリベルナ監獄を落としている、なんでだろうか?
「やめておけ、俺を撃つと貴様らに明日はない――」
コルシアスは余裕な口ぶりでそう言い放った。
「構うな! 撃て! 撃ち殺せ!」
しかし――
「哀れな――」
コルシアスは剣からとてつもない闇の波動を振るい、
敵対する者すべての影を縛り付けるとリベルニア兵をすべて破壊した。
「だから言ったろう? この俺を撃つと明日はないという忠告を無視したばかりに――」
するとコルシアスはこちらへと向かってきた。
「それで、貴様らは? どうやら死にぞこないも含まれているようだが――」
「くっ、コルシアス――」
バディファは怒りをあらわにした。
「そうか、お前があれか、フェリオースが言っていたアーシェリスというやつか」
「ああ、そうだ。それよりもお前らは何なんだ! ”エクスフォス・ガラディウシス”って何だ!
お前らは何のためにこんなことを!」
アーシェリスは今までの怒りをすべてぶつけるように言い放った。
「ふん、大したことではない。エクスフォスの本来あるべき姿を実行している、それだけだ」
これがエクスフォスのあるべき姿だって!?
「そうとも。それを邪魔立てするというのであればたとえ同族であろうとも許さん。
それで最初の生贄になったのが――そうとも、貴様の両親だったというだけのことだ」
くっ、こいつ……言わせておけば! アーシェリスは頭に血が上り、剣を引き抜いた。
「なんだ、やるのか? とはいえ、次の目的を果たさないといけないのでな、
貴様らのような虫けらの相手をしている暇などないのだよ」
「何をする気だ!」
「貴様らに答える云われなどないが……そうだな、”エクスフォス・ガラディウシス”の目的を果たすため――それだけは言っておこうか」
こいつ、ふざけているのか? ”エクスフォス・ガラディウシス”の目的など知らなければ、
そいつらがやろうとしていることを止めようとしているのが俺たちだ! アーシェリスは怒りに任せてそう言い放った。
「そうか、仕方がないな。邪魔をするというのならここで死んでもらうことになるが――」
コルシアスは剣を引き抜いた。アーシェリスの後ろにいた者たちもそれと同時に剣を引き抜いた。
「そうか、そんなに死にたいのであれば止めはしない――」
ところが、余裕だったコルシアスにとって、一つだけ計算外だったことが。
「くっ、この力は――媒剣術ではないな――」
それはティレックスの月読式破壊魔剣だった。
「次は……外さないぞ」
しかし、ティレックスのほうもその技を放つのに結構大変だったようだ。
「……部外者がいるのか、興ざめだ。
ふん、まあいいだろう、今日のところはこれで見逃してやろう」
そう言うと、コルシアスはどこかへと去って行った。
「待て! コルシアス!」
しかし、コルシアスの腕は流石にアーシェリスたちよりも上だった、
ティレックスの技も流石にコルシアスを倒すまでには至らなかったようだ。
そのため、コルシアスは適当な技でアーシェリスたちの目をくらまし、そのすきに消え去っていた。
「くっ、流石にコルシアスは強いな……、
俺の親父でさえ倒せなかっただけのことはあるか――」
ティレックスはそう言い捨てた。
「倒せなかった? 仇なのか?」
「いや、親父は――親父の部隊はコルシアスを止められないと判断したらしく、
アルディアス軍はコルシアス討伐を断念したようなんだ」
そうなのか、戦いを断念するほど――