問題は次はどうするかである。方向性が一向に決まらない。
確かに”エクスフォス・ガラディウシス”をどうにかするというのはわかった。
だけど、具体的にどうすればいいのかがわからない。
「バディファさんはどうやってガレアに?」
ラクシスは訊ねた。
「私は自分のボートに逃げ込んで、フェリオース君らを振り切ると、そこを漂流していたところをガレア軍に保護されたんだ。
エネアルド本土を経由してきたわけではないから今の本土の状況はわからない」
「そうですか。俺はすぐさまガレアへとまっすぐ駆けつけてきただけですけど、特にこれと言って――」
「キミの家はエネアルドでも一番街から外れたところにあるから、そのせいではないのかい?」
「確かにそれも一理ありますね、港が閉鎖されている感じでもありませんでしたし――」
その時、ティレックスが話に割り込んできた。
「なあ、トレアルに行ってみるというのはどうだろう?」
トレアルと言えば――そういえば、ワイズリアがリベルニア軍がどうのこうのって言ってたっけ。
トレアルというのはリベルニアの東部の玄関港だから関係はありそうだ。
「当てがないというのなら、俺的にも行っておきたい場所でもあるんだけど、どうだろう?」
ティレックスにも事情があるわけだし、アーシェリスたちとしても利害が一致する。
というのも、リベルニアと言えば以前にロバールが目撃されたこともあったらしく、
今のやつの動きはどうなのだろうか?
いや、そもそもロバールは結構あちこちで目撃されているらしいが、今はどこに――?
リベルニアについては残念ながらガレア軍が容易に立ち入ることができない国であるため、
ルシルメアまではたどり着いたけれどもそれから先は自力になりそうだ。
バディファのボートもガレア製だから攻撃される恐れがあるし、ここは安定的に定期船を使ってトレアルへと向かった。
「しかし、リベルニアには簡単に入れたな」
「旅人に開かれている東部への入国はたやすい。
問題は軍本部がある西部への入国が困難であることだ。
そしてティレックス君の目的は?」
バディファは訊いた。
「実はその西部に用がある。どうしても行かなければいけない」
ティレックスの目的はとある人物に会うこと、そこまでは訊いたけど誰に会うかは戦友だと訊いただけで、
具体的に訊いたところでわかるハズもなさそうだ。
しかし、その戦友というのがなんでわざわざそんな面倒なところにいるのだろうか、アーシェリスらは少し気になった。
いや、アーシェリス自身も親友だったフェリオースが面倒なことになっている、それはお互い様か。
トレアルの町は戦争の影響のせいか兵隊の数が多かった。
長居は無用、なんとかうまい具合に外に出ると旅を続けた。
ティレックスはアーシェリスたちからエクスフォスのことをいろいろと訊いていた。
「そうか、万人斬りや鬼人剣と対面して無事だったのか、それは幸運だな――」
「本当ですよアーシェリスさん! 無茶はしないでくださいね!」
「そんな……。別に会いたくてあったわけでは。当時は避けようがなかったんですから、ムチャクチャ言わないで下さいよ」
例の戦いの話で盛り上がってしまった、背景を考えるとそもそも盛り上がるような話ではないのだが。
アーシェリスだけでなく、ティレックスの事情もいろいろと聞くことになったのだが、
そこでアーシェリスたちは痛感したことがあった。何というかエクスフォスが弱いように見えなくもない。
バラトール人といいシェトランドといい明らかに何かが違うような気がする。
いや、クラフォード、シェトランド、そしてアルディアス人――人種の違いではなく、これは場数の違いなのだろうか、
確かにエクスフォスというか――エネアルドは少し平和すぎた、その報いなのではなかろうか。
それでもアーシェリスは唯一ティレックスに勝てそうな要素があった、それは――
「アーシェリス、今の話を聞いた感じだと、ドレイクみたいな硬いのよりもあそこにいる魔鳥とか退治するのが得意か?」
と、魔物の気配がし始めてきたころにそんな話をしていた。
ティレックスは相手の特性をすぐに見抜いていて、そのあたりでも差があることをアーシェリスは痛感していた。
一行は何とかして魔物を何とか退けた。
「さて、行くか――」
というティレックスのセリフとは裏腹にエクスフォスら一行は息を切らしていた、バディファ以外は。
ティレックスは強いという場数の違いを感じさせられた。
「……少し休んで行こうか?」
そしてティレックスに心配までされてしまう始末。
「いや、いいんだ――戦いなんてもの自体しなくなって久しい種族なんでね、
ほら、アルディアスと言えば少し前まで長きにわたり戦争があったんだろ?
俺たちエクスフォスなんてちょっと前にシェトランドと衝突した、その前は俺の生まれる前の話、そんな感じだ」
「いや、そういうことじゃなくて。休んだほうがいいかってことなんだけど――」
アーシェリスたちは忠告通りに休むことにした。
それからややあって、何とかリベルダスの町までたどり着いた。
魔物が出るので何があったかはあまり言うほどのことではなさそうだが――
リベルタスの町はリベルニアの東西を隔てる町、関所があるのだ。
「さて、問題はどうやって西側へと向かうかだ」
アーシェリスがそう言うとティレックスが言った。
「そこは俺に任せてくれないか?」
それはどういうことだろうか。
「俺に考えがある、ここの関所ぐらいなら難なく突破できると思う」
ほかに何があるわけではない、少々心配だけれどもここまで来て諦めるわけにもいかず、ティレックスに任せることにした。
しかし、任せるにしても、ティレックスは2日待ってくれと言ってその間足止めを受けていた。
ようやく動き出したのは、さる火曜日の朝――
「本当に火曜日ならいけるのか?」
「ああ、俺が聞いた話が確かなら火曜日で間違いない、さあ行くぞ」
関所のゲートがある建物の中に自然を装い、侵入した。すると――
「そこの者! 止まれ! 何者だ!」
そこでティレックスたちは一旦止まると、ティレックスは口を開いた。
「……アルベストスだ」
ティレックスは呼び止めた者に対してそう言った。
「アルベストス……よし、いいだろう! 通せ!」
と、すんなりと通ることができた。