アーシェリスはガレアにしばらく滞在していた。
ティレックスと談話室で話をし、そしてクレンスとラクシスがやってきた。
「フェリオースがどこにもいない?」
「ああ、どうしても見つからない。どこに行ったのかさえ分からない。
一応ラスナ先生とかにも訊いたんだけどさっぱりわからないそうだ。」
そして、その後にとんでもない出来事が起きたことを告げる者が現れた。
その人は帝国兵に担架に乗せられていた。
「あれ! バディファさんじゃないか!」
バディファは病室に運ばれていた。アーシェリスたちは慌ててそちらに向かった。
「バディファさん! その傷、どうしたんですか!」
「ああ、ややあってね。とりあえず、キミらに状況を伝えておこうかと思ってね」
バディファの話は、実にショッキングな出来事だった。
「……エルテンが、殺された……」
しかもその犯人は――
「コルシアスにやられた、か。コルシアスなら、俺も知っている」
ティレックスが口をはさんだ。
「昔の戦で、アルディアス軍を一人で壊滅に落とし込もうとした実力の持ち主だ。
多分、あんたらエネアルドにとっては英雄扱いなんだろうけど俺らにとっては結構厄介な敵だったらしい。
しかし、またなんで急にエクスフォス同士で?
”エクスフォス・ガラディウシス”は単にエクスフォスを滅亡へと追い込もうとしているだけなのだろうか? 何かと謎が多いな――」
確かに不明な部分が多すぎる。するとバディファがやってきた。
「えっ! もう大丈夫なんですか!?」
「ああ、クレンスさん――おかげさまで、もう大丈夫だよ。それより、もっと大事な話がある」
バディファはゆっくりと席に腰を下ろし、話を続けた。
「あの場には倒れたエルテン氏の他にはコルシアスしかいなかったからそう判断したに過ぎないんだけど、
そのコルシアスが言うにはどうやら”魔王”と呼ばれるやつがいて、エクスフォスを貶めようということらしいんだ」
”魔王”だって!?
「多分、”エクスフォス・ガラディウシス”のリーダーか何かだろう。
そして問題はそれでは終わらない。アーシェリス君、キミにとってはここからが大変な話なんだ」
その話を聞いてアーシェリスは驚いた。
「あの場にはコルシアスのほかにもう一人の使い手がいてね、
私がこのような深手を負わされたのは実はコルシアスでなくて、
影の媒剣の使い手――そう、フェリオース君の仕業なんだよ」
まっ、まさかフェリオースがこんなことを!?
「フェ、フェリオースに限ってそんなことは!」
「彼の媒剣術、かなりの上達ぶりだね。
私は一応エクスフォスの勇士と呼ばれたものの一人――でも油断していたせいかこのような目に合ってしまった、迂闊だったよ」
フェリオースが”エクスフォス・ガラディウシス”に加担しているだなんて到底信じられなかった。
「兄さん、フェリオース君がどうして……」
クレンスをはじめ、アーシェリスたちは落ち込んでいた、フェリオースがいったいどうして……?
「フェリオースならそんなことをするわけなんてない、そう言うのなら何か気にならないか?」
ティレックスが訊いてきた、気になるとは?
「アーシェリスがあっちこっち行っている間、そいつは何をしていたのか? 問題はそこにあるような気がするな」
そういえば以前にこんなことを言っていたな、アール将軍からフェリオースあてにお姉さんことに関する手紙が届いたとか。
「行方知れずのお姉さん?」
名はフェレア、若くしてエクスフォスのエネアルドの勇士としてたたえられた驚異の実力の持ち主である。
「アールはいないけど訊いてみたらどうだろう?」
ということで、アールの留守を受け持つ例のお姉さんに訊いてみることにした。
「フェリオース様あての手紙ですか?」
「何か情報がないかなと思って」
「はい、承っております、それと同時に伝言を承っております」
伝言?
「エネアルド政府に気を付けろ、だそうです」
なるほど、アールが言っていた、政府は”エクスフォス・ガラディウシス”のことを隠している可能性が高いというものか――アーシェリスは悩んでいた。
「そのためにガレアはエネアルド政府に対する情報の開示を一部制限しております。
ここだけの話にしておいてくださいね」
「わ、わかった」
言われなくてもそれは何人かが思ったことである、この際だからエネアルド勢もそれもやむなしと考えていた。
しかし、それがフェレアの件にも絡んでいるというのだろうか?
だけど、フェリオースの今の状況を考えればそれも容易に頷けたのである。
手紙の内容はおおよそ予想通りのことしか書かれていなかった。
「なんて?」
アーシェリスが手紙を読んでいるとクレンスが訊いてきた。
「フェレアさんは誘拐されたようだ、ただ行方不明というわけではない、
そして、エネアルド政府はガレアからのそのお達しに対してどう対処するか――
恐らく、フェリオースに何か伝えたんだろう。
だけどその結果が今のこの状態――だから、残念ながらエネアルド政府自身が一枚かんでいると思うしかないみたいだ」
まさか、自分の国を疑わなければいけない状況に陥るだなんて、夢にも思わなかった。
「それって、たまたまフェリオース君がああなっちゃった……ってことはないよね?」
クレンスは心配そうに聞くと、アーシェリスは手紙を見せながら言った。
「フェリオースに話を伝える役をしているのはラスナ先生らしい。
でも、話を伝えているタイミングがカサード事件のあった日みたいだ。
その後、フェリオースの行方が分からなくなって政府サイドの人間に掛け合ってみることにしたが、
先生は直接アールにこのことを伝えることにしたんだそうだ。
それと同時に政府内でフェレアさんが誘拐されている情報と同時に発信することにしたんだそうだ――」
その手紙はそもそもラスナがアールにあてて書いた内容のようだった。
「ラスナが――それは困りました、私らは国に帰るとやばいということですか――」
バディファは頭を抱えていた。
それはわからないが、少なくともエネアルドに長居すると一悶着あることは間違いなさそうだ、
なんたってあのエルテンがやられたんだ、エクスフォスの中でもほぼ最上位に近しいであろう存在のエルテンが。
だから、騒動はそれだけでは終わらなさそうだ。
「フェリオース君の身に何があったんだろう……?」
クレンスは心配そうにつぶやいた。