エンドレス・ロード ~プレリュード~

エクスフォス・ストーリー 第2部 追い求める者 第3章 花と大地と風の都

第30節 地図にない島

 レザレム港に戻ってきたアーシェリスとイールアーズ、 予定通り帝国の船まで戻ってきて、さらにその船で東へと向かった。
「わざわざ待ってもらっていたみたいで――よかったのかな?」
 アーシェリスはディライザに訊ねた。
「これも任務のうちだ。もちろん本来の任務を遂行することこそが重要だが、 エネアルドからの使いを放置していってしまうのも問題があるからな」
 俺はそういう扱いなのか、アーシェリスはそう思っていた。
「”気にしい”、か――」
 ディライザは頷いた。
「実際には予定よりも早く発っているのでな、 無論、その理由は将軍が”気にしい”だからということだが―― とはいえ、シェトランドのお客人も乗っていることだしな。 言うなれば”もののついで”だ、将軍だったら確実に同じことをしているはずだ。 あの将軍がこんな都合のいいところを突いていかないわけがない」
 アール将軍はそういうやつなのか……アーシェリスは納得した。 確かにあんまり帝国の将という感じでもなし、割とフレンドリーな性格もあり、 いろいろと気を回してくれるのか、なるほど。
 するとアーシェリス、イールアーズのほうに顔を向けた。
「何か訊きたそうな顔をしているな」
「媒剣術のことを調べているんだ」
 アーシェリスはそれについて諦めていなかった。
「さっきも言ったが俺は媒剣術なんてのは知らん。 そもそも魔法剣についてもそこまで明るい分野ではないものでな、残念だが諦めてもらおう。 そもそも、そういうことは詳しそうなやつに聞くべきことだろう? お前らの中にそういうことに精通しているやつはいないのか?」
 言われてみればその通りだが、アーシェリスが考えていたのはそれに対してとある線を伝ってのことだった。 そう、イールアーズは鬼人剣という異名で通っている、であれば、 イールアーズ的には誰が知っていそうか――そういうやつのなかで鬼人剣みたいな二つ名を持っているやつはいないのだろうか、 気になったので訊ねてみることにしたのだ。
「なるほどな、それはいいアプローチだ。 確かにそう言われてみれば知らなくもないが――」
 アーシェリスの目論見はあたりだった、これは期待ができそうだ。
「だが、そういうことはエクスフォスたるお前のほうが詳しいんじゃないのか?」
 ……それを言われると辛いところがあるが――。
「まあ、そんなことはいいか。 俺が知っているのは……寿命が短いエクスフォスのことだから今は生きているかどうかは知らんが、 ”大地剣”の使い手には手を焼いたことがあったな」
 ん? 大地剣? アーシェリスはやはりどこかで聞き覚えがあった。
「エクスフォスで”大地剣”って呼ばれていたやつがいるが、それが媒剣術とやらなのかは知らん。 つってもエクスフォスだからな、可能性は高いという程度の話だ。 ちなみにそいつの名前は確か、”エルテン=ストラウティス”といった気がするな」
 エルテン……ストラウティス! そうだ、あのエルテンだ! アーシェリスは思い出した。
「エルテン=ストラウティスって、ノートス=ストラウティスの祖父だよな!」
 アーシェリスは出し抜けに訊いたが、
「ノートス? なんだそいつは? そんなやつは知らんな」
 知らなかったようだ。 ノートスについては既に話にも出ているが、エネアルドの政治を動かしている昔の英雄の一人である。 それにしてもガレアでの情報にもあったエルテン……次なる目的であることは間違いなさそうである。 エルテン、それはそれは偉大なるエクスフォス人の英雄であった。 それは、ノートスなどの比にはならないレベルの英雄である。但し――
「エルテンってどこにいるか知っているか?」
 現在の居場所はさっぱりだった。
「だから知らん。生きているかどうかは知らんと言っただろう?」
 そう言ってたな。やっぱりエネアルド島で地道に探すしかないのか――アーシェリスはがっかりしていた。
「ん? 待てよ、そう言えばエルテンについて妙な噂を聞いたことがあったな、 確か自分の名前を付けた島にひっそりと住んでいるとかなんとかいうことだった気がするが――」
 自分の名前を付けた島? そういわれると確かにアーシェリスはなんだか聞いた覚えがあるような気がした。
「もう気が済んだか?」
 ああ、もういい、わかった――アーシェリスはそう言うと、イールアーズは面倒臭そうにしてさっさと船室へとこもってしまった、 もうついてくるなと言わんばかりに。

 帝国の軍艦はルシルメアの北の港に停泊するとアーシェリスは船から降りた。 そして、見送りの兵たちにあいさつをしたが、イールアーズはあいさつに出てこなかった。 いや、出てきたら――それはそれで気味が悪い、あいつに限っては出てこないのが正解だ。 船はやはりここからさらに東にあるケンダルスへと向かうのだろう。 いや、ケンダルスと言えば……詳細は省くが、船自身はそこまで行くことはないだろう。
 そして、そこからルシルメア鉄道を利用してルシルメアまで行くと、今度はフェルダス行きの電車に乗り換え、 船で久しぶりにエネアルド島へと戻って行った。すると、アーシェリスがまったく予想しなかったことが起きた。
「どうだった? ガレアへと行ったのだろう?」
 アーシェリスが船から降りて開口一番、話しかけてきたのはバディファ=クレイナス、 エクスフォス人とシェルフィス人のハーフはエネアルドの勇士の一人で、ノートスに並ぶ有名人である。 そんな人物がアーシェリスに話しかけてくるとは思っても見なかった。
「あ、いや……えーと――」
「あはははは、普段の態度でいいですよ、そんな堅苦しくせずに――」
 アーシェリスはお言葉に甘えることにした。
「えっと、実は媒剣術に何かしらの秘密があるみたいで――」
 アーシェリスは、集めた情報をつまびらかに話した。
「そうか、それで次は”エルテン島”へと行こうということですか」
 エルテン島、やっぱり自分の名前を付けた島という話は確かだったようである。
「地図には載らないような島だけれども、エネアルドの南西の沖にエルテンが隠居している島があるんだ。 あそこは政府の手も行き届いていない公域地区だから……まあ、一応エネアルドにとっては外国になるのかな?」
 と聞くと、アーシェリスは少し思い出した。そういえばそんな島があったっけ――うろ覚えだけど。
「なんなら、今から私のボートで彼の島までいくかい?」
 アーシェリスはまたしてもお言葉に甘えることにした。

 流石に腹がすいたので適当にお昼ご飯を買うと、バディファのボートに乗り込んだ。
「ところでバディファさん、どうして俺なんかに?」
 アーシェリスはそう訊くとバディファは気さくに答えた。
「実はこの間のキミらがディスタードまで行ったっていうあの一件もあって、政府の一部の関係筋でも独自の調査を始めたんだよ。 確かにキミらの行動は軽率すぎだったのかもしれないけれども、幸か不幸かそれでもあのアール将軍とのパイプとしても果たすようになったわけだ。 実際にはキミも知っているかもしれないけど、元々はノートスがその役を担ってはいるんだけど、直接コンタクトが取れる人材がいなくってね、 それでキミの動向に注目している関係筋が現れるとラスナや私にキミの補佐役をやってくれって頼まれてね。 ノートスからは相手が帝国だからって反対してはいるけれども――まあ、とにかく、そういうことで話はまとまったってわけだよ――」
 それで、アーシェリスが帝国の船から下船したという連絡を受けたところを見計らってバディファはアーシェリスにコンタクトをとることにしたというわけか、 事態はアーシェリスすらも予想だにしない方向へと進んでいたようで、アーシェリスは酷く恐縮していた。
「まあまあ、私もこう見えて結構暇なもんでね、それで駆り出されただけなんだ、 大昔の大戦の事後処理班なんてものを務めている人間なんてそういうものさ」
 それが彼の仕事――なかなかの大役だろうに、それで暇とは――
 それにしても、バディファのボートはなんだか見覚えがあるようなデザインのボートだと思っていたアーシェリス。それもそのはず、
「これ、ガレア製ですか?」
「そうだよ。ガレアのアール将軍から譲り受けたボートなんだ。 ”リペアシップ”という軍備でね、軍備や施設の修理・修復を専門にする軍備なんだ。 だから戦車とかカノン砲といった大掛かりな装備は載せられないし、そもそも乗せるスペースもない」
 そうなのか、またしてもガレアのアール将軍――
「ちなみに、これから向かうエルテン島もディスタード軍の軍備だったりするんだけどね」
 すると、次第に座礁している船へと近づいていた、まさか――
「そう、実はエルテン島が地図に載らない理由は、正確には”島”ではないからなんだ」