オウルの里へとたどり着くと物々しい雰囲気に包まれていた。
「どうした!? 一体何があったっていうんだ!?」
イールアーズはご覧のとおり余力はたっぷりだったが、
一方のアーシェリスはへとへとになっていてそれどころではなかった。
「あ! イール! 実はな、墓が暴かれていたんだ!」
イールアーズが話しかけたシェトランド人がそう返した。
墓を暴くだって!? それはただ事ではない――。
「まさか、セイバル人か!?」
「ああ、だろうな。やつら、俺たちをただの実験材料程度にしか考えてないからな」
「セイバルがオウルにも手を出してきたというのか!?」
そう言うイールアーズ、そのシェトランド人は答えた。
「なんだイール、知らなかったのか? セイバルがオウルにもやってきたのは昨日今日の話じゃねーぞ。
例の戦があっただろう? あの戦い前後から連中はここにやってくるぞ――」
あの戦ってまさか――アーシェリスは口を出した。
「俺たちと戦った1年前のあの戦いか!?」
そのシェトランド人はアーシェリスに気が付いて言った。
「ん? 何だお前――エクスフォスか? ああそうだ、あの時あたりだな――」
「それはそうと、墓って誰の墓が暴かれていたんだ?」
イールアーズは訊いた。
「ああ、それがだな、実は――」
その話を聞いてイールアーズは驚いた。
とりあえず、ワイズリアの元へとやってきたアーシェリスとイールアーズ。
「エレイアの墓が暴かれていたって!?」
イールアーズはワイズリアに訊いていた。
ワイズリアの見た目のイメージはまさにバフィンスやリオーンのそれと似ていた。
「おお、イールじゃねえか。
そうなんだよな、”そこ”なんだよな――」
と、イールアーズは目を丸くした。
「”そこ”とは?」
「もののついでだからそこにいるエクスフォスの小僧にも教えてやるが、
俺たちシェトランド人っつーのは石の民、つまりハートが石でできているってわけだ」
船に乗る前、アーシェリスはイールアーズからこんな話を聞かされていた。
そう、シェトランド人の真実、その実態は石の民だということを。
「石でできている? 石の民とか言ってたけどどういう意味だ?」
「どうもこうもない、そのままの意味だ、俺たちは石で出来ている」
理解不能な話だった。
ワイズリアは話を続けた。
「具体的には石っつーか、宝石の”核”でできているんだ。
んで、外表っていえばいいのか、つまりは身体そのものになるわけだが――こいつが……
まあ要するにだ、エクスフォスみたいな血肉を持った身体には見えるが、
実は無機物が有機物とうまい具合に組み合わさっている状態ってことらしい。
詳しいことは俺もよくわかんねえんだが、なんかそういうことらしい」
「それと、俺たちの動力源はその”核”だ。
こいつが損傷したりしない限りは動力を維持し続けられる。
そうだな、生物兵器――確かにそういわれれば、ある意味それが正しい表現とも取れなくもないかもな」
と、イールアーズは付け加えた、それは知らなかった。そうか、だからシェトランド人は強いのか。
恐らく、無機物という身体を得ているために多種族よりも身体は頑丈、
そして”核”から得られるエネルギーからとてつもないパワーを生み出す――それがシェトランド人なのか。
「しかし”核”が損傷すると、流石の俺らでも命が危うくなる――最悪、死を意味することもあるっつーわけだ」
確かに1年前の戦でも死んだシェトランド人もいるが、要はそういうことらしい。
「それと、セイバルの連中が言うには、シェトランド人の核自身には使い道があるらしい」
核自身の使い道?
「それが原因でイールの妹は狙われている」
イールアーズの妹?
「ああ、俺の妹はシェトランド人の中でも特別でな、
核の保有するエネルギー量がほかのシェトランドの2.6倍程度あるんだとさ」
だとさって……そんな他人事みたいに――アーシェリスはそう思ったが、シェトランド人としてはその真意は別にあった。
「言っとくが、俺たちには”核”という概念はない、俺たちにとってこいつはただの心臓だ。
だから、持てるエネルギーだのなんだのという話はどうでもよく、生きるために必要な身体の一部ということでしかねぇんだ」
ああ、そういうことか――俺が悪かった、アーシェリスは反省した。
だけどセイバルは違う、シェトランドの核を利用してとんでもないことをしようとしている――ということらしい。
「ところでエレイアの墓が暴かれていたということなんだが――」
イールアーズは話を戻した。そもそもエレイアとは誰なのだろうかと聞いたら、
それがあろうことか、まさかのディルフォードのフィアンセその人だった。
そしてしかも、このワイズリアの孫娘でもあるという。
「今言ったように、俺たちが生きるのに大事な核は損傷したら死を意味する場合もある。
これはセイバルの連中にとっても、核に損傷を与えて死んでしまったら使い道がなくなるから避けなければいけないことらしい」
ん、待てよ……ということは――イールアーズは出し抜けに言った。
「ワイズリア! エレイアはまさか”二つの御魂”なのか!?」
それはどういうことだろうか、イールアーズが説明した。
「シェトランドには心臓にまつわる2つの伝説があってな、
1つは”神授の御魂”という魂を得て生を受けるやつがたまに生まれてくるだ。
で、その”神授の御魂”が何を隠そう俺の妹のルイゼシアで、
持っている能力に計り知れない力を持つとされる奇跡の存在と言われている」
まさにそれが核の保有エネルギー量がほかのシェトランドの2.6倍程度あることを意味しているというわけである。
そしてもう片方はワイズリアが説明した。
「そんで2つ目が”二つの御魂”っつー魂を得て生を受けるやつもたまーに出てくるってところだ。
ただ、こいつが”神授の御魂”と違ってわかりにくいっつーのが難点でよ、
セイバルに盗られて初めて気が付くことになろうとはなぁ――」
ワイズリアは話を続けた。
「んまあ、俺たちの命に詳しい連中がわざわざ死んだやつを奪ってくぐれーだからエレイアは間違いねぇなって踏んだわけよ。
で、”二つの御魂”がもたらす奇跡っつーのは”二つの御魂”っつー呼び名が示す通り一度死んでも蘇ることがあるっつー……
まさに奇跡中の奇跡の存在ワケなんよ」
セイバルから仕入れた情報では”二つの御魂”のことを”バリアブル・コア”と呼ぶらしいが、
核が損傷しても限界はあるらしいが核が再結合して生き返る能力を備えているということらしい。
死んだハズの人間が蘇ることがある――確かに奇跡である。
「にしてもセイバルにパクられたとはいえ、エレイアが生きてるっつーだけでもまた嬉しいことじゃねえか。
んま、だとしたらますます連中に狙われることになるわけだが――そいつだけが何とも悔しいところだな」
と、ワイズリアは言った。確かにそれもそうか。
「ところでイール、なんでこんなエクスフォスの小僧に俺たちの真実を語るハメになった?」
そういえば、それはアーシェリスも気になっていた、
何故こんな、種族の内情をアーシェリスは教えてもらうことになったのか、なんだか違和感を感じた。
するとイールアーズはとんでもないことを言い始めた。
「大したことではない、ただエクスフォスであるお前とシェトランドである俺たちと”同じ空気”を感じたからだ」
イールアーズと……同じ……空気……
「だっはっはっはっはっは! イールと同じ空気か! こいつはいいや!」
ワイズリアは無茶苦茶大笑いしていたがアーシェリスはとても複雑な心境だった。
イールアーズと同じ……鬼人剣と言われる戦闘狂でシスコンのイールアーズと同じ空気――