話はもうひとつあった。
「魔法剣といえばリファリウスも得意技だな――」
やっぱり得意技かよ……本人は多少の知識と謙遜していたが何が多少の知識だ、もはや他人すらも認めるほどのバリバリの使い手じゃないか――
アーシェリスはだんだん腹が立ってきた。
「その様子だと一戦交えたって感じだな、勝敗については訊くまでもないところだが――。
流石にあのデンジャー・ソードでレッスンを受けたりしてないよな?」
デンジャー・ソード? 一瞬だけ出して見せた剣……いや槍だか、それともアクセサリなんだか判別不能なあの大きな剣?
「あの”兵器”に対して受け太刀はしないほうがいい。
本当になんでもよく切れるというのは本当に伊達ではないく、
あの刃に真っ向からぶつかった得物は簡単にぶっ飛んでしまうぞ」
げ、なんちゅう”兵器”。
「あんな”兵器”、何処に売っているんだ?」
「……どこにも売る気はないし、余程のことがない限りは他人に作り与えたりもしないって言ってたぞ。
確かにあれは扱いが少々特殊で、普通の剣士が求めるような得物ではない感じだな――」
「ということはつまり自分で作った武器……」
アーシェリスはクレンスが持っている武器と布みたいなアクセサリ、それからエメラルド製の小刀を思い出した。
それにガレア軍の工場で”ニードル兵器”というのも作っていたっけ、あの砲身も刀鍛冶によるもので、
プロトタイプはアールが自ら刀鍛冶を駆使して作っていたって言っていた気がするな。
どうやら真の強さを得るには、得物も自分で作れなければいけない時代らしい。
さらに魔法剣の話を続けた。
「魔法剣の取得の最大の難点は武技も魔法もそこそこの使い手を要する上に、
さらにプラスアルファの修練が必要と、かなり難易度の高い技術なんだ。
であるにも関わらず、”媒剣術”というのはお前らエクスフォスの生活と共にある存在として成立しているため、
魔法と剣の技というよりも、一つの”媒剣術”という独立した分野の技といったほうが的確だろう」
武技も魔法も使いこなし、そのうえでプラスアルファの修練が必要と、
高度なお題をいくつか会得する必要があるので、それぞれを会得したうえで行使するのは余程の事である――よくよく考えればそうだった。
それでも、それをなんとか行使している人もいれば、アールこと、リファリウスのように簡単に繰り出す者もいる。
しかしアーシェリスの場合はどうだろうか、クラフォードの言うように魔法剣というよりも、
”媒剣術”というカテゴリで取得することを考えれば、武技や魔法……さらにはプラスアルファの修練など必要なく、
”媒剣術”を習うつもりで考えれば導入は簡単だったのかもしれない、他のことを考えなくてよいからである。
そういう点ではティレックスというやつの月読式破壊魔剣術にも同じことが言える。
「しかし、……世の中、広いんだよな……」
と、クラフォードは言った、リファリウスの”我流”の極意発言である。
「あれもよくよく見てみると、一般的に世で言う”魔法剣”というよりは、
もっと……なんていうか……違う次元のものに思えてくるけどな」
というと、魔法剣という括りに当てはまらないのかもしれない?
確かに”エメラルド・ブリンク”によるあれは衝撃的だった、あれは魔法剣というよりほぼ魔法である。
「それにしても、リファは大きなヒントをくれたようだな。
どのようなメカニズムで魔法剣を成立させるのかというのはこの際どうでもよく、
要はどうやって媒剣術を成すのか――ということらしいな。
言い換えると誰が媒剣術を考えたかってことになりそうだな」
どうやって媒剣術を成すということは、どうやって媒剣術を成すかを最初に考えた人がいたから、ということになる。
だからこそ、誰が媒剣術を考えたか、という話になるということだった。
「そう考えるとリファの魔法剣技は本当に奥が深いよな、
どこでどう力を取って魔法剣として成立させたものなのかが俺にもまったく見当がつかない」
魔法剣と成すための力の取り方――
「媒剣術はその名の通り、媒(なかだち)が存在して成立する技、
媒とする力を取り込むのに、お前は何を必要とする? 本当に風の力だけか?
風の力を取るのに、何か対価を必要としているのではないだろうか?」
これまで生活とともにあったアーシェリスらの剣の技、媒剣術。
確かに、改めて見るとあまり知らされていない事実があるのかもしれない、
知らないことが多すぎるような気がしたアーシェリスだった。
アーシェリスはクラフォードと共にティルア自衛団事務所から出た。
「そういえば気になったんだが、何故俺のもとに訊きに来たんだ?
リファから直接訊けただろうにどうしてだ?」
クラフォードは腑に落ちなかったので、アーシェリスに訊こうとした。
「ん、そういえば、最初に”二度と失敗しない力”の話からしたっけな。てことはオイ、まさか――」
そのまさかである。アーシェリスはその時の一部始終をクラフォードに告げると、クラフォードは頭を抱えていた。
「アーセイス、あいつにその話はタブーだ、二度としないほうがいい。
正直、あれを見ている側としてもとてもつらいものがある。
あそこまで立ち直れなくなるのを見ると、余程のことがあったに違いない。
これはあくまで俺の予想だが――大切な人を亡くしているレベルで、それも1人や2人なんてもんじゃあない。
あいつは間違いなくそれを乗り越えてきている――
性格もなんだか不自然極まりないところがあるにしても少々破綻気味だし、そのうえで”気にしい”なところがある。
あいつの”二度と失敗しない力”と言っていることもその表れだろう」
クラフォードにはそういった経験はないが、これまでの戦の経験上、それを肌で何となく感じたという。
「かろうじて、やつにはまだ”友人”がいるからまだ自分を保てるようだけれども、
失うものが無くなった人間ほど恐ろしいやつはいないぞ。
それこそ、やつに失うものが無くなったら――考えるだけでも末恐ろしいな、だからそれをよく心得ておくんだ」
それ自身はクラフォードも戦の中でこれまで何人かそういう者の姿を見てきたという。
アーシェリスは息をのみ、クラフォードの忠告に素直に従うことにした。
アーシェリスはそのままクラフォードと別れ、今度はエネアルドへ戻ることを考えていた。
それには港からルシルメアへ行く便に乗らなければいけない。
今はちょうどガレア軍の輸送船がレザレム方面へ向けて出発するようだが、流石にレザレムからエネアルドは遠すぎた。
仕方がないので1時間以上後のルシルメア直行便か、その後にあるフェルダスにも立ち寄る便まで待つことにした――さて、どちらにしようか。
エネアルドへはフェルダスからしか便が出ていないため、いずれにせよ、フェルダスには向かわなければならない。
ルシルメアまで行った場合、港からルシルメア鉄道に乗り換えてフェルダス行きに乗る必要があるのだが、その距離も結構長い。
とりあえず、時間があるので適当に時間を潰そうと港を出ようとすると、あいつに出くわした。
「貴様は……アーセナス、とか言ったか」
「俺の名はアーシェリスだ」
そいつはイールアーズだった。
「悪いな、いちいち名前なんて覚えていないのでな」
「自分と妹以外はどーでもいいやつだからな」
そう言うとイールアーズはあっけにとられていた。
「……言ってくれるな、誰が漏らしたか知らんが――」
アーシェリスは少しドキドキしていた。
「で、こんなところで何をやっているんだ?」
ほかのことには一切興味なさそうだったが、戦いとくれば話は別だろう――
そう考えたアーシェリスは魔法剣という話題であれば興味があるかもしれないと思ったので話をしてみた。
「魔法剣? まあそれなら一応な。だが、媒剣術というのは知らんな」
ならばとアーシェリスは魔法剣について詳しく聞くため、事の一部始終を話した。
「……やつに会ったのか、あいつの前では魔法の力そのものが無力らしいな」
魔法が無力?
「よくはわからんが、正式には精神的な……、エーテルの力そのものがほとんど無力化されるとかいう話らしい」
それは知っていた、当人もそれは言っていたハズだ。
吸収魔法剣”アブソープション”というものとも違う……リファリウスもそれは言っていた。
「力の源か……確かに、それは一番肝心な話なのかもしれんな」
イールアーズからこんな言葉が出るなんて意外だった。そう言うとイールアーズは――
「ん? ああ、こっちの話だ――」
ということで、これはこれで何か裏がありそうだった。
「いいだろう、お前には特別に面白いことを教えてやる」
何が何だかますますわからないが、何かを教えてもらえるということで、せっかくなので同行することにしたアーシェリスだった。