エンドレス・ロード ~プレリュード~

エクスフォス・ストーリー 第2部 追い求める者 第3章 花と大地と風の都

第26節 異常な存在

 あの後、アールはがっくりと肩を落とし、そのまま自分の部屋の中に1人こもって出てこなくなっていた。
「言っちゃったんですね、ああなると長いんですよ――」
 ジェタはそう言った。
「な、なんかすみません――」
 アーシェリスはどうしていいのかわからず、とにかく謝っていた。
「過ぎたことを悔いていても仕方がないです。 アールさんに何があったのかまではわかりませんが、それについては何も話してくれません。 でも、数時間後には何事もなくけろっとしていますし、多分大丈夫だと思いますね。 だからアーシェリスさんは自分のやるべき行動を起こしたほうがいいですよ、あれでも結構”気にしい”ですからね」
 確かにアールに”気にしい”のきらいはあった。 アーシェリスはアール将軍のことはよくは思っていないとはいえ、 それでも向こうはエネアルドやエクスフォス、そしてアーシェリスの両親のことなど気にかけてくれていた。 自分が落ち込んでいるばかりに他人に心配され、心配によってその人の手が止まるようならアールは猶の事責任を感じてしまうだろう。 もはやアールのこの落ち込みは病的なものであり、自分でもどうにもならないのだそうだ。
 だったらアーシェリスはどうすればいいのか? それは簡単だ、アールから得られたヒントを―― ガレアで得られたヒントを頼りに次の行動を起こすまでだ。それが少なくともアールに対しての謝礼になることは間違いないだろう。 でなければ、相手がアーシェリスとくれば”今まで何をぼさっとしていたんだ暇人君”とか言われるに決まっている。
 そうと決まればとにかくアーシェリスは次の行動に出ることに決めた。 次なるはティルア――グレート・グランドのティルアに到着した。
「私は……もう、失敗したくはないんだ。私が失敗したばかりに……」
 アールが涙を見せながら訴えたこの言葉、 どうしても引っかかるところがあったのでこの言葉を言っていた気がするその人物のもとへ行こうと考えたのである。 アールから聞き出すのはもはや不可能、その人物のもとへ行くべきだと考えた。
 乗った船はまさかの戦艦だった。戦艦がティルアに向けて出港、その後はその付近で常駐するという予定らしい。 流石は信頼性の高いガレアの将軍様である、帝国の船をよその国に停泊させてもらえるとは。

 アーシェリスはティルアの自衛団の事務所に着くとソファに促された。 そして少し経った後、クラフォードがやってくると、彼に”本題”をぶつけた。
「やつは”上限なんてものは存在しない、だから常に上を目指すんだ”と言っていたな。 でも、その上に目指すものは何があるか? そう訊ねたら、やつはこう言った――」
「な、なんて?」
「”二度と失敗しない力”だってさ。 過去に何があったのかまでは訊くことが出来なかったが…… まあ、あいつ自身もいろいろとを抱えているんだろう」
 そう……この話である、これを聞いたのはクラフォードからだった。だから訊いてみたかったのだ。
「俺、ディルフォード、イールアーズ、3人が束になっても敵わない――そうだ、アールのことだ。 どうやらうまい具合に対面できたようだな、まあ……そこからが始まりというべきか……」
 やっぱりそうだったのか。でも、始まりって?  アーシェリスはそう訊いたがクラフォードは「いや、こっちの話だから気にしないでくれ」
 その前に――クラフォードは話をした、アールと言ったことについてだが、厳密にはアールではないのだという。 そういえば複数の顔を使い分けているやつだったっけ、ということはF・Fのリヴァストか?
「リヴァスト? 誰だ? ……ああルシルメアのやつな、随分前に一度聞いたきりで全然忘れていたな――」
 ってことは別の顔があるということか――アーシェリスは少々理解に苦しんでいた、もはや何が何やら。
「リファリウスって知っているか?」
 リファリウスってあのフリーのハンターか? アーシェリスの知っている中ではかなりの凄腕のハンターである。
「どの変装でも強いが、正体のあれの強さは異常だぞ。もはや違う生き物を見ているようだ」
 そういえば当人はアールもリヴァストも真の姿ではないといっていた。 にしても、クラフォードを以てしても違う生き物呼ばわり――ますます何が何やらといった感じである。

「あくまで俺の予想だが、リファリウスがやつの真の姿だろう。 それ以外の姿なら、手を抜かれていると思ったほうがいい」
 それは話を聞いているアーシェリスもなんとなくそう思った。けれども、クラフォードには独自の根拠があった。
「あいつ、変装には魔法に似たような力を使っている、 恐らくだが、あれほどの変装術を使うとなるとそこそこに力を必要とする、 つまり変装に力を注いでいる分だけほかに使う分の力には制限をかけられるハズだからな――」
 確かにそう言われると説得力があった。
「しかしそうまでして、あれほどの力もあって、なおかつ、 ハンターや帝国の将軍、それに抗うレジスタンスのリーダーと、 いろいろとやってのけるあいつの目的は一体何なんだ?」
「その答えは本人しかわからないだろう。 それこそ、俺も訊いたことがあったが――あの様子だと聞くべきじゃないよな――」
 さらに性格的にも掴みづらいところがあり、ますますあいつの存在自身が分からなくなってきた。
「見た目が若いのもポイントだよな――」
 言われて見れば確かに。 帝国の将軍からレジスタンスのリーダー、その他にもいろいろと活動・経験しているような感じだと、 少なくとも40~50いっていてもおかしくはないのだが、どう見ても20半ばにしか見えない。 あ、でも、変装しているから?
「俺の見立てでは違うな、恐らく見た目年齢までは詐称していない、そこまで偽装している感が全然ないんだ。 というより、あいつはそもそも論としてヒューマノイド系の種族とは別の種族という感じにも見えるな」
 確かに種族が違うから特徴が異なる――自分らとは違う性質だから自分らの常識が通用しない―― それはそれで説明がつきそうだった。