アーシェリスはアール将軍にそのまま媒剣の技で切り込もうとするが、その技をひらりと軽く交わした。
「ひどいな、こっちがまだ準備が終わってないというのに、これはあんまりではないかね?」
そう言いながらもアールは再び吹雪の魔法を使用し、それをそのアクセサリにまとわせた。
するとなんと、その魔法はそのアクセサリに立派な刀身を形成したではないか!
これぞまさに、アールの魔法剣”アドバンスト”だった。
普通ならば実体のあるものに魔法を纏わせるため、実体のある部分による斬撃になるハズだが、
これは実体を魔法で生成しているため、実体のない部分による斬撃を可能にしていることになる。
そのような能力、アーシェリスは今まで見たことがなかった。
その様、言いようによってはまさにビームサーベルみたいなものにも通ずるところがあり、
このアール将軍の能力の高さがわかるというものである。
「やれやれ、だから言っただろう、手加減してくれって。
とにかく、これで準備できたから今度こそ遠慮なくかかってくるといい。」
と、緩い調子で話しているアールとは裏腹に、とんでもない光景を目の当たりにしたアーシェリス……まさに、これが魔法剣の真髄というやつなのか……。
アール将軍の能力高さ――アーシェリスはアールが持っている実際の得物に関わらず、負けを覚悟した。
あれから1日経った。今まで気を失っていたアーシェリスは目を開け、考えていた。
そう、アーシェリスは間違いなく負けたのだ。何故負けたのか――それがまったくわからなかった。
いや、負けを覚悟したのは覚えているし、明らかに相手のほうが能力も上であるから負けたのは確実だった。
しかし、直接の敗因についてはどうしても納得がいかなかった。
その時の事象として、アーシェリスの技が急に減退し、すきを見せてしまったというのがあった。
それは敗因であることに間違いはないのだけれども、問題は何故急に媒剣術の力が減退してしまったのかがまったくわからない。
技自身はすきもなく断続的に放ち続けていたが、それだけで自分の力がいきなり枯渇してしまうとは考えられない。
アーシェリスの力は風、風の媒剣術、媒剣術の中でも高度な力の一つとして数えられる風、急に技の能力が失速した――何故だろうか?
「やあ、気がついたようだね、思わず少しやり過ぎてしまったようで申し訳ない。」
アーシェリスが倒れている部屋にアールがやってきた。
「それにしても奇遇だよね! 実は私も風使いなんだよ!」
アーシェリスに直撃した技、確かに風の極意だった。
それにしてもあんなに軽々と魔法剣を繰り出せる様は初めて見たアーシェリス、
しかもアーシェリスが得意なはずの風の極意である。
「ちなみに、これも風の技のひとつだよ。」
アールは空間からいきなりあの”エメラルド・ブリンク”を取り出した。
なんて便利な能力なんだろうか、しかしそれも使いようによっては厄介な技である。
「癒しの風よ、アーシェリス君を包みたまえー!」
アールは剣を振りかざし、軽いノリでアーシェリスに風系の回復魔法を使用した。
剣を振りかざしたのは恐らくテキトーだが、風系の回復魔法は土・水・光と並んで強力な極意揃い……
こいつ、将軍であることを抜きにしても相当な使い手であると見て間違いないなさそうだった、
妙な器の広さとこの独特の人となり、そして戦いの実力……それらの要素で将軍になったのは間違いなさそうだ。
しかし、それだけでアーシェリスがあっさり負けた理由にはならない。
「俺に……何をした?」
アーシェリスは疑問をぶつけた。
「風魔法”ヒール・ウィンド”だよ。」
それは今俺に使った回復魔法! そうじゃなくて俺と戦ったときの話!
決定打を当てたときの話を訊いている! アーシェリスはムキになってそう訊き返した。
「あっははは、そっちかー! そうだったのかー!」
何を楽しそうに……というか、わざとやってるだろ――アーシェリスはそう思った。
「なぁに、他愛のないただの魔法剣だよ。」
確かに最後の一撃については魔法剣なのは間違いなかったがそれだけでは腑に落ちない。
力が急に無くなった感じ――それはどう考えても魔法剣のくくりで片付けるわけにはいかない気がする。
「そうねぇ……ヒントとしては……確か、牙を抜かれた何かって感じたよね。」
ヒントって教える気がないのか?
力を抜いたとでも言うのか? そうだ、聞いたことがある……相手の力を吸収する魔法剣――
「吸収魔法剣”アブソーブション”ではないね、あれは相手から受けた技を吸収する技だからね。
キミの場合は技を放つ前の失速現象だから”アブソーブション”とは違っているね。」
じゃあ、アーシェリスが単にミスをしただけなのか――でも、そんなはずは――アーシェリスは悩んでいた。
「一つ言えることは、私の風技の力のほうが強かったから勢いに負けてしまったってところだろうね。」
「そういうもんか?」
「うんうん、そういうもんだ。
これでわかっだろうか、単に魔法剣と言っても色々な種類がある、
キミの風の媒剣術もそのうちのひとつだよね。」
「あんたのは、どうなんだ?」
「私の技は実質我流の魔法剣なんだよ。」
こんな多様なご時世で我流というのはなかなか珍しい使い手である。
いや、そういう形式というか、派閥というものに捕らわれずに生きていて、
それをものにしたやつこそが真に恐ろしい相手なのかもしれない……。
ただ、最初は魔法剣については多少の知識はあると言っていたアールだが、
我流で編み出していくということはバリバリの使い手じゃないか――アーシェリスは呆気にとられていた。
もちろん、アーシェリスとしては相手が相手なだけに手加減するつもりなど毛頭ないが……これが上には上がいるというやつか――。
「力や技を得るからには徹底的にやらないとね。
だから力を付けるのはもちろん、技の開発のほうもきちんと考えていくんだ。
お誂え向きに魔法剣はやりようによっていろんな技にアレンジすることができるんだ、便利な世の中になったもんだね。」
それはいいんだけどこいつ――アーシェリスは疑問をぶつけた。
「だけどそれだけの力や技を得て、あんたは何をするつもりだ?
俺が相手をしたなかでもあんたほどの使い手はそうそういない気がするんだが――
それでもまだ力を求めるのか? なんか、それこそ妙な感じなんだが――
確かにこの世界には強いやつはいっぱいいるだろうが――それらをも凌ごうとか言うつもりなのか?」
と、アーシェリスは皮肉を言うつもりでそう言った。
だが――アーシェリスはそういったことをすぐに後悔することになろうとは――。
そう言われたアールは一変、今までの緩い感じとはまったく違う神妙な面持ちで答えた、何故か涙声だった……。
「私は……もう……失敗したくはないんだ、私が失敗したばかりに……」
アールは後ろを振り向いてそう言った――いきなりどうしたんだ!? それに今のセリフはまさか……