エンドレス・ロード ~プレリュード~

エクスフォス・ストーリー 第2部 追い求める者 第3章 花と大地と風の都

第24節 魔法剣の使い手

 あれから3日経ち、ほとんどガレアのデータベース・ブースにこもりきりだったアーシェリス、 しかし、どうしてもあの最後の気になる文章についての情報まではでてこなかった。
「本当に忘れてしまったのか? 我々って何者なんだろうか? 忌まわしき出来事ってどんな出来事?」
 エルテンは人の名前――訊いたことあるぐらいだからエネアルドへ戻れば多分わかることだろう。 さらにはロバールの動機となりそうな情報も探したのだが、これと言ったものもなさそうである。 単純に考えると”魔剣グリフォン・ハート”欲しさに奪ったという可能性もあるのだが、それも定かではない、 第一、その場合は祀られていたのが”魔剣グリフォン・ハート”であることを知っていたかどうかという問題が浮上する。 まあ、”聖器”として祀られていたぐらいだから、それが理由で奪ったということは考えられなくもないが。
 アーシェリスの知っていたロバールについては、少なくとも聖器なるものを盗むようなやつではなかったと思った、 ロバールはノートスと同じく、かつてはエネアルドの勇士の一人だったはずで、聖山エネアルドの信仰に対しては熱い信者だったはずだからだ。 ただ、ロバールが事件を犯したのはアーシェリスが幼い頃の話でその当時のことやロバールの人となりを全然認識していなかったころのため、 あくまで人伝に聞いた話でしかないのだが、実際のところまではわからないにせよ、少なくともアーシェリスとしてはロバールについては最初から殺人犯であるという認識でしかなかった。

 それから数日が経った。 その日のアーシェリスは外の広場でアールを相手に剣を構えて対峙していた。
「アーデウス君はエネアルド島の名家のオンゾーシだったね。出来れば手加減してくれると助かるよ。」
「あのな――」
 名前を間違えるのは意図的なものなのか本気で間違えているのかはともかく、 仮にも帝国の将軍、手加減なんてあり得ないだろう――アーシェリスはそう思っていた。

 アールと対峙していた理由、素朴な疑問から生まれたところに端を発する。
「媒剣術の秘密か、キミの調べではエルテンに訊けば分かるんじゃあなかったのかな?」
「そうなんだけど――」
 その時まで相変わらずデータベース・ブースにこもりっきりだったアーシェリス、 やってきたアールとその手の話をしていた。
「確かに――今の今まで生活に密着していた極意、その秘密を考える理由もなく生活していれば、 気にするような動機なんて生まれないわけか。」
 言われてみればその通りである、それ自身は否定する余地はない。 エネアルドの生活と共にあった媒剣の技、その秘密をどうして気にしなければならないのか、まさにその通りである。
 学校でも媒剣術の成り立ちや歴史については、エネアルドの戦いの歴史と共に発展していったことは教わったのだが、 まさかそれ以上の情報があるなどとは思ってもみなかったことだし、 それ以上に”グリフォン・ハート”や”ウィルム・バインダー”といった単語が登場することまでは知らされていなかった。
「媒剣の技自身はキミらエクスフォスのものなんだけど、基をただせば魔法剣の極意に他ならない。 だったら魔法剣の技という観点であれば私にも多少の知識はある、私でよければ力になれそうか?」
 えっ、いいのだろうか?
「魔法剣の技は少々扱いが難しい。だからまずは理論よりも実戦のほうがいいと思うね。」
 マジか!? アーシェリスは驚いた。

「アーシェリス君にティレックス君、最近は魔法剣技派生の使い手にやたらと縁がある、今日この頃かな。」
 ティレックスとは一体誰だろうか、アーシェリスは訊いた。
「私の知り合いだ。彼は”月読式破壊魔剣(レイリス・ディストラクション)”の使い手だ、キミの技よりも強いよ~。」
 月読式破壊魔剣――アーシェリスは訊いたことぐらいはあった。
「諸刃の剣――」
 そう、あれは非常に高度な技ゆえに使い手の生命までをも脅かしかねない危険な能力らしい。
「確かにそのきらいはある技だね。だけど彼の場合は努力で1~2回程度は撃てるように修練したんだよ。 しかも、さらには努力で実用に耐えうる程度の威力で発射することもできるように極意の改良もしている。 極意は時代の流れに沿って進化も必要ってことだね。」
 やろうと思えば極意も努力次第で如何様にも変化する―― 今のアーシェリスにとってもある意味で重要なことかもしれない。
「さて、能書きはもういいよね。早速始めようか。」
 アールは早速指先から魔法を発射した。そこからなんと……大きな剣? いや、槍?  アクセサリにも見えるが、あれはなんと言えばいいのだろうか?
 そして、アーシェリスが剣を引き抜くと――
「そうだね。こっちにしておくか。」
 たった今出した剣をどこかにしまった、どこにいったのだろうか。 するとアールは見物人のうちの一人、シレスが持っていた剣を取った。
「これはちょうどいいところに。ごめん、ちょっと借りるね。せっかくだからこれを使おう。 これは旧マウナ軍支給の軍刀、うちの管轄が支給しているものと比べれば遥かに性能で劣る性能だ。」
 ガレア軍支給の軍刀はそこいらの品とは比べ物にならないような特殊な仕様になっていて、 アールの言うことを逆に言えば、マウナの軍刀よりも遥かに性能的にも優れた代物であった。 その差は歴然で、まず、魔法剣の力が乗りやすいか乗りにくいかという点において、大きな差があるようだった。 早い話、アールはハンデとしてそれぐらいの劣悪刀を使用しているということである。
「いいのですか? そんなハンデあげても――」
「媒剣の強さを推し測るいい機会だと思って。さて、始めようか。」
 なんだかわからないけど、とにかく始まった。

 アーシェリスは先制攻撃を仕掛けた。
「凄い手数の嵐だね。」
「感心している場合じゃないぞ!」
 アーシェリスはどんどん攻め続けたが、アールはただひたすら冷静だった。
「昔に比べたら、割と無駄が無くなったんじゃあないのかな。」
 それは間違いないだろうけれども何の話だろうか、アーシェリスは気になった。
「ディル君からそう言う話を聞いていた気がするけど。」
 ディル君とはディルフォードのことのか、あいつともパイプがあるのか、こいつは。
「さて、私はどうやって攻めたらいいだろうか。」
 それは是非、自分で考えてくれ。
「手始めに”ダイレクト”。」
 魔法剣の極意その1・ダイレクト。 魔法剣では一番簡単な技で、発動した魔法の力をそのまま相手に叩きつけるという、 魔法さえ使えれば誰にでも使えそうなレベルの技。
 しかし魔法剣は魔法の能力に加え武技も要求される上、さらに魔法剣技としての知識を要求される…… 昔は大変な技だったが多様化の進んでいるこのご時世、ダイレクトやエンチャント程度で驚くことではない。
 ついでに魔法剣の極意その2・エンチャントとは魔法の力を武器に宿してから利用することで半永久的に魔法の力で攻撃が可能な能力である。 そういう点では瞬間的な威力をウリとするダイレクトよりは多少劣るが、エンチャントの場合は持続性で勝る点で結果的にはダイレクトよりも勝る。 さらにエンチャントは物質に宿すという技巧なだけあってダイレクトよりは高度ではある。しかし、今回アールはそれを行使しなかった。
「やっぱり、キミの技の前ではリーチが足りてないよね。」
 確かに普通の技に魔法を加えただけのダイレクトでは魔法のような力でリーチを伸ばしているアーシェリスの媒剣術を相手するには厳しいだろう。
「ならば、今一番メジャーな種類の”スプレッド”を使わせてもらうかな。」
 魔法剣の極意その3・スプレッドはダイレクトの発展型で、威力が拡張されている。 さっきは火炎斬りだったのに、今度は吹雪の魔法で襲いかかってきた。
 しかし、スプレッドとかいいながらアールは魔法剣の極意その4・スプレッド・エンチャント――”アドバンスト”と呼ばれるものになっていた。 文字通りのスプレッドのエンチャントであり、エンチャントの体系からさらに拡張されたものがアドバンストである。
 今のはアーシェリスにも少し効いたようだが、アールの攻め方はほとんど教科書通りで、真面目さに欠いていた。
「真面目にやれ!」
「そう? わかったよ、仕方がないな。」
 すると、アールはシレスに武器を返し、空間から新たな小刀を出した。
「こいつは”エメラルド・ブリンク”、私の作でその通り、エメラルド製だ。」
 わざわざ武器として相応しくない材質で武器を作るとは。武器というよりもアクセサリだろ、それは。 本当に――こいつはどこまで人のことをナメているのだろうか、アーシェリスはイラっとした。 そもそも論として完全にリーチを殺した長さで、見た目の装飾も細かくてかなり手の込んだ作り、 まさに首からペンダントのようにぶら下げて身に着けるペンダントトップのようなアクセサリそのものにしか見えなかった。 それはおろか、武器には到底向かないような宝石を剣に使用するとは、なんのつもりなんだこいつは。 長さ云々というよりも、マウナ軍の軍刀を相手にすることさえ不可能、 それならまだマウナ軍の軍刀のほうがマシだというものだ。
「しかし、魔法剣の力によって、性能は大幅に向上するようになっている、だから安心してかかっておいで。」
 そうか――なら! 問答無用で行くぞ!