何時間寝ていたのだろうか、アーシェリスはすぐさま気が付いた。
「! しまった! 俺は一体今まで何を!?」
「お目覚めですね」
えっ、もしかしてラミキュリアさん? アーシェリスはキョトンとしていた。
「何かわかったことはありますか?」
わかったことって、アーシェリスは今まで寝ていて――
いや、そもそも俺は何していたのだろうかとアーシェリスは思った、頭がおかしくなりそうだった。
「お、俺は一体――?」
するとアーシェリス、傍らに開いていた本に気になるワードが書いてあった。
さらには目の前のディスプレイにも――
「これは!?」
どうやらラミキュリアさんが代わりに確認してくれたようだった。
「アール将軍様に言われて代わりに見つけておきました。
情報が見つかってよかったですね!」
えっ、アール将軍が!? えっ、ラミキュリアさんが!? アーシェリスは恐縮していたが、
「いいのですよ、やることがなかったので書庫整理がてら、やらせてもらいました。
お役に立てるのであれば光栄でございますわ――」
役に立つどころか、記載の情報はアーシェリスにとっては非常に有益な情報だった。
「ありがとうございます! ラミキュリアさん! これ、すごく役に立ちますよ!
後は俺のほうで情報を整理してみます! 本当にありがとうございました!」
すると、ラミキュリアは軽く会釈をしながら、その場を去った。
彼女の誘惑魔法云々という話もあったが、
聞くところによると彼女の言っていたプリズム族の誘惑魔法というのは相手の疲れに対して直に影響を与える効果もあるらしい。
それゆえに彼女らは”癒しの精霊様”と呼ばれることもあるという。
言われてみればアーシェリスの疲れはかなりたまっており、
それが示すかように、目覚めた後は完全にすっきりの状態であった。効果は抜群なようである。
するとそこへ――
「ほんと! うちの兄貴ったらムッツリスケベー!」
ななっ!? またしてもクレンスの声が聞こえてきた。
「プリズム族の能力というのは恐ろしいものね、ラミキュリアはまさに男に刺さる能力を持ち合わせているというわけか。
それにその服装――あからさまに男受けを狙っていると言われても仕方がない気がするけどね――」
また別の女性にそのようなことを言われると、
「そっ、そうでしょうか……確かに自重したほうがいいのかもしれませんね……」
ラミキュリアらしき声の女性がなんだか落ち込んだような様子で答えていた。
だが、相手の女性はそんなラミキュリアに対して前向きに言った。
「いいや、ラミキュリアとしてはそのほうがいいのでしょう? 前にも言ったけど、それぐらいのほうがラミキュリアらしいって。
あのムッツリなエクスフォス――また多種族の男もラミキュリアにハマったようだし、それでいいんじゃない?
そのままずっと男たちの目の保養でい続けられるように精進するべきよ。ねっ、アンジェラ?」
すると、そのアンジェラという人が答えた。
「そうよ、ラミ姉は”私に見惚れなさいな”を体現し続ける女じゃなきゃダメね。
確かに懸念していることはよくわかる、誘惑魔法をコントロールするための修行が足りていないこともね。
でも、修行をしている過程で男たちを余裕のメロメロにしてたって全然いいのよ、
だって――今までが今までだもん、今までの分だけここで女を謳歌すべきなのよ!
そしたらラミ姉は女として間違いなく強くなれるハズだからね!」
なんか、よくわからないけど妙な展開の話をしている気が――
「そうそう! ラミ姉様はラミ姉様らしく、うちのドスケベ兄貴をメロメロにすればいいのよ!」
こら! クレンス! アーシェリスは心の中で大きく呟いていた。
「そうそう! ラミキュリアはすべての男たちにとって夢のような存在であり続ければいいのよ!」
もう一人の女性はそんなことを言っていた、内容的にはえらいこっちゃ――
「そうそう! ラミ姉は今まさに童貞ドスケベアーセニスを殺害したんだから!
絶対に童貞ドスケベアーセニスの夢の中ではいろいろとヤバイことになっているに決まってるわね!
そうやってどんどん世の中の童貞を殺害していけばいいのよ!」
こら――そこのアンジェラという人……この人なんだか無茶苦茶なこと言ってる……。
彼女らの話は怖いのでさておき、情報の整理をして一通り内容を紙に書いていたアーシェリス、それを見直した。
すると、改めていろいろとわかってきたようである。
「それで、何の用なのかな?
”ロバール”、”グリフォン・ハート”、”ウィルム・バインダー”、どれについて調べたいのかな?」
アールのやつが言っていたあのセリフは布石だったのかは定かではないが、
どうやら、エクスフォスにとっては深い関わりのあるキーワードだったようだ。
まず、ロバール=ガレストについては既知のとおり、アーシェリスとクレンスの両親の仇……
そして、ロバールは聖山エネアルドの山頂に祀られていた聖器を盗んだ。
その聖器は”魔剣グリフォン・ハート”だそうだ。
聖器と言われているが、祀られていたから聖器と思われていただけで、実は魔性の偶物だったようだ。
そして、”魔剣グリフォン・ハート”は”ウィルム・バインダー”と呼ばれる魔鳥の力によって驚異のパワーを引き出し、
絶大な攻撃力を発揮することができるという、いわくつきの武器なのだそうだ。
しかし、判明したのはそれだけではない。
”魔剣グリフォン・ハート”はかつて、とある都を滅ぼしたことでも恐れられている魔剣だと言われているらしい。
それがどのような都であるかの情報まではないけれども、それほどまでにすさまじいパワーを発揮できる剣だという。
さらに、この”魔剣グリフォン・ハート”の存在とエクスフォスという種族は非常に深いつながりがあり、
誕生のルーツが同じであることを示していた。
ということは、”ウィルム・バインダー”もルーツは同じと推測できる。
ロバールはそのことを知っていたのだろうか?
なぜ、”魔剣グリフォン・ハート”を持ち去り、アーシェリスとクレンスの両親を手にかけたのだろうか。
さらに、エクスフォスの扱う媒剣術についての情報もあった。
ルーツの派生元は誰でも予測可能であろう、何を隠そう剣に魔法を宿す”魔法剣”に他ならない。
しかし、媒剣術が通常の魔法剣と異なる点は、宿す力を自分では簡単に選べない点だそうだ。
魔法剣の場合は自分で利用する魔法を選択すればいいけれども、
媒剣術の場合は基本的には生まれ持っての才もしくは自分自身でこれだと決めた力を自らの力とするための努力で身につけるという方式をとる。
そして、その都度どの程度の力を媒剣術として発揮するのかということを使い手が選択することで、媒剣術が成り立つ。
それによってその使い手は通常の魔法剣の使い手よりも特化した能力の持ち主となるため、
通常の魔法剣のそれよりもより強力な力を得ることができるのだという。
例えば各々の持てる媒剣術の力は、
アーシェリスは風の力、クレンスは光の力、フェリオースは影の力、ラクシスは霊の力……とまあ、そんな具合だ。
一度力を決めてしまうと別の力を身につけるのに一から修行をし直さないといけないこともあってなかなか取得までが大変なのであるが、
エネアルドでは小学校を卒業するぐらいまでの過程で、最低でも一つの力を身につけているハズであるため、
基本的には一人1つずつの力で技を使うという認識で問題ない。
アーシェリスが知っている中での例外は4人いて、エネアルドの勇士の一人のノートス、
アーシェリスの恩師のラスナ先生とフェリオースの姉、そして、あの問題のロバールだ。
特にロバールは、水・雷・地・鋼・影と、5つも持ち合わせている”バケモノ”である。
そういう意味では、ノートスも、媒剣術としては難易度が最高とも言われる、唯一の”開”の力の使い手のため、同類である。
ラスナ先生も”波動”や”言”のように、難易度の高い力を複数持っている点で、ものすごい使い手といえる。
フェリオースの姉のフェレアも冷気・土・影に加えて”滅”という力を持ち合わせており、
これも難易度としては非常に高い部類に入るのだが、具体的にそれぞれがどういう力なのかの詳細についてはあまりよくわかっていないので、ここでは割愛する。
話を戻すと、媒剣術の力についての情報は”魔剣グリフォン・ハート”でとある都を滅ぼす際に開発された技だそうだ。
ただ、調べた情報によると、それとエクスフォスのルーツが同じであれば、
エクスフォス自体がその町を滅ぼすために存在している種族ということになってしまうようだ――。
さらに、エルテンという人物が媒剣術の秘密を知っているようだ。エルテン……アーシェリスはその名前に聞き覚えがあった。
そしてその最後に気になる文章が――
「忘れてはならない、あの忌まわしき出来事を。しかし、忘れてしまおう、我々の存在意義を……なんだこれ?」