軍の指令本部に入ると、確かに受付ブースには一人の女の人が――
「ようこそいらっしゃいました。アーシェリスさん、お待ちしておりました――」
正面にキレーな受付嬢様がお迎えしてくれる……確かにその人は美人だった。
こんなにきれいな女の人……アーシェリスは生まれて初めて対面した。
「さあ、こちらへどうぞ――」
彼女はブースから出ると、奥の通路へと案内した、美人だ……アーシェリスは完全に彼女に見惚れていた――
「アーシェリスさん?」
「えっ? あっ、はい……いえ、なんですか?」
アーシェリスは完全に動揺していた。彼女に見入っていて、話を聞いていなかったようだ。
「こちらの部屋に入ってくださいね――」
こちらの部屋……装いは外装同様に変わっていたけれども、その部屋は間違いなくアール将軍の部屋だった。
「あっ! よく来たね、暇なアーセウム君!」
相も変わらず……これだからこいつキライだ――アーシェリスはイラっとしていた。
よくわからないが、この2年間も何度か連絡しているのだが、いちいち何かにつけて暇人扱いされる――
確かに暇なのは確実で、それにアーシェリスのほうから一方的に敵意むき出しな状態のため、向こうはアーシェリスのことを単にいじっているだけなんだが。
「それで、何の用なのかな?
”ロバール”、”グリフォン・ハート”、”ウィルム・バインダー”、どれについて調べたいのかな?」
アーシェリスにとって馴染みのない単語が2つぐらい出てきた。
”ロバール”は当然知っている、アーシェリスの両親の仇きである。
しかし、”グリフォン・ハート”と”ウィルム・バインダー”とは一体なんなのだろう。
「まあ――せいぜいがんばって調べてくれたまえ。」
そっけなさすぎる。説明もなしか。
「そうだね、あとはラミキュリアさんに訊くといいよ、じゃあね。」
アールは去った。おい! ラミキュリアさんって誰だよ!? すると、アールは去り際に、受付嬢の女性に話した。
「というわけでラミキュリアさん、アーシェリス君のおもりをお願いできるかな?」
「はい! お任せください!」
えっ、ラミキュリアさんってまさか――
「そういうことですので引き続き、このラミキュリアがご案内させていただきますね――」
アーシェリスは驚いていた、この人がそのラミキュリアさん――
白い肌に神秘的なラメ入りのヴァイオレットカラーの綺麗なロングヘアー、
スタイル抜群で目鼻立ちも良ければ透き通るような綺麗な声と、細くて長い綺麗な脚の映える短いスカート、
ものすごく綺麗な人だなあ……アーシェリスは再び彼女に見惚れていた。
そして、気が付けば違う部屋にいた。
「ここはガレアの一般向けデータベース・ブースです。
一般向けとは言いましても……ほかの管轄よりは開示されている情報は豊富ですけどね」
「そうなんですねー」
アーシェリスの頭の中は彼女でいっぱいだった。どうかしてるぞ、アーシェリス……。
「では、私はこれで――」
彼女はそう言ってその場を去った。それと同時にアーシェリスは意識を取り戻した――
いかんいかん! どうしたんだ、アーシェリス!
だが、急に彼女が現れると同時に、その場で意識を失って彼女の虜に――
ラミキュリアさーん……綺麗だな――
その後、アーシェリスは自分に5回ぐらいビンタを食らわすとすごく痛かった……真面目にやるべきことを進めていこう。
いろいろと調べものをし始めた時、馴染みのある声が聞こえてきた、あの声は……
「アール将軍様ー♪」
「ああ、やっぱりここにいたんだね。クレンスさん、私はそろそろ行かないといけなくなっちゃった」
「そっかー、将軍様は忙しいんだね――」
「残念だよ。」
クレンスはたびたびいなくなることがあるのだが、どうやらここに何度も足を運んでいたらしい。
クレンスめ、よほどアール将軍のことが好きなようだな。
「そういえば、キミのお兄さんが来ているよ。余程、暇なんだろうね!」
「そうなの! うちの兄貴って暇人なのー♪」
おいゴルァ、聞こえているぞ、アーシェリスは舌打ちした。
「会いたければ、請け合うよ?」
「えっ……うん――、私はアール将軍様に会いたかっただけだから別にいいなー」
別にいいって! ……いや、それこそアーシェリスも特段クレンスに用があるわけではないので何でもよかった。
「それはそうと、ラミキュリアさんってとってもキレイですよね!」
「いえいえ! そんなことないですよ!」
えっ? ラミキュリアさんもそっちにいるのか?
アーシェリスは声のする方向へ聞き耳を立てた――何やっているんだ、アーシェリス。
よくよく聞いてみると1人2人っていう数ではなさそうだが、その場所で話をしているのはいずれも女性のようである、もちろんアール将軍込みで。
「そうなんですよ! 美女の鑑なんですよ!」
「美女の鑑だなんてやめてください!」
「こういう奥ゆかしいところも素敵ですね!」
「そっ、そんなこと――」
「あははははっ! やっぱりラミキュリアさんはこうでなければいけないね!
最終形態、おめでとう! って感じだね。」
「おめでとう!」
今度は口々におめでとうとほめている……なんなんだ? 最終形態? 意味不明だった。
「あ、ありがとう――」
とにかく、話が見えず、理解不能だったアーシェリス。
所詮は女子同士の話――その程度の類のものなのだろう、
アーシェリスはそう思って自分のやりたいことに集中をした。
――しかしどうしてだろうか、何故か話の内容が微妙に気になって仕方がない。
再び聞き耳を立てていた――本当に……何やっているんだ、アーシェリス!
残念ながら、彼女らの話を聞いていても身になるような話はまったくなく、無駄に時間だけが過ぎ去って行った。
あの後に彼女らが解散したことがわかると、アーシェリスはすぐさま自分の作業に戻り、調べ物を……何を調べていたんだっけ。
「何かわかりましたか?」
急にラミキュリアがやって来るとそう訊いてきたので、アーシェリスは非常に焦っていた。
「えっ? あっ! はい! ……いや、まだちょっと時間がかかりそうです――」
時間がかかるどころか、そもそもまだ何も調べてられていない。
これで3回目となるが、何やっていたんだアーシェリス! とにかくアーシェリスの自問自答は尽きない。
しかし、その後も彼女が視界に入るたびに彼女のことで頭がいっぱいになり、作業がまったく進まなかった。
完全にラミキュリアさんに見惚れていた――こんな光景、もしクレンスに見られていたりしたら――
バカなアーシェリスは未だにラミキュリアさんに見惚れていた。
「いかがですか?」
「はい、とてもいいです――」
「そうですか、いいですか……」
「はい、ラミキュリアさんはとてもいいです――」
5秒後、アーシェリスはとんでもないことを言っていたことに気が付いた!
「ええっ!? あっ! いえ……いや……あのっ、その――」
アーシェリスはしどろもどろになっていた。
「そうです……か。まだまだ修行が足りませんね――」
えっ、修行が足りないって? えっ、あ、いや、それは……まあ、女性に免疫がないのは認めるけど――
「ごめんなさい、私のせいで作業に身が入らないようで――」
「ラミキュリアさんのせい?」
ラミキュリアは悩んでいた、悩める美女のその姿――
「あ、そういえば申し遅れました、私、ラミキュリア=クアルンキャッツ、と申します。
私は”プリズム・エンジェル族”の血を引いています」
と言われても、アーシェリスにはまったく意味がわからなかった。
「”プリズム・エンジェル族”って精霊族の一種なんですよ。
それで、いわゆる誘惑魔法の類が得意な種族でもあるのですが、
それで多分、アーシェリスさんをメロメロにしてしまっているのだと思うのです」
ああ、そうなんだー、俺、超納得ー、超得した気分――アーシェリスの脳内は完全に幸せに支配されていた。
そして、そのままアーシェリスは机に突っ伏して寝てしまった。
そこにラミキュリアに上から毛布を掛けてもらったようで、かなり温かかった。
アーシェリスは、ラミキュリアがもたらす幸せの中に包まれて眠ってしまっていた。