アーシェリスたちの学生生活の終盤は、とにかく学生生活を送っている感じがしないといったところではあるけれども、
以前のあの体験は彼らにとって大きな出来事だったことに変わりはない。
恐らく、学生生活を体験するよりも大きな体験だったに違いない――少なくとも、アーシェリスはそう思っていた。
そして、その体験のうちの一つの節目となる場所、ガレア――帝国の中に存在する花の都、ガレア。
アーシェリスは再びガレアへとやってきた。
「さて、そろそろ到着だ、えっと……うーん……」
例によってルシルメアから出航したガレア軍の軍艦の上で、ヒルギースがアーシェリスに話しかけてきた。何が言いたかったのかというと、
「アーシェリスだ」
「あっ、そうだそうだ、悪い悪い――どうも君の名前を覚えられないな……」
ということだ。俺の名前、そんなに覚えにくいのかとアーシェリスは思った――
アーシェリスは今度はマドファルに促されるままに帝国の軍艦から降り、
彼に促されるままにガレアの町の入り口に着いた。
すると、以前来た時と違い、とんでもないことになっていた。
「あれは一体!?」
何かが焼け焦げた跡が目についた。
よく見たらトラックが大破している……その残骸のようだ。
「ああ、少し前にこの上空を横切るミサイルを撃ち落としたんだけど、
撃ち落としたミサイルがあそこに落ちてしまってね、
見てのとおり、ロケットランチャーを積んだトラック3台がおじゃんさ」
マドファルはそう説明すると、さらに話を続けた。
「ニュースで知っていると思うけど、つい最近までマウナ側がアルディアスと交戦していたんだよ。
それで、その後にマウナからミサイルが放たれたんだけど、どうもそれ自身が”ディスタード本土”の指示らしくてね」
既に説明している通りだが、マウナとはガレアよりも東南東に位置している都市の名前で、ディスタード帝国領内である。
そこはアルディアスを攻略するための最大の拠点となっている要塞都市である。
つまり、マウナそのものはアルディアスを攻略するにあるため、
普通に考えたら西北西にあるガレアへミサイルが飛んでくることはない、
マウナからアルディアス間までの経路上にはガレアがあるわけではないためだ。
そこで”ディスタード本土”の仕業ではないのか――という話が出てくる、なぜなら――
「ガレアよりもさらに西?」
「ああ。確かにアール将軍の言う通り、撃ち落としたミサイルは、高度から割り出した落下地点を計算すると、
ガレアの西の海にある例のポイントを狙っていたんだ」
ガレアよりさらに西といえば、海を挟んでクラウディアス王国がある。
但し、計算と言っても理論上の話、ガレアからクラウディアスまではルシルメア港からガレアぐらいは距離があるため、
かなり遠距離を狙っていることになる。
「クラウディアスへの進撃を狙っているのはディスタード本土軍だからね」
しかし、マウナ軍はアルディアスとの交戦に敗れ、
かつて”マウナ要塞”と呼ばれたその建物も跡形もなくなっており、既にマウナ軍自体も解体されている。
ところが、今はそのマウナ軍を破ったはずのアルディアスをガレア軍が占領しているというのがよくわからなかった。
「それに関しては大人の事情ってやつだよ」
何やら非常に複雑な事情があるらしく、話も長くなりそうなので、この話はまたの機会にでも。
それにしても、ディスタード本土のベイダ将軍は未だにクラウディアスを狙い続けているとは。戦争はまだ続いているようだ。
「さて、ここがガレア軍の指令本部だ、初めてじゃあないからわかるよね?」
マドファルにそう促されたアーシェリス、そうは言うがリフォームでもしたのか、
アーシェリスが以前に来た時とは外装が以前と違っていたため、はじめは何の建物なのかがまったくわからなかった。
「じゃあ、私はここで」
そう言うとマドファル去った……そっ、そんな、仮にも軍本部だろう、案内なしで行けるわけが――アーシェリスは焦った。
「あ、そうそう、一つだけ言い忘れた」
マドファルは戻ってきた。ふう、よかった……アーシェリスは安心した――
「中に入ると正面にキレーな受付嬢様がお迎えしてくれるから、とりあえず彼女に訊きな。じゃあね」
と、言葉を残して再び去った。えっ、それだけ?