エンドレス・ロード ~プレリュード~

エクスフォス・ストーリー 第1部 未熟者たち 第2章 無力さ

第18節 力を持つものの責務とは

 ガレアでの滞在中、帝国とは思えないほどの待遇を受けたエネアルドの一行、 何人かの帝国兵たちとも何故か仲良くなった。
「やあ、お疲れ様、ジェタ隊長。」
 その日、アール将軍はジェタという女性の帝国兵を迎えていた。
「はい将軍、お疲れ様です!」
 すると、隊長は6人のほうに視線を向けながら言った。その人とは初対面であった。
「将軍、こちらの方々は?」
「ああ、彼らはエクスフォス様ご一行だよ。 多分知っているかと思うけど、先日の戦の件に関してわざわざガレアまでやってきてくれたんだよ。」
 忍び込んだはずなのに、お客様として訪問してきたことになっていた。
「はあ、そうでしたか、ようこそガレアにいらっしゃいました、どうぞ、ゆっくりしていってくださいね」

 ジェタはこの管轄の大隊長を務めているらしい。
「女性なのに大隊長なんですか?」
 クレンスとユイがジェタと話をしている。
「ええ。私は少し前の”ディルカントの戦い”から大隊長をやっていますね――」
 その戦いはディスタードと、はるか北東にある旧帝国”ガルバート”との戦争だった。 ガルバート軍がディスタードを攻め落とすため、当時のディスタードの領土である”ディルカント島”―― ルシルメア大陸の南東沖にあるその島へガルバート軍が遠距離からのミサイルで攻撃したことから戦争ははじまった。
 その当時、ガルバート軍はディスタードのマウナ軍と交戦中だったが、 ガルバート軍の最後の抵抗としてルシルメアの北方からルシルメアに、 ディスタードとは協定を結ぶことになるルシルメアに対して遠距離からのミサイルを一方的に打ち続けてきた。
 そもそも論として、ディスタードはルシルメアを支配したかったため、 アールがルシルメアと協定を結んだことはディスタード将軍の間ではあまりよく思われていない。 そのため、結局ルシルメアと交渉した新米将軍のアールに責任を押し付ける形で改めて”ディルカントの戦い”参加への任務が降りることとなった。 やつには出来ないだろうと言うマウナの将・ダイムなどからのイヤミであったことでも良く知られている。 まさに、まさにアールが将軍になることを快く思わない連中がいるということの表れでもあった。
「なかなか難しい戦いだと言われてますよね、しかし、そんな相手にどうやって?」
 ラクシスからの質問にはアールが答えた。そんなことに答えるのだろうか? そう思うが、こいつはあっさりと答えた。
「それはジェタ隊長が優秀だっただけの話だよ。 彼女の得意分野は対空防衛術、陸上での歩兵部隊合戦でも未だ負け知らずなんだよ。」
「将軍、私は合戦の経験が少ないほうですよ」
 女性隊員に対する風当たりの厳しいディスタードは彼女のような存在は非常に珍しい。 だが、アール将軍のガレア管轄は積極的に女性を取り入れているところがある。 故に、同じディスタードでもガレアでは女性が大活躍を納めていることはあまり珍しくはない。
 そして、その当時はせっかくのチャンスと考えたジェタの作戦により、 あの戦いは最終的に攻撃してきた側の土地を制圧して幕を下ろしたのだった。
「大隊長のポストを務めさせたのはたまたま空いていたからだよ。 ……というのは少々語弊があるけど、実は前々から目をつけていたんだ、彼女のディスタード本土軍時代の時からね。 地元はこっちだっていうし、それに本土軍時代での処遇は全くよくない。 女性だからって疎まれているのが実際のところだった。 だから私としては早期に引き抜き、早いところ大役を任せたいなと考えていたところだったんだ。」
 それで彼女はガレア軍の総隊長、つまり大隊長を務めさせることにしたんだそうだ。 さらにアールは続けた。
「つまり、ディルカントに関係なくジェタさんは大隊長にするつもりだったんだ。 でも流石だね、そうした途端にやってやるぞ感が半端なくってね―― あの作戦は私としても本当に彼女に任せてよかったと思うほどだった。 まさにあの作戦はジェタ隊長がいなければ成し得なかった作戦だよ。」
 そう言えばここに来る前にルシルメアで新型の戦車とかなんとかいう話があったのを思い出した。
「ああ、あれね、”新型の戦車”だなんて言ってるけど、あれこそがディルカントで大活躍した兵器なんだ。 うちでは一応”新型”と言っているけど、私にしてみれば現行型なんだよね――」
 しかし、その後にアールは暗い表情を浮かべ、次のようなことを言っていた。 本来ならこのような兵器を使わずに済めばいいのは間違いない。 ところが、ディスタードを落としたい国はあるし、 ディスタードに成り代わって世界征服に乗り出そうなんて国だってある、 争わずに済めば一番いいが、そうは言っていられないのが現実だった。
「そういえば”エイジ君”も戻ってきているよね?」
 アールはジェタに訊いた、エイジ君?
「エイジさんですか、今はニードル兵器の最終調整に立ち会っているところだったと思います――」
 ニードル兵器?
「そっか、完成間近なんだね、だったら私からあっちに行こうか。」
 そして、6人も何故か一緒に工場のほうへと一緒に行くことになった。

 工場好きにとってはたまらないだろうその場所へとやってきた。 別に”工場萌え”という人はこの中にはいないけれども、それでも何人かはちょっとワクワクしていた。
 そして、そこに”ニードル兵器”なるものがあった。
「どうだいエイジ君、研究成果は順調かな?」
「ああ、ばっちりだ――いろいろと課題は尽きないが、 所詮はただの”ニードル・ランチャー”を武装しただけの車だからな、この程度ならなんてことはねぇぞ」
 ”エイジ君”はその場所にいたようだ。 体格的にはアールよりも細身の男、顔立ちもそろってF・F団のリヴァストといい勝負だった。 そういえばリヴァストの時は細身の男なのに、 アール将軍だと割合しっかりとした体型になるようだ――流石は変装の名人か。
「んで、この部外者たちは何?」
 エイジは6人に対して言った。すると、アールが、
「そう、部外者。でも、工場見学をしたいって言う勉強熱心な学生さんたちだよ。」
 エイジはウソだと思って呆れていたが、それ以上は特に気にしていないようだった。
 しかしニードル兵器、まるで剣の刃のようなデザインだ。 それもそのはず、砲身自体は刀鍛冶……アール自体の作品らしい。 その形状データをコンピュータに入力してCADと呼ばれる技術を以て作成したものらしい、精度は現物には劣るらしいが。 対人対戦用に開発したものではなく魔物討伐用に開発したものなので、 昔ながらの刀剣というものを戦車用に応用してこうなったと言う。
「なんていうか、とってもすごいもののように見えるんですが――それでも課題があるんですね……」
 ニードル・ランチャー・ポッドからはいくつかの刀剣のような刃が顔を出していた。 これで対象を貫いて攻撃するのか……
「そうだね、弾頭をあまりに完璧にしてしまったせいで1個生産するまでが大変なことだね。 もちろん、1つ1つ丁寧に作る分にはどうってことはないけど――こんなの、消耗品なのに1つ1つ丁寧に作っていたら時間がいくらあっても足らない。 だからいろいろと時間を工面しているうちにコストが膨大になっちゃってね――」
 そんな弱点を部外者に言っていいのか。
「構わないよ、あくまで人道支援用兵器だからね。 でも――どうしても対人対戦で使用せざるを得ない場合は――その時はその時かな――」
 と、辛そうな面持ちで答えた、まあ――その気持ちは最初にも言っていた通りなのでわからなくもない。 ただ――なるほど、これこそがその”真似できるもんならやってみろ”系の兵器ということか、何人かは納得した。
「まあ、そういうわけで、搭載する側の兵器には金をかけられないってのが最大の問題だ。 それに兵器の性格上、やられるより先にやってしまえ系の兵器だから、強度よりも機動力を重視した車両とかに搭載すべきだな――」
 アールは頷いた。
「だね。つまり、足の速い偵察車両とかに取り付けて運用するのが望ましいということだ。 対魔物戦車両とくれば、現地にいち早く持っていけるということから重宝されることは確実だ。 一方で戦争兵器の体で考えるとすると、無論、そうなると通常の戦車あたりが天敵になるわけだけど、 躊躇せずに先にぶっぱして相手を撃滅すべきが使命と考えればこの兵器の役目としては十分だろうね。 ただ……高いのに先に攻撃を受けるとしたら少々もったいないことになるかな……」
 エイジは頭を掻いていた。
「だな……。まあ、機動力をいかしてさっさと逃げるべきだな――」
 エイジは頷いた。
「で、やっぱりロケット・ランチャー・ポッドにも対応させるんだろ?」
 アールは頷いた。
「もちろん。 極力怪我しない飛び道具や隠ぺい兵器、あとは偵察兵器系に装備させるのは優先事項だ。」
 エイジは再び頭を掻いていた。
「全部お宅の得意分野じゃねーか」
「当たり前だろ? 情報を操るものこそが戦いを制する時代なんだからね。」
「てか、戦争の兵器としての運用を想定していないハズだったと思うが」
「もちろん。だけどここはディスタードだ、だから残念だけどそうは言ってられない――」
「まあ――それもそうか……」
 2人とも暗い表情をしていた。やるべきことはやっているが、前向きではないということらしい。