デートといえど、他の5人も後ろからついてくる、デートというには程遠い。
「あのー、アール将軍様はいつもそんなていねいなしゃべり方をなさるんですか?」
「ん? まあ……そうですねえ――、初対面の女性に対しては往々にしてだいたいこんな感じですかね。
多分、こうじゃなかったら変ですよ。」
じゃあ、初対面でない感じでやってみてーとクレンスはリクエストすると、アールはていねいに受け答え、深呼吸した。
「えっと、クレンス……さん、ガレアは好きかな……?」
……そんなに変わってねえよとフェリオースとラクシス、ガーティは思った。クレンスは催促した。
「それじゃあ……、ううん……なんだか難しいなあコレ。しゃべり方、しゃべり方ねえ……。」
独り言みたいな内容だが砕けてきたアール、それに対してクレンスは喜んだ。そしてアンコール、アンコール。
「仕方ないですねえ……、んじゃあ、クレンス……さんのためにとっておきを。
困ったことがあったらいつでも私に任せなさーい!」
クレンスはなおも喜んだがなんか違う! 絶対に違う!
フェリオース、ガーティ、ラクシスは違うと思っているも、ユイもクレンスもあまりそうは思わなかったようだ。
その一方でアーシェリスは一人蚊帳の外、しゃべり方云々よりもアール自体が憎くくてたまらないとでも言いたそうな感じだった……。
そしていつの間にか2人は手を握っていた。
さらに2人の会話も弾み、どう見てもひとつのカップルが成立しているように見えた。
……ところでアール将軍は女性耐性が強いようだ、
手を握るときもクレンスに触れたり話し掛けたりするときも、
何抵抗無く普通の流れでやっている……いや、実行しているという感じで、
中身の無いロボットのような対応といえば、それはあながち間違いでもない気がした。
日はすっかり落ちようとしていた頃、デートは終わりを迎えていた。
「そろそろ終わりですかね。」
「ですね♪ 今日はいろいろとありがとうございましたー!」
「いえいえ、こちらこそクレンスお嬢様とデートが出来て嬉しかったです!」
デート序盤とは違い、2人はしっかりと腕を組み、完全に2人の世界だった、
そりゃあデートなんだから邪魔しちゃいけないよな、兄・アーシェリスよ。
「なんで俺に振るんだ!」
しかし、まるでこの2人は絵になるようだ、クレンスは美形のタイプ、
過去には何人かの男から(直接・間接問わず)告白されていたこともあったらしい。
そして、そのお相手は背がそこそこ高くて美形のアール将軍様、本当に絵に描いたような美形のカップルのようだ。
「本当に嬉しいな! アール将軍様とデートが出来て! またお願いしてもいーい?」
すると、アール将軍はうーんと考え始めた。
「あ、そっか……アール将軍様はあれだもんね、色男だもん……やっぱり他にいい人とかいるんだ――」
アールは否定した。
「いやいや、そんなことはありませんよ、私には……」
むしろその面持ちは”いそう”に見えた。
「そんなウソ言わなくたっていいですよ、本当はいるんでしょう?」
アールはこう答える。
「いえいえ、本当にいませんよ。なんていうか……私ときたら罪作りな人間で本当に申し訳ない。
むしろ、私自身がどうしてこうなってしまったのかがあまりよく分からないでいるのですよ――」
クレンスは「アール将軍様……」
そして、アールは思い立ったように話し出した。
「私は女性相手にその手の感情を抱くことが出来ないので、
結局、行き着くところはそういう話になってしまうんですよね――。
それでは機械のような人間だと思われても仕方が無いかも知れませんね。」
「そうなんだ――なんだか、私の想像するアール将軍様のイメージとは全然違うんだね……」
クレンスは心配していた。クレンスの考えることに関してはフェリオースらも同感だった。
第一印象からしてまさに女性にモテそうなイメージの優男風で、
女性への接し方についてはあからさまにすごい女性関係がハデなやつで、
女性に関する話題の多いプレイボーイ肌のヤツなんだということが真っ先に浮かび上がる。
それ自体は結構ウワサにもなっており、見るからにあながち間違いではないような気がするのだが、
当の本人の真実は、なんだかそのイメージとは全く異なるようだった。
「もしかして病気か何かなの? もし悩んでいるのなら……私に何か出来ないかなー?」
クレンスはそう言った。すると、アールはガレア軍の本部の建物へ入るや否や、
「そうですね、せっかくですからクレンスさんには話を訊いてもらおうかな? そのほうが理解が早いかもしれませんし――」
そう言って、クレンスをその部屋の中へと招き入れた。
「あっ、そうそう――申し訳ないんだけど、他の方々はここで待っててね。
あでも、ユイさんは入ってもいいよ――というか、来てくれると嬉しいな。」
そう言われてユイはアーシェリスたちと顔を合わせると、そのままアール将軍のもとへとやってきた。
そして、女子2人とアールは部屋の中へ行くと、部屋の扉は閉まった。
すると、その扉に向かってアーシェリスは聞き耳を立てた。
「おい、アーシェリス! 何もそこまでしなくたって!」
フェリオースはアーシェリスを抑えた。
「そうだよ! ユイと一緒なんだから心配すること無いって!」
しかし、ガーティのそのセリフもアーシェリスは聞かなかった。
そのうちアーシェリスは諦めた、どうやら聞こえないらしい。
それから40分程度経って、中から3人が出てきた。
「おやおや、盗み聞きとは随分だねえ。まったく――他人のナイーブな話にそんなに興味があるのかな~?」
「いや、そんなつもりではないです……すいません」
ラクシスがていねいに答えたが、アール将軍は……
「いやいや、キミには言ってないよ、私はアーシェリス君にそう言ったんだよ♪」
アーシェリス以外の5人はそのセリフで大笑いした。
「おっ、なっ……何がおかしい!」
アーシェリスは苛立っていた。
「ゴメンゴメン、キミの可愛い妹さん、すごい優しい人だよね、話に乗ってくれてすごいすっきりしたよ。
本当にありがとう、キミにも一応お礼を言っておくよ。」
すると、アーシェリスは別にーとでもいいたそうな態度で「そうか」
そして、その場からアールは立ち去ると、エネアルド組は合流した。
「なあ、何があったんだ?」
と、ガーティは女子2人に訊いた。しかし、
「うふふふふ、ヒミツだよねえー♪」
「ねえー♪」
と、女子2人で顔を合わせながらそう答えた。
アーシェリスはとにかくアール将軍のことを嫌っていた。