ディスタードのガレア領、アールはアーシェリスらに話をしており、そして確信に触れた。
「うん、どうやら戦いを仕組んだのはキミたちの種族の中にいるらしい。
要は内輪もめだよ、あのシェトランドを相手させようって無謀な計画なんだから、
どうやらキミたちエクスフォスを絶滅させようとたくらんでいるに違いない。」
なんと、そんなことが。しかし、こいつはその話をどうやって仕入れたのか、
それは帝国の情報網はすごいからとしか教えてもらえなかった。それもそのハズ、
「言ってしまうと、この情報は副産物に過ぎないんだ。
偶然と言ってもいい、それぐらいのレベルで得られた情報なんだよね。」
ということらしい。つまり、実際に得たかったハズの情報は別にあったということらしい。アールはさらに話を続けた。
「一応、話を付け加えておくと、エクスフォスの矛先はバルティオスやシェトランド諸島の住人、
つまり、どちらもリオーンを狙っていることになる。」
そうだ、リオーンはシェトランド諸島の長で、バルティオスの主だ。
「リオーンを消せば都合がいいと考えているやつがいるってワケだ、
それに賛同したキミたちの種族の一部がたまたま通りかかったというだけの話だったんだね。」
でも、やつの計画はワイズリアの行動によって阻止されることになろうとは。
「あの……アール”将軍様”はそれを企んだ人の名前を知っているんですか?」
クレンスは言った――おいおい、”将軍様”ってなんだよ、アーシェリスは驚いていた。
「ああ、もちろん知っているよ、キミたちも知っているであろう渦中の人物、
”ロバール=ガレスト”だよ。」
ロバール=ガレスト! そうだ、あのガレストだ!
ロバールといえばエネアルドでは指名手配されていて長らく経つ。
彼らが物心をつく前から指名手配されていたようである。
「ロバールといえば被害者の名前は伏せてある、あの殺人事件の!?」
ガーティはそう言うとアールは頷いた。
「ああ……うん……そうなんだ、被害者の名前は伏せてあるんだね、遺族は知らないんだ……。」
どういうことだ? 遺族は知らないって?
「それはエネアルド政府が決めたことだから私から言うことはできないね。
でも、今回のことを受けてそのうち知ることになるだろうから私からはあえては言わないよ、
その時はエネアルド政府に掛け合うまでだ。
ただ……ロバール=ガレストは許しちゃ置けないよね、うん……まあ……がんばりなよ。」
すると、アールはクレンスのほうに向かい、改まって話し始めた。
「やあ、またお会いできて光栄です、クレンス嬢。以前は全然お話が出来ませんでしたね。」
クレンスは楽しそうに答えた……
「はいっ! 私も将軍様にお会いできてとっても嬉しいです!」
アールはニコリと笑顔で答え、次は隣にいるユイに話し掛けた。
「すいません、クレンスさんばかりで……」
「えっ!? いや、いいんですよ! 別に! それにそのクレンスの剣――すっごく素敵ですよね!」
「誉めていただけるとは嬉しいですね!
でもすみません、同じものが2つと無いので――」
「いえ! 別にいいんですよ! クレンス、良かったね!」
「ウン♪」
ちょっと待て、この展開はまさか……
帝国の将軍アール、F・F団リーダーのリヴァスト――同一人物でフェミスト……女性に対しては非常に優しいようだ。
しかもイケメンの優男……どうやらクレンスはその男に興味津々のようである。
「兄・アーシェリス、妹があんな状態だけど、どう思うよ?」
フェリオースはそう言うが、アーシェリスは何も言わなかった。別に、妹の勝手だし……
そうともとれそうな表情でもあるし、なんとも微妙な顔をしているようだ。
次は場所を移すと外のほうへと出た。クレンスとアールとユイの3人はベンチに一緒に座り、話をし始めた。
その様子はまさに両手に華である。
「この剣のここの飾り、実はこうなるのですよ。」
アールはちょっと失礼といいながらクレンスの剣の鞘に巻きついている、
刺繍のような細工が施してあるレースのような形状の金属の飾りを取り外し、広げて見せた。
「ちょっと派手目ですけどね、まずはこんな感じで如何でしょうか。」
それはなんと、手で簡単に形が定まり、それをクレンスの頭にていねいに乗せ、髪の毛に固定させた。
「とりあえずコサージュバージョン。これにいろいろと加えてあげれば……。」
アールはポケットからいろんな花の形を模した飾りを出し、そのコサージュに加えていった。
「はい、お姫様の完成。」
それに対してユイが興奮気味に言った。
「わあ! クレンス! まるでお姫様みたいだよ!」
「お、お姫様?」
クレンスは慌てて自分のかばんの中から手鏡を取り出そうとするが――
「これをどうぞ。」
アールが素早く自分のかばんから大きめの鏡を取り出した。なんか便利なやつ。
そして、クレンスは自分の頭に乗っているものをまじまじと見つめた。
「うわあ……ホントにキレイ……」
クレンスはその飾りにうっとりしていた。
「でも、ちょっと派手じゃないですか?」
ユイが訊いた。
「これだけ大きなタイプのものですからねえ。
あとは……フードとかバンダナとか、頭以外だったらブレスレットとかスカーフとか――
それと、腰布系の用途としても使えますね。」
アールはコサージュを分解してそれをさらに2つに分けた。
「実は2つでひとつ、構造的にはティッシュ・ペーパーのような作りをしているんで、
2つに分けてうまく使えばなんでも出来てしまえます。」
わあ! すごーい! ユイとクレンスは驚き、楽しんでいた。
両手に華という状態はともかく、アールのもつ技術力の高さ、あの布……金属布の刺繍らしき模様の細かさには恐れ入る。
なるほど、これがそのこいつの能力というやつか――帝国に来る前にヒルギースとマドファルがしていた会話がまさに物語っているようだ。
「ユイさんはこれなんてどうですかね。」
アールは自分のかばんの中から今度はストラップのようなものを出した。
「これは単に布を絞っているだけです。
つまり、基本はクレンスさんのと同じですが、こちらはサイズが小さめです。
勝手かも知れませんが、ユイさんは小さめのほうが好きそうだったので、どうぞ。」
ユイは喜んでいた……アールよ、テメエは何を考えているんだよ。
あの真意が見え見えな感じ、アーシェリスはもんくを垂れていたがラクシスは首を振った。
「いや、なんだか不思議なんだけど、”下心”みたいなものは見えないね――」
ソウル・ディパーチャーという家柄故の能力なのか、
ラクシスはよく人を見わける能力を持っているようだが、アーシェリスはそれを信じていなかった。
一方でフェリオースとガーティは、どちらかというと半ばどうでも良かった、最後に決めるのは彼女ら自身だからだ。
すると、今度はアーシェリスがギョッとするような発言をクレンスがした。
「ねえ兄貴♪ これからアール将軍様とデートに行ってきまーす♪」
アーシェリスは明らかに動揺していた、ノーとは言わなかったが――
「それじゃあアール将軍様、よろしくお願いしまーす♪」
「はい、こちらこそお願いいたしますね、クレンスお嬢様。」