「まあ、せっかくなんだからさ、ガレアで少し遊んでいきなよ、
一応、建前としては帝国だからそこまで自由には出来ないけどね。」
アール将軍はそう言いながら全員の腕の縄を解いた。
「俺たちを見逃すのか?」
ガーティは言った。
「殺したって仕方が無い、無意味な殺しはしないもんなんだよ。
だから私はワイズおじ様にあの話を伝えたんだ。わかるかな。」
アールはそう言うと、6人がじっとその内容が訊きたいとばかりに見つめている視線に気が付いた。
「そりゃあそうだよね、せっかく来たんだから訊いていくのも悪くは無いか。」
グレート・グランドの北、ネルパートの島にて、そこには”セイバル”という、シェトランドと交戦中の連中がいた。
彼らは通称”シェトランド島”やグレート・グランドのバルティオスを攻め落とすつもりでいたらしいが、とある噂で持ちきりだった、それは――
「なあ、エクスフォスがシェトランドやグレート・グランドを攻め入るとか言っていたが、本当なのか?」
「ああ、どうやら本当らしい。”ガレスト”とかいうやつがうちの長とそういう話をしていたらしい」
ガレスト! そうだ、ルシルメアでも話に出たあいつ、そんなところにまで。しかしこの話は――
「おいっ! それって本当なのかっ!?」
ワイズリアが訊いていたという。
だが、ご覧の通り、彼はうっかりと敵に話し掛けてしまったようである……。
「あ? ああ、本当だが……?!」
「おっ、お前は雷虎!」
「くっ、しまった、厄介だな……」
ワイズリアはその2人をシメて、事なきを得た。
しかし、今の話は重大だ、自分のダチのリオーンが狙われている、彼に知らせなくては!
といきたいところだったが、今回はそういうわけにはいかなかったようである。
「お前なら知っているんじゃないかと思ってな」
「まあ、ちょっと思い当たる節はあるけど……。
それにしても解せないな、何でシェトランドが種族に関わる問題なのにこの私を頼ってきたのかな?」
ワイズリアはとある男に頼ってきたのだった、それがF・F団のリーダーである。
「そりゃあ、言わなきゃダメだろうな――」
「うん、すっごく気になる。だから交換条件としよう。」
「ちっ! 分あったよ! 言えばいいんだろ! 言えばよお!」
リオーンの住まうその諸島、実は最近そこの知り合い、
種族自体が少数なのでみんな家族同然、そんな家族の中で最近成人した女性がいるという。
そんな諸島のお祝いムードをぶち壊すなどワイズリアには出来なかったのだ。
「泣かせる話ですねえ、おじ様。」
「うるせえやい!
せっかくうまい酒を飲んでいる際中にんな水差すような真似ができるわけねぇだろうがよぉ!
とにかく、この俺にこんなこと言わせたんだからな、きちっと調べておかねえとただじゃおかねぇからな!
それと、この話はリオーンには内緒だからな! いいな! わかったか!」
「おお怖い怖い。そうですね、せっかくの祝いのムードを破壊するというのは良くないですからね。
そういうことなら徹底的にセイバルの件に関しても調べておきますので安心してくださいね。」
それからというもの、ワイズリアは事あるごとにルシルメアへ赴き、リーダーと話をしていたのだった。
「で、真実がわかったのが最近の話だったというわけなんだよね。
帝国で手が離せなかった私は、直接ワイズおじ様を招待することにした。」
あれ? ちょっと待てよ――
「えっ、アンタがか? F・F団のリーダーじゃなくて?」
と、フェリオースは指摘した。
というか、その話を何故こいつが知っているのだろうか、疑問でしかなかった。
だが、その解は実に単純なものだった。
「どっちも同じようなもんだよ、
だって、私はアール将軍――それは仮の姿で、
本当はフォレスト・フォックスのリーダーをやっている”リヴァスト=シルフレッド”なんだよ。
別にキミらに隠すほどのことではないから気にはしていない。」
すると、本人は顎に手を当て、首をかしげたながら言った。
「ん? あれ? 待てよ……”リヴァスト=シルフレッド”が仮の姿だったっけ、
まあ、どっちも仮の姿だからどっちでもいいんだけど。」
どっちも仮の姿って……。
まあ、その辺はこの際どうでもいいだろう、いずれにせよ同一人物であることには変わりない。
それにしても、ぱっと見あの時すれ違ったF・F団のリーダーと同一とは思えなかった。
しかし、どうやらそれは紛れも無い事実、なんだかものすごい展開になってきたぞ。
「あ、でも、一応このことはヒミツだからね。ダイムとかに知られたら殺されちゃうし。
とにかく、名前をたくさん持つってなかなか大変なことなんだよね。」
確かに、この事実は方々においてよくない結果になることは明白である。
そもそもディスタードのガレアの将軍のアールとルシルメアのF・F団のリーダーのリヴァストはルシルメア解放の立役者――
いや、それって茶番では? となると、どう考えても戦争に発展するような気がする――それは避けなければならない。
「一応念のために言っておくと、確かにリヴァストはルシルメア解放の立役者という名目だけど、
実際にはルシルメアの中枢の人と掛け合っただけに過ぎないんだ。
だけどリヴァストがやったってみんなに注目された結果、あんな形になってしまった――
私も意図していないことだったんだよ。
しばらくはほとぼりが冷めるまでは木曜日のあの活動をやっていくつもりだよ。
とにかく戦争は良くない、暴力反対。作戦は”いのちだいじに”だ。」
それについては頭が上がらない。
一方、ティルア自衛団の事業所にて。
「あのエクスフォス共、うまい具合にあいつと接触できたようだな」
クラフォードはそう言うと、アトラストが訊いた。
「どうせこうなるんだったら最初からディスタード行きを紹介してやればよかったんじゃねえか?」
クラフォードは首を振った。
「まあ、それもそうなんだけどな。
でも、選ぶのはあいつらだ、あいつらがどうしたいかについては俺がどうこう言えるような立場じゃない。
だから今回はあえてこうすることにしたんだ」
アトラストは考えていた。
「まあ、まどろっこしいっちゃあまどろっこしいが……確かに、どこまで深入りしてもいいのか決めるのはあいつらだもんな。
でも、そしたらあいつらどーする気なんだ? 多分、留まることを知らずにとことん追求するつもりだぞ?」
クラフォードは頷いた。
「それはそれで仕方がないだろう、それを選ぶのもあいつらだ。
だから、それはそれでいいんじゃないか?」
アトラストは再び考えていた。
「まあ、確かに――それもそうだな、俺らがこれ以上とやかく言うことじゃねえか……」