遠くのほうで話し声が聞こえる。
「すべては手はずどおりですかね」
「どうかな、一応確認だけしておけ」
「わかりました!」
しかし、6人は見つかるわけにはいかない、見つかってなるものか。
彼らは息を潜めて大きな木箱のようなコンテナの中に隠れていた。
木箱の中にはバイクらしきものが格納されていたが、
それだけにしては非常に膨大なスペースがあったため、6人できちんと隠れられた。
彼らはその木箱の側面の扉から入り込んでいたのだ。
すると、さっき話をしていた帝国兵の一人は彼ら6人のいるほうに向かって歩いてきた。
しかも、6人が隠れているはずの木箱の前に立ち止まり、周囲を見渡していた。
それから……今度は6人が隠れている木箱の方をじっと見つめていた。
見つかった……の……か……?
すると、帝国兵は通り過ぎ、駆け足で引き返し、上官らしき人に報告していた。
「どうやら大丈夫なようです!」
「そうか、大丈夫か……。ならば、少し船足を速めるか――」
「そうですね! わかりました!」
そして、あの2人はその場を去った。
「ふう、危ない危ない……」
フェリオースは胸をなでおろしながら言った。みんなもほっとした。が、しかし――
「なーんか、帝国兵のやり取りにしてはラフな気が――」
ラクシスは違和感を感じていた、確かにその通りだった。
「確かに――”わかりました”とか”大丈夫です”とか――
でも、あえて軍規にそう書かれている可能性もあるけどな――」
アーシェリスは考えていた。謎は尽きないが言っていても仕方がないということである。
ディスタードは三つの島で構成されている。一つ目は一番北にあるディスタード本土島だ。
本土島ということはその島が帝国の本拠地で、大きな帝国城が構えている。
二つ目はディスタード三島の中央にある島”ノース・ディスタード”だ。
その島にはルシルメアの話にも出た将軍、名前は”アール将軍”というが、その将軍が管轄する拠点”ガレア”のある島で、
ディスタード三島の中で最も大きな島となっている。
そして、ノース・ディスタードの南、浅瀬でつながっている”サウス・ディスタード”島がある。
言ってもノース・ディスタードとサウス・ディスタードはほとんど東西でつながっているため、
実際には南北という感じでつながっているようではないため、
西はガレア、東は”ダイム将軍”の管轄である”マウナ”と認識していいだろう。
そして、そのマウナは帝国にとってはさらにその南にあるアルディアス大陸侵攻のための重要な”マウナ要塞”という拠点があるそうだ。
さて、この船はどの島へ向かうものなのだろうか。
「なんだろう、本当に船足が速くなったぞ?」
ラクシスはそう言った。確かに、船の推進力が変化するのが良く分かる、
あの帝国兵たちが言っていたとおりだが、ちょっと早すぎやしないか?
「何かあったのかな?」
わからないが、みんな少し心配していた。
しかし、ちょこっと外の様子を見るも、どの帝国兵もただただ持ち場にたたずんでいるだけで、
何も変わった様子は見受けられなかった。
それからまもなくして、木箱のふたの隙間からディスタード本島が見えてきた。
「あれが帝国の本拠地か」
アーシェリスはそう言った。大きな建物が良く見える、あれが帝国城か。
その姿はデンとした偉大なる佇まい――ではなく、なんだか鉄骨だらけの無骨な装いで、少々物足りなさを感じるようだ。
「でも、あそこへ向かっている様子ではないね」
と、ラクシスは言った。確かにあの島に接岸する様子も無く、そのうち遠ざかってしまった。
「航路としては、ただひたすら南へと進路をとっているだけのようだね」
南……ディスタード本島から東を行けばマウナ行きになるだろう、地図的には。
つまり、これはガレア行きの船?
その時だった、何人かの帝国兵が、6人のいる区画へとやってきた。
「さて、”大丈夫”の件を片付けようか」
「はい、すべて手はずどおりですね!」
さっきの二人だ。……”大丈夫”の件って?
「やっぱり! ”大丈夫”だなんて妙にラフだなって思ったら!」
ラクシスはそう言うと、アーシェリスは頷いた。
「そう、こういう時は普通なら”問題ない”と言うべきだと思っていたけど――」
緊張感が走る!
「手はずどおり……というわけではないが、仕方ないといえば仕方が無いか」
と、上官らしき人物が頭を掻きながら言った、先ほどのヒルギースともマドファルとも違う人のようだった。
その後、すぐさま沈黙が流れる。
そして、6人が潜んでいる木箱の前に連中は集まり、上官らしき人物は部下たちに命令を下していた。
「いいな、怪我をさせてはいけないからな。それと、相手はまだまだ若いエクスフォスだ、油断をするなよ」
やっぱり6人が侵入したことは既にバレていたようである。
「よし、それじゃあ武装開始。作戦コード56274、実行だ」
すると、帝国兵たちは木箱の側面のふたを勢いよくはがした。
6人はみんな剣を構えていたが、帝国兵の人数の多さになすすべがない感じである、ざっと20人はいるだろう――
「お、俺たちは……」
アーシェリスは力なくそう言った。
「そうだな、お互いに武装解除ということでどうかな。
それに、キミたちは我々の船に無断で上がりこんでいるわけだし、つかまってももんくは言えないよね?」
上官らしき人は部下に命じて6人を拘束、F・F団の時同様に、またしても後ろ手に縛られてしまったのだった。