F・Fのアジトの内部は非常に広かった。
アジトはストリートにも面していて、そこはカフェになっている……なんとも古典的である。
アジト自体は地下のほうが本体のようで、6人はそっちへと連れてこられた。
地下の構造が良く分からないものの、後ろ手に縛られ、大きな部屋へつれてこられた。
「さて、どうしたもんかな」
サブリーダーらしき男、6人に尋問してきた。
すると一人の女の団員が、そのサブリーダーに耳打ちしてきた。
「あっと、これは本当に申し訳ない――あいつにきつく言われているのに――」
すると、クレンスとユイの腕の縄をほどいた。
「えっ、なんでだ!? 俺たちのは!?」
フェリオースは訊いた。
「”女性だから”。だからお前らはダメ」
「”女性だから”ナメてる?」
ユイが噛み付くように訊いた。
「違う違う、”女性だからこんなことしちゃダメだ”って話だ。
でも、俺の考えじゃあないから……それ以上言われても勘弁してくれ――」
なんだ、フェミストか。
「そう、なんですか――」
クレンスは答えた、変な応答――というか、さっきの男に会った時以来様子が変だった。
「おっと! その剣! よかったじゃないか――えっと、名前は――」
その男はクレンスの剣、さっきあの男から譲り受けた代物を見ながら彼女に訊ねてきた。
「ああっ、ゴメンゴメン、俺はシャイズ、
もう分かっていると思うけどF・Fのサブリーダーね」
名前はシャイズ=アルタンドという名前らしい。
クレンスも自分の名前を告げると、シャイズは話を続けた。
「あいつからそんな剣をもらえるなんて良かったなあ。どうよ、気に入ったかな?」
「えっ、ええ――ありがとうございます」
「そっかそっか、それはよかったなあ。それ作るのに、俺は材料集めたんだぜ、やつに言われてな」
「はあ――」
クレンスはぽかんとしていた。
「まあ、作ったのはあいつなんだけどな……」
さっきからシャイズが言っているあいつとはリーダーのことか。
「あの、リーダーさんがこれを作ったんですか?」
「そうよ、いい腕しているだろ、あいつ。だから俺も集め甲斐があるってワケ」
クレンスは出し抜けに言った。
「あの、その――リーダーさんはどこにいるんですか?」
シャイズはため息をつきながら答えた。
「やっぱりそうか、あいつに会いたいのか……でも、あいつは神出鬼没でなぁ……」
また神出鬼没な人間が一人いたようだ。
「さてと、本格的に尋問でもはじめるとしますかねえ?」
すると、シャイズはアーシェリスたちをまじまじと見つめた。
「うん、まあ――大丈夫そうだな」
シャイズは両手を挙げると、他の4人の腕の縄も緩んだ。
「お前らに害はなさそうだ、だからもういいだろう」
「それは……どういうことだ?」
上から目線なシャイズに対してアーシェリスは訊き返した。
「違う違う、これは交換条件。
縄解いた変わりに何故俺らを嗅ぎまわっていたのか知りたいって寸法さ」
それは話が早い、6人の目的はまさにそれである。
「なるほど、お前らがエネアルドのエクスフォスだってことだったか、
相変わらずすげーな、本当にリーダーの言っていた展開だな……」
やっぱり、あの場であの男が言っていた通り、既に行動が読まれていたのか。
「おう、お前らの行動はすべてチェック済み。
ティルアからレザレム、そして、ここルシルメアに来た事実も知っているってわけ……
てか、それがお前らのことだったとは思わなかったけどな」
ならば――アーシェリスは話の核心に触れようとした。
「ワイズリアがどこにいるのか知っているというのか!?」
ところが――
「あれれ? ワイズリア?
てっきり、先日の戦いの真犯人が知りたいのかと思っていたのに、違うのか?」
……まさかそこまで読まれていたとは――6人は旅に出てからというものの、驚きの連続だった。
「生憎、それ自身は俺も知らないけどな。というか、知っているのは多分リーダーぐらいじゃないかな。
第一、その話をワイズに知らせたのが何を隠そうリーダー本人だったんだからな」
そういうことだったのか、ならば次はそのリーダーを――
「言ってもそのリーダー自体は帝国から情報をとってきた話だったらしいんだが――。
あいつ、あれで結構身を削っているんだぞ?」
F・Fの活動は自分たちで公言しているような話とは裏腹に、相当なムチャをしでかしているようだ。
「まあ、あれだ、その――お前たちは国へ帰れ、いずれは知らされることだ。
だから自分の島に帰ってその情報を首長く待っていたほうがいいかもしれないぞ」
シャイズは彼らにそう言うと団員に一言伝えた後、その場を去った。
「ちょっと待て! まだ話が!」
しかし、団員たち6人に抑えられ、渋々アジトを出るハメになった。
出た先は町の入り口近く、ハンターギルドの真ん前だった。
「島に帰って待ってろってさ……」
この旅の目的が根本から否定されてしまった5人は何とも言えない憤りを感じていた。
残りの1人、クレンスだけ様子が変なままだった。
「まさか! ここまで来て帰れって俺には出来ないよ!」
ガーティが言った。確かに各々の気持ちを考えるとそんな感じである。
そのため、F・F団の意に反して6人はまだまだ続けることにしたのだ。
かなり大回りをして得られる情報がこれとは、ならば次なるは――
「次は帝国へ行くの?」
と、ユイが言った。ルシルメアはせっかくの大都市、楽しむ暇もないが仕方が無い。
「一応”ルシルメア港”からのがいくつか出てるぜ。
でも一般客は乗れねぇ、何せその船ってのはどれもディスタードの軍艦だからな」
バフィンスの言葉を思い出した、ディスタード帝国へ向かう唯一の航路の件である。
ルシルメア港……ルシルメアの町は海に面していないため、港が無い。
しかし、それとは別に南のほう……ファルクス半島からもっと東のほうに港があり、そこから帝国行きが出ているという。
港と町部とは鉄道が走っているため、それを利用することとした。
鉄道駅は近くにあったため確認すると、もうすぐ出発の時刻だそうだ。
「一人10ローダか、安いな――」
と、ラクシス。町から港まで結構な距離があるのに、それを考えると確かに安かった。
しかし、帝国へはどうやって忍び込もうかということを考えると、非常に困難が予想される。
なんたって一般の船なんかではない――つまり軍艦に忍び込まなければならないハズだからだ、非常に危険が付きまとうだろう。
あれこれ考えているうちに港に着いてしまった。
一般向けの普通の港と、帝国軍が駐留している監視つきの港とが併設されており、
忍び込むのも大変そうである。
「参ったな――どうすればいいと思う?」
アーシェリスは言う。フェリオースも考えたが、やはりどう考えてみようも無いぐらい警備が厳重だった。
軍艦は停泊しており、これから恐らくディスタードへ向けて出航する予定――
チャンスといえばチャンスなのだが、それはあの軍艦に乗れないと意味が無い話なのである。
なかなか先へは進めず、6人は苦戦していた。
このまま黙って見ているしかないのだろか、軍艦は出航準備を完全に済ませようとしていた。
今はそのチェックに当たっているところだろうか、やっぱりダメなんだろうか。
帝国兵が船の昇降口の前で話をしている。
「航海が順調であれば夕方までには到着する予定だ。中の荷のチェックは確認しましたか?」
「ええ、例の新兵器20機、すべて整いました」
……いくらなんでも、こんなところで外部に聞こえるぐらいの声で言ったらだめだろう。
そう思っていたら、帝国兵同士でそれを指摘していた。
「こんなところでその話をするな!」
「も、申し訳ございません、マドファル中尉!」
しかし、それを受けて軍艦の奥から誰かがやってきた。
「なんだかと思えばマドファルか。
お前はまだうちの管轄に来てから慣れていないだろうが、我らが管轄はその点は寛容なのだ、気にすることではない」
「で、ですがヒルギース中隊長……それでは甘いと他の管轄からたたかれるだけなのでは?」
「なーに、言いたいやつには言わせておけばいいのさ、我らが管轄はそういう方針をとることにしている。
だからここでわざと新兵器の情報を語ろうが兵力がどうだとか語ろうがどうってことはないのさ。
かくいう俺も……以前お前と同じことを言ったもんだが、全部アール将軍にとあることを言われて一蹴された――」
なんと言われたのか? マドファルは訊くとヒルギースは答えた。
「それを知ったところで我々が何をするのかがわからなければ意味がない。
それに、我々は別にやましいことをしようというつもりはないから目的が知られたところで大した問題ではないと。
でも、技術を盗用されたらどうするんですかと聞いたところ――
それなら望むところだ、同じものを作れるもんなら作ってみせろと言われたよ。
確かにあの方の開発するものはなかなか他者が容易に真似できるような代物ではない。
それこそ、何人かに設計図を基に同じものを作らせたことはあるが――
あの方が作ったものほど精巧なものを作ることは――将軍とは同期のあの方しか作ることはできなかった。
実際、試験運用した段階でもやはり同じような効果は見込めず、ものの見事にやり直しをさせられている――
素直にあの方の指導の通りに作り直すことに決まったものばかりだ。
恐らく、完全な設計図はあの2人の頭の中にしかないのだろうな――」
なんてヤバイ話なんだろうか、エネアルド勢はその話を聞いて少々ビビっていた、そんな将軍がいるところに忍び込もうとしているのか……。
「まあいい、無駄話が過ぎたな。
そろそろ出航だ、そろそろお前たちも乗船しておけ」
と、ヒルギースが言った。
すると、軍艦の周囲を見回っていたラクシスがアーシェリスらに言った。
「おい! 反対側から忍び込めるかも知れないぞ!」
軍艦は港湾の岸にピッタリと止めてあり、その岸は起伏が激しく、6人はそこへとやってきた。
少し間があるものの、飛び乗るしかないようだ。それにしてもこんな穴があるなんて――どういうことだろうか。
「さっきまでこの辺を見張っていたやつがいなくなったんだ、乗り込むのなら今しかないと思うよ!」
そういうことか。
「そうだな、今しかないか!」
みんなで息を呑む、そして、一人一人が勢いよく軍艦に飛び乗り、その後は物陰に隠れて出航を待った。
そして、船は出港した。