ドラゴン・スレイヤー ~新たなる未来~ 第7章 第169節 闇と戯れし女王様

第7章 ザードがずーっと目を瞑っていた話

第169節 闇と戯れし女王様 その2

 フレアは悩みつつも進んでいた。 しばらくすると、なにやら立派な建物のようなものがあり、フレアはその中へと入っていった、 闇の世界にこのような建物があるなんて。

 中に入ると、そこにはカイルがいた。
「よ、よう、フレア――本当に影響がないんだな……」
 なんのことだ? フレアは訊いた。
「えっと、ネシェラさんが言うには、エモノ……いや、男は彼女に対する欲望には逆らえず、 それによってこの闇の中にいるネシェラさんの闇に呑まれてしまうんだって。 そして女の人もまた自らの欲望を刺激されて……その、”アヴァリス・シンボル”ってやつ?  なんだか知らないけど、それを利用されてやっぱり意識が闇に呑まれてしまうんだそうだ」
 そうか! だから前回の未来世界で女性たちはメイドとしてネシェラに仕えるべき存在となったのか、ようやく理解できたフレア。 それこそ、第2級精霊エンプレス・アヴァリスが女性はシルグランディアの精神を継ぐ者に仕えるメイドとなるよう”アヴァリス・シンボル”を弄り、 それをすべての女性に適用させるような仕組みを作れば……あの状態が出来上がるのは確実である。 だが――フレアにはそもそも”アヴァリス・シンボル”が有効となる前提条件が削除されている、 だから”アヴァリス・シンボル”は効いていても効果を成さない。
 そして、この闇の世界にも前回の未来世界同様の力が働いており、 ネシェラ本体とは別にいる闇のネシェラが存在している、実態などもたない文字通りの闇のネシェラである。 その力により、一行はここで闇に呑まれ、”邪悪なる者”との戦いにさえならないハズなのだが――
「そうなるよりも前にネシェラがみんなを助けてくれたのだな」
 それが示すかのように、カイルの身をほのかな光が包み込んでいるように見えた。
「俺たちも何が起きたかわからないんだけど――まあ……有り体に言えばそういうことになるのかな?」
 なるほど、やはり流石はシルグランディア、既に先を見越してバッチリと対策しているのだな。
「それより、ネシェラはどうしたんだ?」
 フレアは訊くが、カイルは悩んでいた。
「いや、あの……闇の世界のカラクリについて教えてくれた闇の眷属たちにご褒美を与えてくるとか言って部屋に閉じこもっているぞ――」
 ……これさえなければなぁ――フレアもまた悩むしかなかった。

 それから3日して――闇の世界でいたずらに日をまたぐなどどうかしているが、 ネシェラがキーパーソンである以上は彼女の”ご褒美”行動を待っているしかなく、 他の者はネシェラから離れることはできず、建物の中でそれぞれ過ごしていた。
 一方で闇の影響を受けないフレアは建物の外へとやってくると、 闇の眷属と共に目的地を探っていた――闇の眷属と共にだなんて精霊界の者が知ったらどんな顔をするのだろうか。 つまり、闇の眷属というのはそれだけの存在ではあるのだが、 この闇の眷属たちに限っては元々シルグランディア女に対する欲望の強い存在なのだという。 本来ならそんな都合のいい存在は普通なら現れるハズなどないのだが、 エンプレス・アヴァリスの代からの歴史の中で生まれ出たエモノたちの欲望が具現化したものであると考えればわかりやすいだろう―― この点においても古のシルグランディアたちが紡いできたものがどれだけ”邪悪なる者”に対抗しているのかがわかるというものである。 本当に、ただでは転ばない女だな。

 建物の中に戻ってきたフレアはネシェラと遭遇した。 彼女の服装は以前と同じものだが、服は全体的に濡れていた――しかも撥水しており、本当に水着のようである。
「何故服まで濡れている?」
「ちょっと楽しみすぎちゃったからねぇ♥ あははっ♥  もう、闇って最っ高♥ これじゃあアタシがいつ闇に染まってもおかしくないわねぇ♥  もういっそのこと、アタシ自身が闇の存在として鞍替えしちゃおうかしらん♥  ほらほらぁ♥ ネシェラ=エンプレス・アヴァリスティ様のお通りよぉん♥」
 勘弁しろ……フレアは悩んでいた、とにかく、濡れているのは水着のままシャワーに入ってきたということらしい。
「冗談よ、このアタシが安易に闇に心を売るわけないでしょ、それだけは安心なさい。 けど――アタシの欲望が確かに闇に染まっているのは事実よ、 過去のシルグランディアが”邪悪なる者”に負けた原因がこれなんだから、 このアタシが”邪悪なる者”にトドメを刺すのがどれだけ難しいか……言わなくてもわかるわよねぇ♥」
 まあ、それもそうか。
「つまり、私らが頼りということになるわけか」
「いいえ、あんた以外はあくまでアタシの影響下で自我を保てているだけ♥  だから最後はフレア、あんただけが頼りってことよ♥」
 最悪、仲間たちに命を狙われかねないということになるかもしれないということ――
「そ、それは大丈夫……この世界を終わらせたい気持ちだけは変わらないから!  でも――トドメのときは躊躇しちゃうからそこはあなたに任せたいの♥」
 ……なら、とりあえず信用しておくか。
「さーて♥ 最後の戦いの前にもう一度だけ楽しんでくるわ♥」
 ……って! 彼女はさっさとその場を去って行ってしまった!
「ネシェラ! ちょっと! 待ちなさい!」
 だが、彼女は既にそこにはいなかった。
「……ったく、本当にとんでもない女だ――」