ドラゴン・スレイヤー ~グローナシアの物語~ 第5章 第122節

第5章 冒険の果てにて

第122節 精霊界の行く末

 ある朝、ディリアスの手によってそれぞれ新たに武器を手に入れた一行……あれ? エメローナは?
「ありゃダメだな、俺たちだけでなんとかするぞ」
 と、バルファースは言った――どういうことだ!?
「簡単に言えば日増しにひどくなっているといえばいいだろう、要はそういうことだな」
 バルファースはそう説明すると、そのエメローナの様子を見に行っていたフレアが戻ってきて説明した。
「もはやシルグランディアにあるまじき女の姿といったところだな、 これ以上は本人の名誉のためにも皆の前に出すことは控えることにしたのだ、 予想はしていたがまさかあそこまでとは――」
 そこへメロリーナとレオーネがやってきた。 彼女らはエンケラスまで行ってきて、オルダナーリアとティラキスを連れてきたのだった。
「連れてきた割りには……どこにいる?」
 バルファースが訊くと後からティラキスがあいつを連れてやってきた。
「ここにいますよ。 クローザル殿をおいていくことはできなかったので連れてきたのですよ」
 そういえば彼のことをすっかり忘れていたな、トガレシアに置き去りにしてきたままだったっけ。
「オルダナーリアさんには馬車の用意をしてもらっています、 エメローナ様のことについては我々にお任せください、必ずやエターニスに送り届けますので――」
 この2人に任せるしかないか。

 そんなこんなで1週間と約1日、彼らはエターニスへと戻ってきていた。
「フローナルお姉様!」
 そこにいたのはメリルというあの精霊だった。
「誰だ?」
 フレアはそう訊くとメリルは嬉しそうに答えた。
「私はメリル=シャナロンです!  先代の運命の精霊エフィリア=フローナル様の時からお慕い申し上げております!」
 それに対し、バルファースは意地が悪そうにフレアに言った。
「ほほう、運命の精霊様というのは大人気のカリスマ精霊様ってことか。 そういえばフローナルってことは、大昔の呼び名で言えば”フラノエル”ってところか?  ってことはつまりはあんた……なるほど、流石はエルフェリア=フラノエルの末裔様ってところだな」
 それについてメリルは力強くマジメに答えた。
「そうなんです! フローナル様はエルフェリア=フラノエル様の末裔なんです!  エルフェリア=フラノエル様といえば精霊界では超有名……いや、人間の世においてもなお超有名なあのお方!  アルマ=フラノエル様の血を継ぐ最強にして麗しき精霊なのです!  無論、人間の世でエルフェリア=フラノエル様といえばヴァナスティアの教えにも描かれていることでも知られており、 その武勇伝といえばかつての伝説の英雄たちの運命を導いたとされる、まさに至高にして伝説のお方!  私たち現世における高位の精霊の間でもフローナル様とあらばやはり崇拝しなければならないほどの偉大なるお方なのです!」
 す、すげえ持ち上げすぎ……バルファースをはじめとする人間たちは彼女のその熱の入れように圧倒されていた。
「”麗しき”というのは少々語弊があるが、それでも現世においてもなお名を遺すほどの活躍をした先祖のことは誇りに思うな。 おかげで私に親しくしてくれる者が沢山いてくれる、喜ばしい限りだ」
 フレアはそう言うとメリルは首を振った。
「それだけではありません! お姉様は優しい人なんですよ!  ほかの重鎮たちなんかに比べて全然尊大な態度をとったりしませんし!  フローナル様もシルグランディア様もいつもいつも私たちに歩み寄ってくださるではないですか!  だからみんな、お姉さまたちについていくんですよ!」
 やたらと慕われているんだな、2人とも。
「高位の精霊の間でも重鎮とそうでないのとでいるんだな」
 カイルはそう訊くとメリルは答えた。
「古くからいる精霊たちですね。 もちろん、古いと言っても代替わりはしていますが、 それでも自分の精神を継ぐ者が古くからいる者はそれだけ立場も強いものになっちゃうんです。 それを言ったらフローナル様もシルグランディア様もそうなるんですが、 お姉さまたちは他のそういった方々とは考え方が真っ向から異なり、 しかもいつも偉そうになんかしていたりしないんですよ」
 だが、その考え方が真っ向から異なるがゆえにエフィリア=フローナルは精霊界を飛び出した、 精霊界の決定が気に入らなかったのだ。 それによって彼女は代替わりをし、第4級精霊として生まれ変わったのだった。 それによって高位の精霊ではなくなった彼女ではあるものの、 それでもこうして彼女はなお慕われているのである、なんとも素晴らしいではないか。
「お姉様! いつでも精霊界に戻ってきてください! みんな、待ち遠しくしているんですよ!  もう、特にカルスなんてボコボコにしちゃってください!」
 そう言われてフレアは気が付いた。
「カルス? 因果の精霊が目覚めたのか?」
 因果……バルファースは訊いた。
「前々から思っていたのだが、そもそもその因果の精霊と運命の精霊、同じような精霊だと思うのだが」
 フレアは頷いた。
「私は運命を切り開くもの、ゆえに新たなる運命を与えることを役割とする。 一方でカルスは因果を貫くもの、ゆえに既に決定づけられている運命を維持することを役割とする。 人によっては二者は受け取り方の違いのみで役割は同じという見方をするものもいるようだが、 二者のその性質から、私は変革を厭わぬことを良しとする考え方、 一方でカルスは変化というものを好まず、常に常であろうとし不変こそを良しとする考え方、 ゆえに二者は別物と言われるのが一般的になっているのだ」
 た、確かに別物――メリアはさらに話をした。
「他にも同じような精霊なのに保守派と変革派と考え方が違うことで対立している精霊もいるんですよね。 といっても基本的には保守派のほうが影響力が強く、変革派は後追いで生まれた精霊ばかりだからなのか、 発言することを躊躇う人も多いんです。 けど、運命の精霊お姉様は別で、相手がどんな大物でも躊躇うことなく堂々と発言なさるのですよ!  やっぱりすごいなあ……フローナルお姉様――」
 嬉しそうにしている彼女だが、当の本人は呆れている。
「確かに私は変革派の精霊たちの中では最初期……いや、そもそも一番最初に生み出された精霊は運命の精霊だが、 発言力と生れ出た時期は関係あるまい、世界を思う者であれば好きなように発言してよいものなのだ。 それを……やつらは保身のことしか考えぬ、ゆえに変化をもたらす者を嫌う傾向があり、我々のような者の発言は認めない。 それこそシルグランディアのやり方ひとつとっても最初は軋轢があったほどだったとされている、 だがシルグランディアは頑固な職人、連中に何を言われようと我を通して自らの役割を全うしていった、 だから運命の精霊もそうだが、連中に何を言われようと自らが正しいと思うことをやることにしたのだ。 世界を管理する者としてはあまりよろしくないことではあるのだが、世界は常に変化を求めている…… 連中の顔色を気にして事を起こすのでは世界のためにならんのでな」
 それにより、運命の精霊と因果の精霊は特に対立している光景が見受けられるのだそうだ。 言ってしまえば喧嘩ばかりしているわけだが、 変化に寛容な運命の精霊は、言い換えれば変化しないことにも寛容ゆえに因果の精霊のことはどうとも思っていないのだが、 反対に因果の精霊は自分と同じぐらいの影響力を持つ運命の精霊のことを目の敵にしている…… つまり喧嘩というよりは因果の精霊の一方的な言いがかりをしているというのが正しいらしい。
 それに変わらないことが正義とか――
「言ってもなあ、それってどうなんだ? 世の中って変化しているだろう?  世界を管理するものがそれでいいのか?」
 カイルはそう訊くとフレアは頷いた。
「変化を拒もうとすることは何も悪いことではない、むしろ世界を管理する上ではそれも必要な要素だ。 特にセント・ローア期となると世界の暗黒時代、世界創世のために安定した世界とすることが急務とされた。 安定した世界となるとあらぬ変化を排することを要とする、因果の精霊のような存在は重宝されるのだ。 だが……世界は進化することを望むようになってきている、そうなるとカルスのような存在は世界にとって障害となる、 いずれ彼らの存在は限界を迎える日が来る――ということだな」
 以前にもそう聞いた通りだが、ますます深刻さに拍車をかけているな。