エメローナは数本の刀剣を前に並べてじっと眺めていた、そのうちの1本がカイルのドラゴン・スレイヤーである。
「やっぱり、ドラゴン・スレイヤーってスゴイ剣なんですか!?」
メロリアがその場にきてワクワクしながら言うが――
「どうかしらねえ? 確かに、作った当時はそうかもしんないけど、
申し訳ないけど、私にしてみればナマクラ剣ね。」
そうなの? ディウラが訊くとレオーネが言った。
「アーティファクトなのに?」
「アーティファクトたらしめる力は備えている、けどその力を入れておく器自身がナマクラってことよ」
なるほど。エメローナは続けた。
「代々カイルの家で引き継いできたといっても、これは長らく放置されていた代物みたいね。
けど、恐らく今の十三式の家に住まいを移す際に……移したのは推定で40~50年程前ぐらいかしら、
その時にこの剣の行方をどうするか考えたんだと思う。
それで結局手元に置いておくことにしたんだけど、
それがアーティファクトだってことは長い年月を経たことで失伝し、
持てる力も当時より失われたことでちょっと竜族に対して強いだけの剣でしかないただのナマクラ剣、
それも長らく放置されていたせいで魂すら込められていないごく普通の剣っていう感じね。」
なんてことだ、アーティファクトはただのナマクラ剣――
「それなら、カイルにわざわざ交渉しようと考えたのは間違いだったということか――」
フレアは悩むが、エメローナは首を振った。
「いいえ、このアーティファクトの神髄はむしろ如何にしてこの力を保たせるかこれ叱りなんだと思うわね。」
え? 持てる力は当時より失われてるのでは?
「ええそう、”当時より”ね。
私がこの剣に期待しているのはむしろ竜殺しとしての力そのもの……
つまり、こいつ自身に組まれている力のアルゴリズムのほうね。
これを解読して改良すればよりスゴイ代物が作れることと、
不要になった際の処分方法まで決められそうね。」
なんと、使った後のことまで考えているようだ……。
ということは、一から作り直すということ?
「こいつには直接手を付けないわよ、これはこのままアーティファクト……
いや、これはただのカイルの形見の品としてそのまま返してあげてもいいんじゃないかしら、
アーティファクトとしての体を失うのも時間の問題だしね。
それに、ここまで力が減衰しているアーティファクトが残っているのって結構珍しいことなのよね。
そうでなければ破損してすでに破棄されているかアーティファクトとしての体を失っていてごく普通のブツになっているか――
そう考えるとこの状態で保たれているコイツの存在って結構貴重なのよ、私も初めて見たぐらいだしね。」
なんと、2,000年以上生きていて初めて見るものがあるなんて! そ、それは確かに貴重だ……。
「だからカイルには悪いけど、コイツはしばらく返さないわよ♪
どうしてこんな状態で力が保たれているのか、完全に解明しきるまでは私んのだからね♪」
やっぱり、妙なところにこだわりのある人なのは確実だった。
「ナマクラ剣である理由はあるのかしら? たまたま剣作ったヤツがトーシロだっただけ?
そもそも剣自体はどういうつくりなのか知らねえ?
さあこの私に教えてごらんなさいな♪ アンタの実装はどんな実装なのかしらねえ~♪」
なんか、滅茶苦茶楽しそうなエメローナ、剣をなめまわすように丹念に調べていた。
「エメローナさんって面白い……」
ディウラは唖然としていた。
「そう、これが精霊シルグランディアなのだ、如何なる些細な技だろうと見逃さず、
自らの創造物に生かして世界に寄与する者……」
「そうなると、作った人は精霊シルグランディア様に参考にされたことで誇りに思うかもしれないですね!」
ディウラはそういうが、エメローナは軽めに否定した。
「作り手の世界にそういうのはないわね。
作り手としてはむしろただの自己満足ではない自分の仕事そのものに誇りを持っているからね。
だって、作るからには形が残るのだもの、そりゃあ誇りに思うに決まってるわよ。
それに作り手の世界は技術は見て盗めの世界、そして”同じことをやれるものならやってみろ”の世界――
私がやっていることもあくまで先人たちがやってきたことの所業に過ぎないってわけよ。」
つまり、彼女もまた特別な存在というわけではなくただの作り手、つまりは職人の一部でしかないということか――。
「そういうこと♪ いろんな知恵と知識があればどんなものでも作れんのよ。
それこそ未来永劫残るような仕事でもできればマジで最高よね。
そのために努力するのなら惜しむつもりはないわよ、
そう……これはまさにロマンという名の宝を探し求めるための探求の旅に過ぎないってワケよ♪」
な……に……!? こんなにあっさりフラグを回収!?
「やっぱりロマンってのは追い求めてこそなんぼよねぇ♪ ふんふふーん♪」
マジか……この女、あの海賊が言った通りの御仁だった――
「あの海賊とそっくりだろ?」
フレアは呆れ気味にそう言うとディウラは冷や汗を垂らしていた。
「あ、案外気が合うんじゃないかしら……?」
一緒になることは絶対にないと思うが。
その一方、カイルとバルファース、そしてグローサルも混ざって一緒に話をしていた。
グローサルはコーヒーを飲んで満喫していた。
「酒は飲まないのか?」
バルファースはそう訊くとグローサルは照れた様子で答えた。
「私、下戸なんですよ……。
それこそ最初に先輩に飲まされた時に失態を犯しまして、意識を取り戻したときは三日後ということがありました。
そしたらこいつには飲ますなって主からお叱りを受けまして、以来手を付けたことすらありません――」
三日も意識不明に……それ以来ってことは絶対に飲ませないほうがいいな。
「それにしても――よくあんなの……なんて言い方するもんじゃないと思うが、告ったもんだな」
バルファースはカイルにそう訊いた、メロリアのことか。
「確かに、見るからに結婚向きとか彼女向きとかいう感じはしてないけどな。
でも――彼女の人となりは見た目だけではわからないからね、話をすればするほどどういう人なのかわかるんだ、
そう……昔に亡くなったお袋によく似てるんだ――」
そうなのか? 2人は訊いた。
「うーん、私としては――見た目はちょっとびっくりするような人ですけどね、
そもそもあんな格好している女性……”あいどる”っていうのですか、
そんなのがそろいもそろってあんな奇抜な格好して歌って踊っていること自体が信じられないのですが――」
グローサルは時代が違うから価値観も違っているようだ。
「でも、この時代ではそれが許されているからこそやっていること、
だからそれを踏まえて言わせていただきますと……」
と、グローサルは続けると――
「……なんて……なんて……なんて素晴らしいんだ!
彼女たちがあらわにしている玉のような綺麗な素肌!
可愛らしいフリフリな服装に仕草と綺麗な歌声! そしてそのすべてがとにかく魅力的で悩殺的!
これは完全に私の男心をくすぐっている! くすぐり続けている!
特にあの魅力的な仕草から繰り出される”萌え萌えキュン♥”という名の不思議な手品!
否! もはやあれこそが”真の誘惑魔法”とも言うべきもの!
なんて、なんて羨ましいんだグローナシアの民よ! 否! これがその”うらやまけしからん”というものか!
私もできることならこの時代の住人として生まれたかったものだ!」
グローサルは興奮していた、こいつ……完全にティアエンにハマってるな。
「”手品”とは魔力の介在しない魔法のことを言う!
それなのにその効果はまさに本物の誘惑魔法に匹敵する! 否! もはや本物以上といっても過言ではなかろう!
俗なるものなれど、この文化は捨てたものではないな! 悔しいがあの力は認めよう!
あの力は本物だ! 私はあの”萌え萌えキュン♥”に魅了され、身も心も彼女らに捧げた!
私はもはやティアエンの隷だ!」
ティアエンの魅力はどうやら1,000年前に生まれたやつにも通用するものだったようだ。
そんな様子にカイルもバルファースも唖然としていた。
「ま、まあ――いいんじゃないのか?」
カイルは言うとバルファースは酒を飲んで答えた。
「だな。こういうのがいてこそのアイドルだしな」