ドラゴン・スレイヤー ~グローナシアの物語~

第4章 世界の綻び

第96節 場違いな物体

 翌朝早朝、日も登りきらないうちにエメローナはフレアと廊下で遭遇した。
「あら、早いわね、おはよう。」
「おはよう、そういうエメローナこそ」
「なんか知らんけど急に汗を流したくなったってね、一緒にどぉ?」
「奇遇だな、私も汗を流せればと考えていたところだ、いいのか?」

 お風呂上がりの2人、エメローナはフレアに話題を振った。
「ああそうそう、ついでだから今のうちに話しとくわね。 これが”水鏡の破片”で、これが”標”ってやつね。」
 アーティファクトの話だった、”標”? フレアは訊いた。
「ただの棒きれにしか見えないが……妙に力を蓄えた物体だな――」
 確かにただの棒きれ、それもちょっと太くて長い、柵に使うような杭のようなものだった。 すると、エメローナは悩みつつ話した。
「実はこいつだけ、本当は最初から目星めぼしがついていたのよ――」
 確かにエメルナが持っていた物体ということはあるのでそれはそうだ。
「それなのに、こいつの回収を見送ろうとしていたな、何故だ?」
 と、フレアは訊き返した、確かにアーティファクトを回収するつもりであればこいつも候補にあってしかるべきと言える。 すると――エメローナは答えた。
「ほかのアーティファクトについてはなんとなくわかる、それが作られた大雑把な経緯から作った存在までね。 例えばその”水鏡の破片”は敵の攻撃をはじき返すことを目的としていた戦争道具、 ゆえに作ったのもその国の魔導士――だいたい想像が付く通りなのよ。」
 フレアは頷いた。
「シルグランディアならではの”読み”の極意か。 例えばカイルのドラゴン・スレイヤーとかははっきりしているな、 それこそ何かしらの竜を討伐せんとする目的のためにどこかの刀匠が拵えた――だいたいそんなところだろう」
 エメローナは頷いた。
「そう、だけど――その”標”に限ってはまったく検討がつかないのよ――」
 なんだって!? フレアは驚いていた。
「これも”古の魔導器”として作られた代物ではないのか?」
 彼女はさらにそう訊いたがエメローナは首を振った。
「その目的で作るにしては保有している力が大きすぎる気がするのよ、 実用しているのであれば力はそれなりに失われていてしかるべきだけどそれもない。 それこそ”古の魔導器”というのならなおのこと、月日に比して相応の力が失われているはずなのに――」
 言われてみれば確かに、その棒きれからはなんとも言えない力を感じる――フレアは考えていた。 しかし何だろうか、この力、妙に――不思議と……懐かしい……?
「月日に比して相応の力が失われているというのなら比較的最近に作られたのでは?」
 フレアは我に返りつつそう改めて聞いた、だが――
「それはないわね、少なくともこれは作られてから数百年数千年単位の年月なんかゆうに超えているように見えるからね。」
 なんだって!? フレアは驚いていた。
「数百年数千年単位ですらないということは……”古の魔導器”ですらない!?」
 そもそも”古の魔導器”というのは約1,000年前の話に登場する”アーティファクト”の一部であるが、これについては――
「ええ、これは作られてから少なくとも20億年以上は経っているとみて間違いないわね。」
 なんと! まさかセント・ローアの……つまり世界創世期から存在しているということ!?
「それなのに、どうしてこれほどまでの力を有している代物がこうして成立したのかまったくもってわからない。 そう、これはただのアーティファクトじゃない、まさにこれこそが”場違いな工芸品”、 それを言い換えると”アウト・オブ・プレイス・アーティファクト(out-of-place artifacts)”というもの、 略して”オーパーツ(OOPARTS)”よ!」
 なんだって!?

 そう、エメローナが”標”の回収をためらった理由、それが”オーパーツ”だからである。 無論”オーパーツ”だろうと世界のバランスを形成する一因にはなっているため、 ほかの”アーティファクト”同様に回収の対象としてもいいほどではある。 だが……
「人間界にある力場を形成する物体を精霊界に持ち込むということか、 それ自体はほかの”アーティファクト”でも同じこと、だが――」
 フレアはそう言うとエメローナが続けた。
「それが”オーパーツ”となると話が変わってくる、 ここまで大きく力場に影響を与える物体を不用意に動かし、 そして精神世界間を移動しても大丈夫なものなのだろうか――」
 要は文字通りの場違いな物体が場を容易に動いていいのかという話である。
「”オーパーツ”ほどの物体が人間界で安定しているところであっちの世界に動かすというのは確かにリスクが大きすぎるな――」
 フレアは悩んでいた。
「とはいえ、むしろ場違いな物体というだけあって、ここに置いとくのもちょっと不安なのよね、 だから本当は持っていきたいところなのよね。」
 と、エメローナ、それもそうか。
「やれやれ、なんだかんだで結局持っていくことになったわね。 ま、それはそれでここへ来る理由も減ったことになるんだけど。」
 それに対してフレアは呆れていた。
「エメローナ……ここにあなたが来ることを待ち望んでいる娘が多いと思うのだが――」
 エメローナは首を振った。
「それはそうなんだけど、精霊界の生き物ゆえだからね、 こうやって多くの人だかりの中心に来ることはやっぱりはばかられることなのよ、 いくら”ゲート”を通過する際にエクスチェンジが利く体だからって言っても影響は完全にゼロってわけでもないしさ。」
 それに対してフレアはますます呆れていた。
「なら、10年ほど前のあれはなんだったのだ?  人混みに関わらずアルタリアのレストランに直行したのは誰だったか?  ここへきているということは今回もやっているだろ?」
「あら? そんなことあったっけ? 知らないわね、記憶違いじゃない?」
 ……じゃないだろ。しらばっくれんな。