ドラゴン・スレイヤー ~グローナシアの物語~

第4章 世界の綻び

第88節 シェルベリアの過去

 またまた過去の話、グローナシア歴980年ごろのこと。
「久しぶりに来ちゃった、本当は来たくなかったんだけどさ。」
 エメローナはその屋敷……つまりシェルベリア家へとやってきた。
「あっ! お姉様! お久しぶりです!  でも、来たくなかったってどういうことですか!?」
「だってこの町、ゴミゴミしてるんだもん、なんかこういう雑踏って苦手……」
 エメローナはシェルベリアの少女と話をしていた。
「そ、そうなんですね……うーん……本当はお姉様ともっと一緒にいたいんだけどなー」
 エメローナは考えた。
「まあ、それは……それより、あんたの名前ってなんだっけ?」
 そういうが、少女は――
「私、まだ名前がないんですよね、ですから”メロちゃん”って言われているんです」
 と言った、メロちゃん?
「ある絵本に出てくる登場人物なんですよ、 私が自分を”メロちゃん”って言い始めたら、いつの間にかそれが浸透しているんです――」
 エメローナは悩んでいた。
「ごめんごめん、そういえばまったく決めてなかったわね、 これも観測者、第4級精霊の血に連なる者がゆえの価値観か、ちゃんと決めてあげないといけないわね。」
 だが――
「でも、”メロちゃん”っていう呼び名も気に入っているんです♪  だって、なんだか可愛いじゃないですか♪」
 それに対してエメローナは嬉しそうだった。
「あんた、ますます可愛くなっていくわね♪  それに……むしろ人間界の生き物みたいな価値観しているあたりは本当にいいわね!  生きていくのに苦労しなさそうだし!」
 ということは、苦労している奴のほうが多いということか。
「それを言ったらお姉様こそです!  どう考えても高級精霊様って感じがしない等身大の存在みたいです、お姉様♪」

 エメローナは屋敷の中を案内されていた。
「結局、オルダもいなくなったのね?」
 彼女はそういうとメロちゃんは答えた。
「オルダナーリアさん、両親がもともとバンナゲートにいたってことで10年ぐらい前にあちらに移ったんですよ。 なんでも、伝手があるということで、それを頼っていかれました」
 そうだったのか、エメローナは納得した。すると――
「あんた誰?」
 1人の女性がエメローナにいきなりそう聞いてきた。
「あら、新しいお客さんがいるのね? 私はエメローナっていうのよ。」
「彼女はエメルナさんですよ、ティラキスさんが連れてきたんです、お姉様に言われてですね!」
 そう言われてエメローナは考えた。
「ああ、そういや一昨日にそんなことがあったわね、 盗賊に襲われたんだけどそのまま魔物との死闘へと突入……助けられたのはその娘だけだったわね。 そん時にティラキスにあわよくば出くわしてね、シェルベリアのお屋敷に連れてってって頼んだんだっけ、 そっか、そん時の娘ね――」
 そう言われてエメルナは驚いていた。
「まさか――あんたあの時の女!?」
 すると、エメローナは得意げにその場でハイキックの素振りを見せていた。
「確かに、身なりだけを考えれば私は格好のターゲットだったかもしんないけど、相手が悪かったわね。 それに、そのまま魔物の襲撃だなんて、なんて運のない盗賊団だったのかしらねぇ――」
 しかし、エメルナはただひたすら驚いていた。
「いや、しかしあの時の魔物の群れは尋常ではない群れだったハズ、それなのに――」
「まあね、こう見えて私、腕に覚えがあるかんね、 そんじょそこらの魔物程度じゃあ物の数にならんのよ――」
 エメルナはどうやらヤバイ女性と出くわしてしまったようだった。

 だが、その後は和解、エメルナとエメローナは意気投合し、仲良く話をしていたのだった。
「本当に、申し訳ないねえ、エメローナ姉さん――」
「いいのよ、身体が鈍ってたからむしろいい準備運動にはなったわねぇ♪」
 あれを準備運動とはやはりただものではないなとエメルナは改めて思い知った。 もちろん、精霊の話もある程度聞いていたエメルナ、最初は信じなかったがそのうち信じざるを得なくなっていた。 そもそもこの家自体がそういった血筋の者が興した家であること、 そして昔のことをよく知っていること……はったりで言うにはリアルすぎるなど、 そのぐらいあっても仕方がないかという認識程度ではあるものの、 彼女が2,000年以上生きているという事実も受け入れるに至った。
「ところで、ミリエラとレオーネはいる?」
 エメローナは訊くとメロちゃんは案内した。

 レオーネの元にやってきたエメローナ。
「エメローナ……その節はありがとう、礼を言う――」
 エメローナは腕を組んで言った。
「よかった、ずいぶんと立ち直ったみたいで――」
 レオーネは首を振った。
「立ち直ったというか、開き直ることにしたのさ。 あのクソ男……今頃泡吹いているところさ、ざまあみろってんだ」
 ざまあみろ?
「最初は裏切られて落ち込んでいたんだけどな、 姉さんの話を聞いているうちにだんだん裏切られたことに対して腹が立ってきたのさ。 だからちょっとした仕返しをしてやったんだ、そしたらヤツはどんな顔をしたと思う!?  アッハハハハ! あんときのあいつの顔、傑作だよ! 姉さんにも見せてやりたかったな!  アハハハハハハ! アハハハハハハ!」
 女は怖いとはよく言ったもんだ。 レオーネはもともと結婚していたのだが、結婚相手は典型的なクズ男、 浮気された挙句、別れ話とか離婚とかそういった話に発展する前にいよいよ彼女の命を狙ってきた――
 一命をとりとめたものの、彼女はそのまま逃げ出してきた――リンブラールでの話だった。 もう彼とは関わりたくはないし、とにかく人生に絶望していた彼女はシェルベリアの家に保護されると―― まあ、そういうことである。