ドラゴン・スレイヤー ~グローナシアの物語~

第4章 世界の綻び

第84節 ティアエンの勢い

 2人に連れられて入ったお店は”fan's shop”というところだった、 おそらく、アイドルグッズの販売をしているお店か何かなのだろう……と思いきや、 アイドルのいわゆるプチプロデュース品や本格プロデュース品の一部まで取り扱っているという、 まさにファン向けを全面に押し出しているお店だった、 無論、権利の関係で取り扱いのないアイドルもあるわけだが。
 そして、アイドルということなので当然……
「ラヴリッシュ・ティアーズ・エンジェル、通称”ティアエン”……まだ4曲しか出していないのか……」
 シングルやアルバムも売られている。 なお、ご時世柄、データだけの取り扱いはない、そもそもスマホみたいなものは存在していない。
「ん? グローナシア980年結成!? ティアエンって12年もやっているのか!? 長いな……」
 カイルは驚いていた、12年もアイドル――
「痛すぎるだろ? 12年もずっと短いスカート履きながら歌って踊ってんだ、 しかも7人もガキ作っているってのに、どう考えても痛いやつにしか思えねえだろ?」
 とエメルナ、女性の年齢はわからないものだ、 このおねーさんも含めてあまりそうは思えない見た目だからどうとらえていいのかわからない。 無論、一般的に考えれば確かにそれは痛いとしか思えないが。
「プロデューサーの指定なんです、それでも一応エメルナ姉さんとレオーナ姉さんのスカート丈は前より長めにしてもらっているんですけどね!」
 ミリエラはそう言った、そうなんだ……。するとそこへ――
「おおっ! もしかしてその御姿は……ティアエンのエメルナちゃんとミリエラちゃんでは!?」
 ティアエン推しのファンが2匹現れた。
「うわあああああ! 本物だあああああ! 俺、エメルナちゃんの大ファンなんです!」
「俺も俺も! 結婚してからますます色っぽくなっちゃって! エメルナちゃん最高!」
 しかも2匹ともエメルナちゃん推しだった……。
「はぁ!? ったく、蓼食う虫も好き好きとはよく言ったもんだよな、 なんで私みたいのがいいんだよ!? ったく……」
「ああ……いい……その気の強ぇところがたまんねぇ――」
「エメルナちゃん! ”地獄蹴り会”いつやるんです!? 最近やってないじゃないですか!?」
 じ……地獄蹴り会!?
「あぁ!? なんでんなもんに需要があんだよ!? お前らただの変態かぁ!?  もはや世の中に這えずりまわるただの害虫そのものだなぁ!? あぁ!?」
 滅茶苦茶言っているようだが――
「はい! 俺たちは害虫です!」
「たった今害虫になりました! ありがとうございます!」
 エメルナちゃん人気やばいな……。
「ったく……仕方がねえ奴らだな、そんなに死にたけりゃそのうちきちんとブチ殺してやっから首洗って待っとくんだな!」
「はいっ! エメルナちゃん!」
「エメルナちゃんで昇天する……つまりエメルナちゃんとえちぃことするのと同じ! うわああああ! 天国かよ!」
 エメルナは頭を抱えていた。

 エメルナの場合、もはやただのファンサービスのつもりではなく、素でやっているという感じにしか見えなかった。
「すんごいやりとりを見させられたけど、返って人気に火がついていないか?」
 カイルはそう訊いた。
「これがプロデューサーの狙い通りなんだとさ。 そもそもプロデューサーも私と同じタイプの女でな、 ああいう害虫にはほとほと手を焼いているんだそうだ」
 え!? プロデューサーは女の人!? しかもエメルナと同じタイプの女性って――
「んで、プロデューサーの自分の経験則に基づいて、 私にはいつも通りやれって言われてやることにしたんだが……そしたらこのザマだ。 ったく、どこに需要があるのかわからんもんだねぇ――」
 た、確かに……。
「でも、あんまりアイドルしたいって感じではないようだけど――」
「最初は断ったのさ、こんな女がそんなチャラチャラしたことなんてできるわけねぇだろってな。 でも……プロデューサーには命を助けられた恩もあるし、 それに……これでも一応女やってるからね、やってみたいっていう憧れは少なからずあるものさ。 だから……覚悟を決めてやったつもりだったけど、 なんだかんだでありのままの自分でやり続けられているからこれで定着しているのさ」
 命を助けた……そのエピソードも気になるところだが、とにかく結局はアタリだったということか。
「私は二つ返事で了承しましたけどねー♪」
 一方のミリエラは楽しそうに言った、まあ、でしょうね。 あなたには絶対にお似合いだと思います、12年もあどけない見た目を維持できているなんてむしろすごい…… 病気のせいなんだろうけど。
「ええ、だって――私、ほかには何もできないと思われて結局本当になにもできずじまい…… だからなんにでも挑戦してみたいんです!」
 ……思いのほか切実な悩み!

 ほかにもいろんなアイドルの売り場があるが、ティアエンの売り場面積は広めにとられていた。
「すごいな、ティアエンの勢いが良く分かるようだ―― しかもプロデューサーが女の人であるせいか、衣装のデザインが結構凝っている気がするな――」
 ほかのアイドルの衣装は割と何のデザインもないが、 ティアエンの衣装はあちこちに刺しゅうやワンポイントとなるアクセサリをあちこちに忍ばせていたりなど、 明らかに異なっていた。
「プロデューサーはかなりの凝り性だからね、衣装も製作しているんだよ。 もっとも、プロデューサーはめったにエンケラスには来られないし、 そもそもエンケラスがあんまり好きじゃないんだってさ。 だから活動についてはほとんどサブプロデューサーの指示で動いているんだけどね」
 え、そうなのか!? ってか、普段からエンケラスにいるわけじゃないってことか――