150年ほど前の話の続き、エメローナはとある子供を連れてエンケラスへとやってきた。
その子は例の命の危機に瀕していた子供、なんとか一命をとりとめたようだ。
「すっかり寝ているわね、カワイイ♪
さてと、問題は本当に引き取ってくれるかどうかね、どういうやつかしら。」
エメローナはその家にたどり着いた、どうやら大きな屋敷のようだった。
「おお、あなたは! お話は伺っています、どうぞこちらへ!」
入口の兵隊がそう言った、なんだ、どういうことだ、エメローナは身構えていた。
「いえ、あの、どことなくただものではない空気感を醸し出している素敵な女性が来るという話でしたので――」
どういうことだよそれ! ってか、絶対に跳ね返りの滅茶苦茶女云々の件に決まっている!
素敵な女性ってとってつけたように言うあたりが特に怪しい!
エメローナは腹を立てつつそう思っていた、だいたい跳ね返りの滅茶苦茶女って、私が何をしたっていうんじゃ! ……と。
「ど、どうかされましたか!?」
兵士は慌てた様子でそう訊くが、エメローナは睨めつけていた。
そして……落ち着き払って話をした。
「ったく、わかったわよ。
まあいいわ、それならそれで話が早そうだし、そういうことにしといてやるわよ。」
そういわれて兵士は冷や汗をかいていた。
「じ、自分、何かしましたかね……?」
うーん……。
そして、その屋敷の主の元で話をしていた。
「あれ、あんた――」
エメローナはそいつの存在に少し驚いていた。
「お久しぶりです、シルグランディア様……いえ、エメローナさんって呼ばないといけないんでしたっけ。
その節は大変ありがとうございました!」
そいつは、自分がかつて”嵐の呼び子”と呼ばれた際の出来事で、
悪漢をボコボコにした際についでに助けられた商人貴族の存在だった。
だが、実はそいつも――
「あれからそこそこ経っていると思うんだけど、まさかあんたまで観測者だったとはね。
別に助けたわけじゃないし、たまたま通りかかってたまたま私につっかかってきたやつをボコボコにしたかっただけ、
それだけのことよ――って! そういうこと! 入口の連中に滅茶苦茶女ってあんたが伝えたのね!」
「そんな滅相もない! 私にしてみればあなたは命の恩人!
だから入口の者には率直に”ただものではない空気感を出している素敵な女性が来る”と伝えただけです!
本当に素敵な女性ではありませんか!?」
だが、それでもなお怪しんでいるエメローナ、
第一、”素敵な女性”とは言うがそもそも私なんぞが該当するはずがないと思い込んでいるエメローナ、
彼女はそういう女性である。
「まあいいわよ、とりあえずそういうことにしといてやるから。
んで、この子を預かってくれるってワケ?」
男は頷いた。
「他種族には申し訳ないですが、現状は精霊族限定という形で引き取らせていただくことにしていましてね。
だからその子が精霊族というのならもちろん引き取らせてもらいますよ、
その子も仲間と一緒のほうが嬉しいでしょう」
つまりは孤児院みたいなことしているのかこいつ、
それに観測者ということなら信頼はできそうだ、エメローナは考えた。
「それにしても観測者多くないかしら?
第4級精霊ってそこいらに広がっているように感じるんだけど?」
「それは私も思いますね、それこそパワーバランスを狂わせる一因にもなりえること、
精霊界は一体何を考えて――いえ、すみません、口が過ぎました……」
「ううん、あんたの言う通りよ。
でも、言ってしまえば苦肉の策ってことなんでしょ、
問題はそれが度が過ぎているというのはあんたが考えている通りであること。
これは近いうちに何か方策を考えないといけないってわけね――」
男は頷いた。
「心よりお待ちしております……とはいえ、私が生きている間にそれが果たされることはおそらくないでしょう。
私はもう長く生きすぎました、もってあと20~30年の命でしょう――」
こいつ、案外年取っているんだな、エメローナは考えた。
「そんな状況なのに子供増やして悪いわね。」
「そんなことは気になさらないでください、
むしろ”彼女”は大喜びすることでしょう、あなたの役に立つのですからね」
そんな物好きがいるのだろうか、そう訊いたエメローナは――
「はい、名前は確か”オルダナーリア”という女性、同じく観測者の血を受け継ぐ者です。
精霊シルグランディアの役立つとあらば喜んで引き受けることでしょう――」
オルダナーリアってまさか――エメローナは訊いた。
「どこかで聞いた名前ね、確か――ラトリアの子だったっけ?」
「我らが観測者のリーダーとなる人物の子……
彼女には自由を謳歌してほしいものですが、まあ、彼女には彼女なりの自由があるのでしょう、
今は幼い子供たちの面倒を見るのが嬉しいようです」
「そうは言うけどね、彼女、あんたが思うほど幼くはないんだけど。
流石に1,000年以上も生きているんだからいっぱしの大人よ」
「え!? そういうもんですか!?」
エメローナは悩んでいた、こいつにこの子を任せて大丈夫か、と……流石は高位の精霊たる鈍った価値観だな、と……。
「まあいいわ、面倒を見るのはあんたじゃなくてオルダナーリアなのね――」