ドラゴン・スレイヤー ~グローナシアの物語~

第3章 東の大陸へ

第71節 ブラック・ホール・ストマック

 あの後、エンケラスのハンターズ・ギルドにて、 例によってあのローナスを呼び出すと、そのままレストランに行って話をしていた。
「まさか本当に幽霊だったとはな――」
 バルファースがそう言った、彼らの間でもローナスは有名人、 しかも本当は幽霊なんじゃないかとまことしやかにささやかれていたのである。
「ひとえにシルグランディア様様のおかげっすよ。 俺はそもそもそこいらの地縛霊みたいな存在なもんですから目的を与えてもらったおかげでこうしていられるんですけどね。 それにしても――」
 と、ローナスはとある御仁を眺めながら言った。
「まさか同じ死人がこうして――たらふくメシ食っている光景を見るのは何とも妙な感じがしますね――」
 それはクローザルのことだった。
「言いたいことはわかる! だが言うな!  現世に……グローナシア1,000年の世にはこのようなものがあるとは!  この世界の者たちはなんと恵まれているのだ!  我がフレアガルディスの時代でこれほどのものは食べたことがないぞ!」
 無茶苦茶食ってるクローザル、だが、それ以上に問題なのは――
「ふんふんふん、次は何を食べようかしら?」
 エメローナだった。
「まだ食べるのか? もう10皿平らげてるぞ……」
 この女食いすぎな件。
「人間、食うために生きているからね。 私としては真の創造精たるもの、食を作る側としてはこういうのを知らないではすまされないからね、 だから人の世に降りた際には可能な限り食を知るために食うことにしているってわけよ。」
 本当かそれ? それにしても――
「真の創造精? 真のって?」
 カイルは素朴な疑問を訊くとローナスが答えた。
「通常、”創造精”って言ったら第1級精霊様のことを言うのさ、この世界を創造せし神になり替わる存在ゆえにな。 だが、このシルグランディア様は万物の作り手なるまごうことなき創造の精霊様、 どちらも創造の精霊と呼ばれる存在ゆえに呼び名がかぶっちまっているってわけだ」
 そのため、普通の”創造精”が第1級精霊、シルグランディアは”万物の作り手”または”真の創造精”と表現して区別しているのだそうだ。 確かに”万物の作り手”なる存在であればこちらが”真の創造精”と言われたらまさにその通りである。
「だからって、そんなに食べる必要はないと思うのだが……だいたい、そんなに頼んで食べられるのか?」
 フレアは呆れ気味に訊くとエメローナは得意げに答えた。
「ええもう断然余裕っしょ。 まずはこのクリームパスタとなんたらカレーってやつ、それからこのピラフでしょ?  あとは……ああ、この野菜のパスタもおいしそうねえ? それと……さっき肉食ったから今度は魚料理も欲しいところねえ?  それと――」
 まだ食うんかい! どうなってんだこの女!
「す、すごい食べるのね――」
「エメおねーちゃんすごーい! たくさん食べるんだねー!」
「それなのになんとも上品な食べ方をなさるのですね――」
 ディウラは閉口し、ザードはきらっきらとした目で感動し、オルダナーリアも唖然としていた。
「お姉さまのお腹って底なしなの……?」
「いや、おそらく胃袋がブラック・ホールか何かなんだろ」
「生きたブラック・ホール――」
 一方でパティは心配していると、バルファースとカイルは皮肉っていた。

 その夜、エメローナはアイスクリームを……まだ食ってる――。
「いやあもう、やっぱり大浴場ってのもいいわね!」
 女性陣はお風呂上がりだった。
「ホントですねー! ところでザード君は?」
 パティが言うとディウラが答えた。
「さっき、僕は男の子だから男同士で入ってくるんだって言ってましたよー?」
 こうして、彼もまた大人になっていくのか。

 そのあと、男性陣と合流した女性陣。
「まだ食ってる――」
 え、ウソ……カイルはそう漏らすと、ほかの男性陣も呆れていた、 今度はほかの女性陣やザードと共にチョコレートパフェを食べていたエメローナ。
「そ、それでさ、これからどうするんだ?」
 カイルは訊くとフレアとエメローナが答えた。
「そうだな、あらかたアーティファクトも集まったことだし、いったんエターニスに戻る……でいいよな?」
「そうね、これで全部ってわけじゃあないけど、 世界に起きている問題を調査するうえで必要なサンプルとしては十分って言ったところでしょ、 肝心の”ドラゴン・スレイヤー”もあるみたいだし――」
 ”ドラゴン・スレイヤー”といえば――カイルは机に出して見せた。
「これか?」
 エメローナはそれをまじまじと見つめていた。
「どうだ? どんな感じだ?」
 フレアは訊いた。
「そうね、これはこのまま使うんじゃあちょっと厳しいわね、 どう考えても直しが必要ね。」
「直せる人がいるのか?」
 カイルは訊くとフレアが得意げに答えた。
「目の前の万物の作り手に向かってずいぶんなことを言う――」
 え、それってまさか――
「まさかも何も、私がやるに決まってんでしょ? ほかに誰がやれんのよ?」
 た、確かに……”真の創造精”と言われる存在なら間違いないか。
「あ、それでいうと一つお願いがあるんですが、いいですか?」
 と、パティはだしぬけに訊いてきた。
「これなんですけど――」
 例のハードケース、例の機構について尋ねたところ――
「あら、面白いもの持っているわねあなた!  これ、いつのだっけ、確か500年前に同じものを作ったわね! もしかしてこれがそうかしら?」
 まさかの彼女の作品だった……あんたどんだけだよ。