そんなこんなでこの世界にあちこち足跡を残しているこの女。
精霊界とを平気で出入りできる身体が故に好き勝手しているといわれればそれまでだな。
レンドリア方面道中、オルダナーリアはふと立ち止まった。
「なんだ? どうした?」
バルファースは訊くとオルダナーリアは答えた。
「そういえば昔、この辺に”嵐の呼び子”って言われる恐ろしい使い手がいるという話を聞いたことがありますね」
なんだそれ? カイルは訊くとフレアが答えた。
「100年前ぐらいの話だな、この辺りにいた冒険者たちに腹を立てたやつがそいつらのことをボコボコにしていったということがあってだな、
そしてそいつはまるで嵐があったかのように暴れると嵐のように過ぎ去っていった、ゆえに”嵐の呼び子”と呼ばれたんだそうだ」
腹を立ててボコボコにしていったってずいぶんなやつだな、そう思っていると――
「だが、本人がいる前だからな、せっかくだから聞いてみるといいだろう」
と、フレア――本人って?
「あら! 懐かしいわね”嵐の呼び子”!
あん時は悪漢共が絡んできて頭にきたからボコボコの再起不能にしてやったのよ。
後で聞いたところ、どうやら指名手配されていたみたいだし、いい気味よね♪」
って! やっぱりお前かい! やっぱりおっかない女。
「どこにでも恐ろしい女がいたもんだな。
それこそ、この先の雪原地帯にも”不知火の雪女”ってやつがいて、
男どもを八つ裂きにしたっていう話があるらしい……60年も前の話らしいがな――」
と、バルファース、いーや、それって――
「八つ裂きになんかしないわよ!? ちょっとヤキ入れてやっただけよ!」
ですね。この間もボコボコにしてたもんな。
「あれもお前かよ……」
バルファースは呆れているとフレアは続けた。
「この世界の各地で残されている似たような話の辻斬りの正体は大体エメローナだからな。
たとえばカイル、シュリウスで言うと”クロノリアの迷い卸し”っていう話があるだろう?」
それにはカイルも驚いていた。
「”クロノリアの迷い卸し”って200年も前の話!? あれもエメローナさんだってのか!?」
エメローナは頷いた。
「悪漢共に襲われそうになった時に返り討ちにした話だったわね。」
そんな何の気なしに言わないで……。
「ついでに……ドミナントでは800年前ぐらいに”ヴァナスティアの使徒”によって”凶獣”が倒されたという伝説があるが――」
その話を知っているものは皆反応した、まさか――
「あれは不可抗力よ、戦いは本意ではないけど、売られたケンカは買わないとね。」
伝説となっている話にまで絡んでいるとは……。
「すごいですね、”凶獣”と呼ばれる存在まで倒してしまうとは――。
”凶獣”討伐譚といえば、”アルガノーラムのメシア”と呼ばれる者が1,700年前に――」
クローザルはそういうが、それについてまさかの――
「”キング・ベヒーモス”でしょ? あんなんに絡まれたら……もうやるしかなかったわね。
それにしても、あれは流石に骨が折れたわねぇ……って! 歳がバレちゃうでしょ!」
いやもう手遅れです。そもそも自分から言ってるし。
それにしても、伝説にもなっている出来事に関与しているのかこの女。ますますエグイな……。
といっても、自らに降りかかる問題に対して対処しただけと言われればそれまでなのだが。
しかし、それにしてもエグすぎる。いずれも喧嘩売った相手を間違えただけというのはなんて皮肉だろう。
無論、こんな話はほんの一部に過ぎず、彼女が生きてきた2,048年の間に何度か発生している、
これまで語り継がれていないだけで……。
「少し、暴れすぎではないのか?」
「どう考えても私のせいじゃないでしょ? 痛い目見たくなければ私に突っかかってくるんじゃないわよって話よ!」
フレアは言うが、エメローナはそう言い返した、確かにおっしゃる通りなのだが。
「けど、精霊界の精霊なのに、どうしてこっちの世界に?」
カイルはそう訊くと、フレアはぼそっと「お、いい質問だな」と意地が悪そうに言った。
それに対してエメローナは答えた。
「それはセント・ローアの時代に精霊界のシステムを何とかしてほしいっていう依頼受けて身を置いているだけ、
用が済んだらおさらばしようと思って外に出る準備をしてんのよ、私の代からね。」
どういうことだ?
「精霊界から容易に外に出られる身体だってことはわかったけど、
それでもずっとこっちにいても問題ないのか? というか、セント・ローアって確か……」
カイルはそういうとバルファースが言った。
「ローアは20億年前のことだ、2,000年生きているというあたり、明らかに計算が合わないな。
ってことはだ、あんたは代々その精霊界のシステムとやらを何とかしてきていると……」
エメローナは頷いた。
「そういうことになるわね。
そして精霊界を去るというのは私じゃなく、私の血に連なる誰かってことになるってわけね。
その際は生命の流れはユグドラがなんとかするから、
ユグドラが生まれ変わった私を人間界の生物として存在させてくれるように調整してくれるってワケね。」
そういうことか。
すると、目の前には魔物の群れが――
「出たなー! 早速私の蹴りをお見舞いするよー!」
と、パティ……蹴り?
「あの魔物はミサイル・ガードだな、飛び道具の効きづらいやつだ」
フレアはそう言った、すると――
「蹴りと言うからには私もお手本を見せないとねぇ……」
と、エメローナは言った、フレアは頭を抱えていた。
「そうだった、シルグランディアはハイキックで力の精霊エガレストを一撃でぶっ飛ばしたという逸話があるほどの威力だと言われている、
本当かどうかは知らんが――」
え、マジで……
「まあそうね、これまで現れた悪漢共は全部私の足のエジキになっているから、とーぜんといえばとーぜんよね?」
マジですか! まさに地獄の蹴り! なんて末恐ろしいことをするんだ……。
「なーんか、とんでもない女が一緒に来ることになったな……」
「うぅ……これは絶対に逆らった途端にアビスに放り込まれますね――」
バルファースとクローザルは冷や汗をかいていた。