エメローナはリッチに訊いた。
「ところでさ、あんたどうしてそんなんになっちゃったわけ?」
その様にリッチは悩んでいた。
「それにしても、なんとも肝が据わっておるな、
このような姿の者を相手していてもなお怯むことを知らぬとは――」
言われてみれば確かに。
骸骨姿の悪霊……そんなん相手にマトモに話をしているあたり、どう考えても普通の神経していないのは間違いない。
「まあね、もっとエグいの見てきているからね、骸骨のお化け程度じゃあ驚かないわよ。
逆に……今の精霊界で幅を利かせている重鎮共にあんたの姿を見せたらひっくり返っちゃうかもねぇ♪」
そうですか……やっぱりあんた、ただものじゃないな。
「質問に対する問だが、別に禁術に手を染めたとか、そういったことではない。
このクラロルトの地にはたまたま闇のマナが集中していただけのこと……
そして、この折に天変地異が起きてな――」
エメローナはうなづいた。
「つまり、古クラロルトの民たちの無念が集まり、闇のマナによって作られたのがあんた……まさに怨念ってワケね。」
「左様。そしてこの闇の力によって躯たちもざわめき始めた……それが今のクロット洞穴の正体というわけだな」
なんだ、話せばわかるやつじゃん、エメローナはそう思ったが、ますますどういう神経してんだよあんた。
ってか、そういえばほかにも幽霊の知り合いいたなあんた。
「そうね、ここで会ったのも何かの縁、私に協力しない?」
リッチは耳を疑った。
「な!? 何のつもりだ!?」
「訊いての通りよ。実は今、ちょいと面倒なことになってんのよ。
そのためにちょっと人手がいるんだけど、あんた同じ時代の馴染みだしさ、ちょうどいいかなと思ってね。」
何がちょうどいいんだ、リッチは悩んでいた。
「ま、まあ……是非にというのであれば考えてやらんでもないが、
それによって我になんのメリットがあるというのだ?」
シルグランディアは調子よく答えた。
「魂を冒涜する最上位不死者の存在だったけど不可抗力じゃあ仕方がないわよね?
なら、その身の証として私に協力してくれたら、アビス行きは回避できるかもしれないってわけよ、いかが?」
そう来たか……リッチは悩んでいた、そういうことなら確かにこの女に協力したほうが賢明だろう、そう思った。
「だがしかし、我の身体はとうに朽ち果てていて、御覧の通り今やただの悪霊の姿でしかないのだぞ、
表に出ても問題ないものなのか?」
すると、エメローナは――
「これは特殊な魔法、まさに精霊の力よ。
私の名はエメローナ=シルグランディア、万物の創造者……
この者に相応しい身体を与えなさい――」
するとなんということか、リッチの身体が見る見るうちに血肉の通った姿へと変貌していく!
「なっ!? こ、これは……!?」
「とりあえず、この世界で活動するために一時的に貸し与えた身体よ、
だからもちろん時が来たら返してもらうからね。」
これは――この女の言うことを聞かずにはいられなさそうだ。
リッチは感動しつつも、背後のほうにあったとある箱を手に取ってそれを確かめていた。
「ずっと気になっていた……この身体を得て、ようやくこの箱を手に取ることができた……」
そして、リッチはそのまま箱をエメローナに手渡した。
「探していたのはこれですか?」
エメローナは頷いた。
「これはオルゴール、ということは”天の風琴”……間違いない、アーティファクトね。
そして、こいつがこの上のほうで”天狗風”を起こしている最大の原因――」
なんてことだ、まさか本当にアーティファクトが原因で、こんなところにあったとは。
「この辺りは主に闇のマナが豊富です。
ここが死者の国となっている背景はもちろん、凶獣と呼ばれる存在が群がってくることもあり得ます。
それらがそのアーティファクトの影響を受けて気候を不安定なものにしてしまっているのでしょう。
そして、エメローナ殿の言う邪悪な存在の原因も――」
エメローナは頷いた。
「直接は関係ないけど、それでも因果関係はあるわね。
ま、具体的な話についてはそのうちするとして、とにかく世界のマナの状態が……パワー・バランスが崩れているのよ。
それによって現れてはいけないハズの存在が生み出されようとしている……
例えばあんたみたいなリッチみたいなのが意図せずに生み出されているのもそういったことが考えられる、
もちろん、精霊界がわざわざアーティファクトなんて人の世で作り出された代物を探し出しているのもパワー・バランスが崩れているがゆえにビビッているからってことなのよ。」
起きている事態は、意外と深刻なものだった。