ドラゴン・スレイヤー ~グローナシアの物語~

第3章 東の大陸へ

第68節 死者の国へ

 鉄格子を破って中に入り込んだエメローナ、 これは見るからに明らかに”出る”ダンジョン……備えは1つである。
「美人ヴァディエス様お得意の聖なる魔法の出番ってわけね。 さあ、行くわよ――と、その前に……」
 エメローナは自らの刀を左手で構えると、右手を刃にあてていた。 次第にその剣は光り輝く白い光に覆われていく――
「まずは小手調べってところね。」
 すると、目の前には骸骨の兵隊やすでに朽ち果てた躯たちが――
「早速のお出ましね。 いいわよ、その安っぽい歓迎、受けてあげようじゃないのよ!」
 エメローナは右手をかざすと、その手から聖なる魔法が放たれた!
「ディスペル・アンク! まずは下級アンデッドの下処理からね!」
 さらに――
「スタニング・フラッシュ!」
 スタンというのはよろめいて膝をつくこと、転じてスキを作ることを言い表す。 そういうところに着想を得てか、スタン系の魔法というものがある。 だが、魔法の属性ごとにスキを作り方はいろいろとある。
 例えば火属性の”スタニング・ブロウ”は爆炎を相手にぶっ飛ばして驚かせるというもの、 これは効果が効果なだけに攻撃魔法としても機能することが最大のウリでもあるスタン系魔法だ。 その一方で土属性の”スタニング・インパクト”は土属性ゆえに激しい揺れを起こすものではあるのだが、 確かにスキを作るうえではとてつもなく強力な半面、攻撃手段としてはまったく使えず、 さらには効果ゆえに飛んでいる相手には全く効かないなど、スタン系魔法と一口に言っても効果はさまざまである。
 そして聖属性”スタニング・フラッシュ”だが、 その名の通り激しい光を発して相手をビビらせるという特徴ゆえに性能のほうは案外そこまででもない――のだが、 光の明滅という特徴から相手の視力を妨害するという副効果に期待されることが多い魔法だったりする。 だが、激しい光が聖なる魔法から繰り出されるという特徴ゆえにアンデッドに対しては絶大な効果を発揮し、 高い確率でひるませる効果を持っているのが特徴である。
「オラオラオラぁ! ひるんでる場合かお前らぁ!」
 そこへ敵を片っ端からぼこぼこにしているエメローナ、エグい……。そして――
「行くわよ! ”ホーリー・バースト”っ!」
 聖なる光を炸裂させると、その光で周りの不浄なる連中は灼かれていった……。
「ふぅ……これで中級と、上級の一部のアンデッドも浄化完了ってところね。」

 ということで、洞窟の最深部へとやってきたエメローナ、そこには問題のやつが……
「ほう……命あるものがこんなところまでやってくるとはな……」
 そこにいる黒い存在はそういうとエメローナは得意げな態度で答えた。
「まーね、戦乙女ヴァルキリーってのはそういうもんでしょ?」
「ほう? なんだそれは? 聞いたことないが……」
「そう? じゃあ教えてあげよっか? お前みたいな魑魅魍魎を浄化していく女ってことよ、お分かり?」
 黒い存在はニヤっとしていた。
「まさかここまで愚かな者が来るとは思ってもみなかったぞ……。 確かに、ここまで来れたのだからそれ相応に腕に覚えがあるのだろう、それだけは認めてやろうではないか。 しかし……だからと言ってこの我を負かせようとは思わぬことだ!  そう……我はこのクラロルトの主にして最上級不死者である”リッチ”なのだからな!」
 まさに骸骨のお化け!  骨だけの存在のまさにザ・悪霊というべきそいつが姿をあらわにしてきた!  が……それに対し、エメローナは妙に冷静で、腕を組んで考えていた。
「なんだ? どうしたというんだ?」
 リッチは訊くとエメローナは答えた。
「”クラロルト”を知ってるってことは”フレアガルディス”生まれってことなのね。 でも、今のこのグローナシア1,000年の時代だと”クロット”っていうんですって、 忘れられた地で完全に封印されていたんだけどさ。」
 そう言われてリッチは驚いていた。
「なんだと!? ”フレアガルディス”の時はとうに過ぎ去っただとぉ!?  グローナシア……しかも1,000年だとぉ!? どうなっているのだぁ!?」
 エメローナは得意げに答えた。
「時の流れは早いってことよ。 私も気が付いたらまるで聞き覚えのない地名だらけで勉強しなおしよ。 でも、幸いなことに、ドミナントとヴァナスティア、そしてエターニスあたりは創世当時のまま変わっていないみたいだから、 そこは認識が通るかもしんないわね。」
 そう言われてリッチは身構えていた。
「な、何を言っているのだ!? 貴様は何者だ!?」
 エメローナはうなづいた。
「私もあんたと同じフレアガルディス時代生まれのフレアガルディス時代育ち、 御年2,048歳のお姉さんってことよ。」
 リッチの頭はショートした。

 リッチは冷や汗をかいていた、骨だけの存在なのにどうやって汗かくんだろう……。
「よ、よもや高位の精霊だったとはな――」
「あら? あっさり信じるのね?」
「このような死者の国にすんなり入って来れる者、 それにシルグランディアと言われればその噂は聞いておる、 精霊界入りを果たした存在にして”メシア”由来のとんでもない跳ねっ返りで無茶苦茶な女――」
 そういわれてエメローナはずっこけた。
「ったく! どいつもこいつも跳ねっ返りで無茶苦茶言うし!  まさかこんなやつにまで言われるとは思ってなかったわ!」
 思えよ。ちょっとぐらいは。
「だからナレーションもそう言うのやめろっつってんだろ!」
 あはあはは。
「ふぅむ、精霊シルグランディア相手とあらば分が悪いな……。 まあよい、ここでしばらくじっとしているのもそろそろ飽きてきたことだし、潮時ということだな――」
「あれ? 諦めちゃうの?」
「諦めたくはないが、相手がたとえエガレストであればまだいいが、 フローナルやシルグランディアには手を出すなと言われているそうだ、 それなら仕方があるまいな――」
 エガレスト、力の精霊か……。