ドラゴン・スレイヤー ~グローナシアの物語~

第3章 東の大陸へ

第67節 百聞は一見に如かず

 宿屋を泊って改めて考えていたエメローナ。
「次はクラットだかクロットだったか、そんな場所だったわね、 場所はクラック・アルコズっていう山脈のふもとだったかしら?  近くまで行って確認してみる必要がありそうだけど――んなところに山脈なんか走ってたかしら?」
 エメローナは悩んでいた。
「ま、百聞は一見に如かずっていうぐらいだからね、実際に行ってみないことにはわからんか。」
 ということで、早速行動に移すことにしたエメローナだった。

 改めて、エンケラスの街並みを堪能することにしたエメローナ。 都会の街並みとでもいえばいいのだろうか、だが、シュリウスに比べると下町感漂う田舎臭い街並みである。
「なんか、どことなくゴミっぽくてかなわんわね、やっぱり、散策するのはやめようかしら……」
 エメローナは悩んでいた、バリケードみたいな性格しているクセに案外デリケートなんだな。
「誰がバリケードじゃ! 表出ろやゴルァ!」
 だから、ナレーションにつっこむなってあれほど以下略で。 とにかく、仕方がないので彼女は町の奥まで入ることは避け、近場で用事を済ませることにした。
「ナレーションお前、夜道は背後に気をつけろよ。」
 あかーん……これは絶対殺されるやつだ……。

 ナレーションの死亡フラグが立った今、この話の行方が危ぶまれる事態となったが、 とにかくエメローナはアルケリアと呼ばれる町までやってきた。
「よう姉さん! まさか、これから山登りかぁ? やめとけやめとけ!  今まさに”天狗風”の真っただ中だからなあ!」
 まだ何も言ってないんですけど――エメローナは呆れていた。
「お前はRPGか。てか、”天狗風”ってそんなにひどいの?」
「アールピー……なんだそりゃ?  ひどいとかそんなレベルのもんじゃねえぞ、有り体に言えば―― 何人たりとも立ち入るべからずっていうやばいレベルだからなぁ!  あーあー、こいつのせいでヴァナスティア様への献上品を運ぶルートも途絶えちまった、 まだ”千年祭”までに時間の余裕があるのが唯一の救いだが―― それでも急かされる側としては早いうちに何とかしたいもんだな」
 なんかいろいろとべらべらしゃべるやっちゃな、エメローナはそう思った。 それにしてもヴァナスティア1,000年ってなんの祭りなんだろう?  エメローナは考えるとすぐに気が付いた、そうか、今は”グローナシア”時代、 そしてそれがもうじき1,000年目になるんだっけ。
「南にも港町あるじゃん、そっから出さないん?」
 エメローナは疑問をぶつけた。
「ヴァナスティアに行くにはここから西のアルガンスラに行かなければならないが、 南のリンブラールからアルガンスラに積み荷を出すとなるとちょいと高くつくんだよな。 だから基本的にはクラック・アルコズを越えて西のアルガンスラをとるルートのほうが人気になる。 なんたってヴァナスティア様への献上品とはいうが、それってのはつまり無報酬にも等しい額になるのは必至だからな、 となると、金のかかることは極力避けて通らねばクライアントは首を縦に振ったりしねえのさ」
 ああ……背に腹は代えられないってやつ……。

 翌日、エメローナはまだ日が昇らないうちにクラック・アルコズへと挑んだ。 周囲に見つかると止められること請け合い、だから人目のない時間帯を狙ってやってくることにしたのだった。
「確かにやばい風ね、”天狗風”――」
 山に登って間もないころ、すでに強風域へと入り込んでいたエメローナだが、 上のほうではものすごい風が轟いていた。
「けど、この風――明らかに普通の風ではないわね――」
 エメローナは周囲を見渡していた。
「ここは分岐路ね、本来は左に行く道があるハズなのにいけないように塞がれている……」
 エメローナは意味深な山肌に触れて確かめていた。そして――
「この山肌は全部岩壁だと思うけど、ここだけ土砂の塊ね。ということはつまり――」
 すると、彼女はその壁を思いっきり破壊した!  壁が見る見るうちに崩れ去ると、その奥には道が――
「この辺りにはクラロルトの町があったハズ、それが今やこんな山脈が走っていて町がなくなり、 そして、忘れ去られたものがあるってわけね――」
 さらにその道を進むと、非常に狭いスペースに建物の残骸が。
「地殻変動で影も形もなくなってしまった町の姿、そして――」
 ふと、横に目をやると、そこには錆びた鉄格子に閉ざされた洞窟が――
「ここがそのクロットの地下墓地洞窟ね、あの第4級精霊もどきの幽霊が言うんだから目的の場所はここで間違いないでしょ。」
 エメローナは得意げにそう言った。