ドラゴン・スレイヤー ~グローナシアの物語~

第3章 東の大陸へ

第66節 シルグランディア研究紀行

 エメローナはエンケラスへと向けて進んでいた、 クロットも”天狗風”も気になるが、エンケラスのほうが近いのだ。
「精霊様ゆえの力の制限を受けている気がするんだけど、 この程度の魔物もなんとか斃せるわね、ただ――」
 エメローナは息を切らしていた、そこそこに激闘だったのである。
「やめやめ! 予定変更! 今日はもう休みましょ!」
 そのまま洞穴に入る予定だったがやっぱり町に立ち寄って一晩明かしてからと考えたのだった。

 次の日――そうそうにエンケラス洞穴へとやってきた彼女、洞穴内では慎重に歩くことにした。
「昨日の巨獣のねぐらみたいね、こいつらがここのアーティファクト入手を阻んでいる原因ってわけか……」
 目の前には大きな魔獣が大いびきをかいて眠り込んでいた、 見るからにサイのような四足歩行の獣がその場で突っ伏して眠っているのだ。 起きたら昨日以上の激闘になることが想像できる……エメローナは考えていた。
「ミスト・シェイドで姿を消すだけじゃあ隠れきれそうにないわね、仕方がない――」
 エメローナは悩んでいた。
「これならミスト・シェイドをオール・イン・ワンなメタルギア・スペルにしたほうがいいわよねえ……」
 エメローナはさらに悩んでいた。こっそりネタをぶち込んでくるなよ。
「まあいいや、とにかく……ミスト・シェイド!  それから……サウンド・フリーズ! あとは……キープ・ブリーズ!  姿をくらまして、音反射と匂い分散も無効化すれば十分でしょ!  本当に煩わしいわね、絶対に改良したほうがいいわね!」
 こうして、後世のミスト・シェイドには様々な隠蔽効果が付いたことは言うまでもない。 別の名前の魔法になっているかもしれないが。

 そして――
「面倒かけんじゃないわよ。 とにかく、こいつはいただいていくわね――」
 と、エメローナはなんと、まるで悪魔のような魔物を自らの剣で一突きにしてしまっていた。 そして、祭壇の上にある箱を取り出した……。
「これ――なんだろう、持っただけでなんだか嫌な感じがする代物ね、 箱の大きさと丁寧な木箱、そしてこのデザインからするとおそらく調度品――」
 エメローナはそっと箱を開いて中身を確認した。
「布? これは掛け布かしら? ということはつまり――」
 エメローナは布越しにそれを触り感触を確かめていた。
「ふちがある……この形状から察するにきっと鏡ね。第4級精霊もどきに聞いてみようかしら?」
 そして――エメローナはあたりを見渡すと、そこには何人もの人間の死骸が――
「今の魔物にやられた連中ね、ちょっと待っててね――」
 すると彼女は箱を閉じると祭壇の上にいったん置き、魔法を唱え始めた――
「この魔法の考案者はヴァナスティアの開祖たるヴァディエス様と呼ばれているわね。 さて、それがどんな魔法なのか教えてあげるわね。 さあ、無念にもこの場で力尽きてしまった生命たちよ、 安らかに……さっさとマナに還りなさいな、ディスペル・アンク――」
 死骸に執着していた魂は浄化され、マナへと還元されていった。 そしてその魂は生命の流れをつかさどる”ユグドラ”へと還ると、 新たな命となることを夢見てそのときを待つのだろう、輪廻転生というやつである。
「ディスペル・アンクっていわゆるターン・アンデッドの魔法よね、よくできてるわ。 流石はヴァディエス様よね、きっと美人に違いないわ。」
 そこ、ポイントですか……。

 エメローナはそのままエンケラスの町まで戻ってきた。 周囲を見渡していると、エメローナは気になっていたことを考え始めていた。
「そういやスカートの女って多いわね、私もワンピーススカートだけどさ。 古の英雄であるメシアの女にあやかってスカート派が多いって本当かね? どんな女だよ?  話だと相当の跳ねっ返りの無茶苦茶な女だって聞いてるけどそんなんがいいのかよ?  一応私、その子孫だって聞いているだけど本当かよ……どういうご先祖様だよ……」
 エメローナは呆れつつ考えていた、あんたもその片鱗を思わせる気がするんだが。
「私のどこが無茶苦茶な女だ! 言ってみろやお前!」
 いや、そういうとこ……って、ナレーションにつっこんでくるんじゃねえ。