ドラゴン・スレイヤー ~グローナシアの物語~

第3章 東の大陸へ

第65節 原因

 自らの業物の刀に改めて焼きをいれて手入れを行っていたエメローナ、それに対して何人かの鍛冶師が――
「あの、それはそれでちょっと耐久性が気になるのではと――」
 すると、エメローナは得意げに――
「だったら試してみる? さあ、来なさいよ?」
 えぇ、来なさいっていうのは――
「私に襲い掛かって来なさいってことよ、得物はなんでもいいけどね。」
 そういうことなら――得物めがけて自作の剣でとびかかった1人の鍛冶師、だが――
「ふん……」
 エメローナは刀の、所謂平地の部分を使って剣を撃ち払うとそのままそいつの足めがけて蹴りを入れた!
「ぐおっ!?」
 そして、そのまま転ばせると、刃先を鍛冶師の首元に――
「ま、参った――」
 エメローナは刀を納めた。
「今のでわかったでしょ、ブツを作るのなら相手のニーズに合わせること。 頑丈な剣を作るつもりなら見た目相応の強度を担保すること。 私の場合は相手を確実かつ正確に仕留めるための芸術品を必須要件としているからできたのがコレってわけ。 そうなると耐久性とのトレードオフにはなるけど、 今みたく自分の戦いの技量で相手の攻撃を交わすように戦うのが私のやり方…… つまり、まさに耐久性を引き換えに相手を確実かつ正確に仕留める得物っていうニーズにマッチしているってわけね。」
 なるほど……モノさえ作ればいい……今までそう考えてきた鍛冶師連中は改めてモノ作りについて考えさせられていた。 するとそこへ――
「エメローナさん! あの連中が目を覚ましたようです!」
 医者先生が彼女を呼びつけていた。

 エメローナは医者と共に宿屋に戻りつつ話をしていた。
「そんなシルグランディアが作るような刃に耐久性の問題などあるわけないですよねえ?」
 エメローナは頷いた。
「まあ……少なくとも、連中が作るような得物程度なら問題ないわね。 でも、自分が作った重剣みたいなものを受けられるかといわれたら、それは流石にねぇ……」
 医者は頷いた。
「まさに矛・盾の世界ですな。 しかし、シルグランディアにとってそもそも攻撃は受けるものではなく避けるものですから、 矛と盾で付き合わせること自体が野暮というもの……言われてみればその通りですな、失礼いたしました――」
 まだ何も言ってないんだけど――シルグランディアは呆れていた、 確かにその通り、そもそも当たらなければどうということはない……?

 ということで、ケガを負っていた連中の元へとやってきた医者とエメローナ。 そこにはケガを心配していた連中もそろっていたが、それ以外にもなんとも物々しい―― お偉方も一緒にいた。
 すると――
「あんたたち、医者か? できれば部外者はお断りしたいところだが――」
 そのお偉方がそう訊いた。それに対し、エメローナが得意げに答えた。
「ええ、そうよ。 ここの診療所はそこまで大掛かりな設備がないものでね、 だからある程度見える範囲での治療しかできていないのよ。 具体的にどんな目に合ったのか、ほかに何処か痛むところがないのかを確かめたいと思って話を聞くつもりだったのよ。」
 よくもまあ適当なことをぬけぬけと――医者は冷や汗を垂らしていた。
「そ、そうか……そう言うことであれば止むを得んな。 なら、申し訳ないが、これから話すことについては他言無用でお願いできるか?」
 まあそう来るわな、医者とエメローナはそう思いつつ頷いた。

 話は続いた、すると――
「クラック・アルコズ?」
 エメローナは訊くと医者が答えた。
「ここから南西方面にある山道だな、 ”天狗風”と呼ばれる嵐のせいで通行する者を奈落の底に叩き落すとされている――」
 それに対し、お偉方は考えた。
「だが、そこでケガをしたにしては妙だな、そこでケガをしたのならもう少し南の町…… 特にエンケラスあたりが近いはずだが、何故ここまでこれたんだ?」
 それに対してエメローナが答えた。
「かまいたち……」
 どういうことだ? お偉方が訊いた。
「手術前に魔法で治療したんだけどすごい数の切り傷がね…… 風の刃による傷害だと当人が気が付かず急にちょっとした歪みでいきなり出血するケースがあり得るから怖いところね、 言っても普通は酷いケースはないハズだし、骨折だって――」
 それについてお偉方が話した。
「つまりは時間差か、そういうこともあるのだな。 確かに”天狗風”がクラック・アルコズを難所にしている要因というのはあるな。 こいつの通り、”天狗風”が吹いただけで死傷者が出ることなどごく日常のこと、 そっちの医者先生の言うように、通行する者を奈落の底に叩き落すような難所だからな――」
 そんな場所があるのか……エメローナは考えていた。